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対立を呼ぶXの危険な拡散力 規制するなら大人が先か

『子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由』(岡嶋裕史 著、光文社)

ひらめきブックレビュー

「未成年のSNS規制」が話題だ。海外の複数国に続き、X(エックス)やインスタグラムなどのSNSの、未成年の利用規制が日本でも検討され始めた。SNS上での誹謗(ひぼう)中傷や炎上による甚大な被害を考えると、やむなしと考える人もいるだろう。

本書『子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由』は、そんな論調に一石を投じる一冊。SNSの現状を踏まえ、炎上対策に力点を置くのならば、規制すべきは子どもの利用ではなく大人がXを使うことと説く。

この主張を支えるのが「XはSNSではない」という考えだ。これを起点に、SNSの種類ごとの歴史や機能の違い、社会構造の変化などを下敷きにして持論を展開している。

著者の岡嶋裕史氏は中央大学国際情報学部教授で情報学の専門家。著書に『Web3とは何か』(光文社新書)などがある。

フィルターバブルを作るのがSNS

著者の定義では、SNSとは「閉鎖系サービス」である。友だち同士でつながり、同質で心地良い空間を作る。自分とは異なる意見が見えなくなる、フィルターバブルと呼ばれる状態を提供するサービスだ。一方、Xは「拡散系サービス」だ。情報を広く拡散する機能が突出しており、フィルターバブルをあっさり突き崩す。ゆえにSNSの定義に当てはまらないという。

思い浮かぶのが、飲食店などでの不適切行為のSNSへの投稿だ。共用の調味料にいたずらするなどの行為は、常識的に考えれば良くないことだ。だが、閉鎖的な空間内、つまり仲間内で騒いでいる分には大ごとにはならない。そのうち近くにいた他人や店員が注意するくらいだろう。

だが、Xに載った不適切行為は地球の裏側までその情報がさらされる。しかもXは、その内容を嫌がるグループの元に情報を伝え、怒りの感情を利用するビジネスモデルになっているという。炎上や加害者への袋だたきは、視点が偏ったフィルターバブル同士の衝突という面があるのだ。

著者は閉鎖系的サービスを子ども時代の秘密基地に例える。ちょっと良くないことを仲間内で楽しんだ経験は誰しもあるだろう。だがXは公共の広場、しかも考えが合わない集団が高確率で存在する広場なのだ。そうイメージすれば、秘密基地でのやり取りをダイレクトに公共の場に持ち込む危うさが分かってくる。

炎上に関係するのは大人

危ういなら、やはり子どものSNS利用に規制をかけるべきだと思うかもしれない。だが、問題はそこではない。他者の言説・行為に我慢がならず、会ったこともない他人を執拗に攻撃するのをやめられない人たちの存在だ。Xでの炎上に子どもが当事者になることが少ないことを示す調査報告を挙げ、著者は悪意ある投稿の常習者は大人だと指摘する。そして規制によって彼らを「保護」すべきだと訴える。

具体的には、Xのアルゴリズムに手を加える対策などを示している。同時に、早くからネットに親しんできた自分が、X規制を主張することが「信じられない」とつぶやいているのが印象的だ。拡散系サービスは、個人の意見を世界に届ける民主的なサービスだったはず。規制が必要な空間にしてしまったことを、私たちは省みるべきなのだろう。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由

著者 : 岡嶋 裕史
出版 : 光文社
定価 : 990 円(税込み)

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