ノルマを達成した時やプロジェクトを成功させた時など、金銭的なインセンティブをもらうことがあるだろう。インセンティブは私たちのやる気を引き出す身近なものだが、その仕組みについて深く考えたことはあるだろうか。
本書『インセンティブが人を動かす』(児島修訳)は、「人の行動を変化させる動機」となるインセンティブについて、行動経済学などの見地から解説する書。金銭的な報酬のほか、表彰や内面的な満足など多様なインセンティブの事例を説明するとともに、ビジネスや生活での効果的な設計方法を考えていく。
著者のウリ・ニーズィー氏はカリフォルニア大学サンディエゴ校レディ経営大学院経済学・戦略学教授などを務める、インセンティブ研究の世界的第一人者。
矛盾するシグナルを避ける
インセンティブは「シグナル(メッセージ)」を送っている――。本書が提示する重要な視点だ。例えば、インセンティブが個人の業績に基づいて設定されていた場合、そのシグナルは「自分の業績を上げよ」となる。企業だけでなくサッカーなどスポーツの分野でもよく用いられるインセンティブだ。
一方でこうした個人に向けたインセンティブがうまく機能しないこともある。例えば、新人育成の場合、ベテラン社員は時間を割いて新人に仕事のコツを教える必要がある。しかし、インセンティブが個人業績に基づいたままだと、社員は「自分の業績だけに集中せよ」というシグナルを受け取る。ベテラン社員は自分の仕事を優先し、新人への教育の質や熱意は下がる可能性が高い。
この場合、インセンティブは「個人ではなくチーム全体の成長を目指す」という本来の目的に対し、「チームより個人を優先せよ」と矛盾するシグナルを送っている。このような混乱した状況が本書の原題でもある「混合シグナル(Mixed Signals)」だ。
著者は、混合シグナルを避けたインセンティブを設定しようと説く。新人育成の場合なら、チームの業績に基づいてインセンティブを与えると、社員は熱心に新人をサポートするようになるという。インセンティブとは組織や設計者の「本音」を伝える器とも言えそうだ。

ウエーターの前で払うのと封筒に入れる支払いを比較
人はインセンティブに必ず反応するが、人間心理は複雑だ。それを教えてくれるのがあるレストランでの実験である。そのレストランでは客が食事の価格を決める。支払金額を「ウエーターに支払う」場合と「封筒に入れて箱に投函(とうかん)する」場合とで比較した結果、なんと後者の方が金額は多くなることが分かった。
誰も見ていないなら金額は少なくなると思いがちだ。だが、「誰も見ていなくても私は良い人間である」との自己イメージを高めるため、より気前よく支払ったと著者は分析する。ウエーターが見ている前ではこの種の自己イメージは感じられない。金銭的な得よりも、自己肯定し満足感を得る方がインセンティブとして勝る場合があるのだ。
つくづく人間の振る舞いとは面白い。本書を読んでインセンティブの理解を深めれば、人の心の機微にも詳しくなりそうだ。
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

インセンティブが人を動かす
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