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AIで変わる知財の現場 戦略レベルで再定義

生成AIサミット(GenAI/SUM)2025 パネル討論から

生成AIサミット
2025年10月8日に都内で開かれた「生成AIサミット(GenAI/SUM)2025」のパネルディスカッション「知財戦略の未来予言:生成AIが描く10年後 powered byトヨタテクニカルディベロップメント AI Samurai」の様子

生成AI(人工知能)の急速な進化は、特許・知的財産業界にも前例のない変革をもたらしつつある。2025年10月8日に都内で開かれた「生成AIサミット(GenAI/SUM)2025」のパネルディスカッション「知財戦略の未来予言:生成AIが描く10年後 powered byトヨタテクニカルディベロップメント AI Samurai」は、自動車業界の様々な立場で知財業務に携わる3人が登壇。AIによる業務効率化の実績から、発明の質的変化や人間にしか担えない戦略領域まで、現場発の生々しい意見を交換した。

独自のAIアプリを導入 大幅な業務効率化を実現

気田 健久 氏 ジェイテクト/イノベーション本部 研究開発センター 研究統括部/知的財産部・部長(統括)

気田 健久 氏

「数千件の既存特許を調査・要約できる当社独自のAIアプリを導入し、無関係なノイズ特許を自動排除することや技術者が理解しやすい特許要約を自動生成することによって、それぞれ30%、60%の業務効率化を実現している。当社には数千人の研究者・開発者が在籍しており、各自の時間を30〜60%削減できる生産性向上はかなり大きい。技術者が社内のAIエージェントの仕組みを使い、生産工程における外観検査や特許の要約なども簡単にできる」

「イノベーション創出のため、AI活用は今後どんどん重要性が増す。既存の特許情報の分析から将来の技術課題を予測することができると考えており、世の中のニーズと自社のシーズをAIでマッチングする構想がある。技術者がブレーンストーミングに(AIを)用いることでアイデアの発想を広げたり、場合によってはそのまま出願につながったりするようになればよい」

「AIによって社内の様々な情報を統合的に分析すれば、従来、技術者が見逃していた着想の兆しや実施例をみつけられ、発明の質は間違いなく上がる。一方でどの発明がビジネスになるかの見極めは、引き続き人間の力と戦略性が要る」

「現代の特許業界は共創の時代であり、仲間作りや市場形成のためのポジティブな特許の使い方を、AIが加速すると期待する。AIとAIが交渉するわけではなく、企業間は人と人のつながりだ。実務が効率化するからこそ人を動かす、協力する、説得する能力は知財担当者に必要になる」

発明・発掘を効率化へ アイデアを自動収集するツールを構想中

檀野 隆一 氏 トヨタコネクティッド 先行企画部 エグゼクティブエキスパート/弁理士

檀野 隆一 氏

「生成AIの得意な点は、文章変換・要約などの機械的な作業の高速化、先行技術調査の速度向上と範囲拡大、既存技術の網羅的な列挙、派生アイデアの発見などだ。一方で、不得意な点も多い。例えば、モデルのカットオフ(データの収集日を区切る日付)以降の知識を持っておらず、自社の状況を把握していないので、使用者側から情報を提供しなければならない」

「発明・発掘を効率化するため、アイデアを自動的に収集するリサーチツールを構想している。小さな発想でもデータベースにためていくと、生成AIのエージェントツールがそこから自動的に(必要なアイデアを)ピックアップしてリポートにまとめるイメージだ。知財担当者の視点では、任意のタイミングでAIのリポートを確認すると、発明が自動的に生産されていることになる」

「既存業務が自動化される未来が想定されるとき、その周辺に新しい仕事が生まれることを考えるべきだ。業務に最も適した特許はどれなのかを判断する役割が重要になる。その際、責任を取れるのは人間だけだ」

「業界や職種の壁を越えて転職し、様々なフィールドで得た経験が、今になってつながってきた。プログラム能力ではトップに及ばなくても、経営の経験が強みになっている。変化が激しいAI時代にあって、若手には多様な経験が最終的につながり、異なる視点から問題にアプローチできる強みになる。変革期には新しいことをずっと考えているような人が伸びていく」

生成AIを活用した知財業務支援システムで業務時間を大幅削減

加藤 広章 氏 トヨタテクニカルディベロップメント/IP事業本部 チーフテクノロジーリーダー

加藤 広章 氏

「近い将来、知的財産業務のうち翻訳や先行技術の調査はAIによって完結できるようになる。明細書作成・中間処理・クリアランス調査などはAI主導で遂行される業務になり得る。特許などの知的財産の分析結果を企業の経営判断に生かす『IPランドスケープ(IPL)』や発明・発掘などについては、AIが人間の補助をする形態になるだろう。過去数カ月でAIが急激に進化し、早ければ年内にも実現しそうな勢いも感じる。当社が販売する生成AIを活用した知財業務支援システム『AI Samurai』シリーズや『AI Ninja』を使った実績として、届け出書の作成にかかる時間を33%削減でき、調査業務の時間は90%も削減している。AI活用はさらなる工数削減に寄与するのは間違いない」

「知財部門が大きく体力のある企業は、AI活用で出願件数、調査件数を大きく伸ばすだろう。AI実装で社内実務を効率化すれば、現場に余力ができて開発が活発化し、出願件数も増える可能性がある。こうした中、中小規模の企業は外部との連携が必要になる。『AI Samurai』シリーズや『AI Ninja』のようなツールを活用することで、必要な文書を高品質・低コストで作成でき、より付加価値の高い開発に時間を割けるようになる」

「知財業務もAIと協働する時代になるとみているが、知財戦略をどう立て、パテントポートフォリオをどう作っていくかは人間の意思が欠かせない。特に社内情報はAIではなかなか分からない。技術も業務も変わる中、AIを使いつつ、各所とのコミュニケーションを取りながら、総合的に判断できる人材が非常に大事になる」

知的財産業務のあらゆるプロセスをAIが行うように

モデレーター 白坂 一 氏 AI Samurai 代表取締役、弁理士法人白坂 創業弁理士

白坂 一 氏

「研究の世界では生成AIを使って論文の執筆から査読まで行われはじめ、トップジャーナルにも生成AIを使用した論文が掲載されるようになっているという。知的財産の分野でも同じことが起こると考えている」

「ベンダー向けに提供されるLLM(大規模言語モデル)は、一般ユーザー向けの有料版のLLMよりレベルが低い場合があり、単に生成AIを入れるだけのベンダーやAI連携するだけのツールは淘汰される可能性がある。生成AIのレベルが向上し、指示の理解力が上がった結果、指示文に様々な条件を付ける『プロンプトエンジニアリング』も事実上不要になっている」

「近い将来、技術調査・翻訳・書類作成まで、知的財産業務のあらゆるプロセスをAIが行うようになるだろう。当社のような特許分析会社がChat(チャット)GPTからそのまま出すだけなら、ユーザーはChat GPTを使えばいい。次の時代に生き残るため、高度に業務を理解した上でAIで業務を抜本的に変革するソリューションを提供する」

「ソフトバンクグループは2025年、年間1万件以上のペースで特許を出願しており、これは今までの知財業界ではなかったレベルの件数だ。フロントランナーがAI活用で加速しており、これに続く企業にも影響を与えるだろう」

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