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患者・病院・製薬企業 データ共有でスマート医療実現

EYが提唱する「インテリジェント・ヘルス・エコシステム」

ヘルステックサミット

社会のあらゆる分野に革新をもたらすデジタル技術やデータの活用が、医療分野でも様々な変革を加速させている。EYが提唱する「インテリジェント・ヘルス・エコシステム」も、進展が注目される新たなヘルスケアモデルだ。2023年12月の「ヘルステックサミット2023」では、EY Japanヘルスサイエンス・アンド・ウェルネスリーダー、矢崎弘直氏がそのコンセプトを、EY Japan ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネス・コンサルティングリーダー、佐野徹朗氏が、日本におけるライフサイエンス業界の課題とDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入事例を紹介した。

ステークホルダーの価値を一致させるヘルスケアモデルつくる

矢崎弘直氏 EY Japan ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネスリーダー EY新日本有限責任監査法人

ヘルスケアに関わるステークホルダーの価値の方向性を一致させることで、インテリジェント・ヘルス・エコシステムを実現したいと話す矢崎弘直氏

私からは、ヘルスケア業界のトレンドを概観した上で、「インテリジェント・ヘルス・エコシステム」がどのような段階を経て進化していくのか、そして、その進化を遅らせる要因は何かを話したい。

まず社会経済については、高齢化や慢性疾患のまん延などによる医療費の膨張により、ヘルスケアモデルがサステナブルではなくなってきている。一方テクノロジーの観点からは、デジタルセンサー技術などが新たな医療モデルを後押ししており、今後はいかに幅広い層に受け入れられるものにできるかが重要になるだろう。

こうした中、EYでは患者中心のヘルスデータ活用による、インテリジェント・ヘルス・エコシステムへの移行を提唱している。その最初の段階は、アナログベースの情報がデジタル技術によりデータ化されていく、「アナログケア」から「デジタルケア」への移行である。

さらに次の段階はプラットフォームを利用しAI(人工知能)も使われ、当事者にデータがシェア・統合・活用される「コネクトケア」への移行となる。そして、センサーの活用などにより患者一人一人に合った個別化医療が可能になると、真にスマートなインテリジェント・ヘルス・エコシステムが実現していくことになる。

例えば、ぜん息では重症化や発作に対処するのが主な治療である。それが、センサーで常時データが取れ、症状に影響を与える気候データなども統合できるコネクトケアでは、発作が起こる前の予防医療につながる。さらに、バイオ電子機器を体内に埋め込み常時細胞レベルでモニターできれば、発症を予防するインテリジェント・ヘルス・エコシステムが実現可能となる。

こうしたデジタルケアやコネクトケアは、多くの疾患で実用化されてきているが、真にスマートなヘルスケアを実現したモデルはまだ登場していない。その一番の要因は、ヘルスケアに関わるステークホルダーの価値の方向性が一致していないことだ。

患者は適切な治療を求め、医療提供者は効率的な治療の提供を考える。一方、ペイヤー(保険者)はコスト効率のよい治療を求め、政策立案者(政治家)は住民の健康のインセンティブとリスクのバランスを考え、製薬企業は早い承認と長期使用を考える。しかし、それぞれが健康データを相互に活用できれば価値の方向性は一致する。この価値のアラインメント(調整・整列)がスマートヘルスシステムへの道のりを加速させ、インテリジェント・ヘルス・エコシステムは実現へ向かうのである。

DX成功の鍵は変化に柔軟な組織と人材

佐野徹朗氏  EY Japan ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネス・コンサルティングリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング

DXに取り組むには、従来の組織・考えに固執しない柔軟さが必要と話す佐野徹朗氏

私からは、国内製薬業界における現在の課題とDXの導入事例、さらに各企業がDXに取り組む際の注意点についてお伝えしたい。

DXとは、単なるデジタル化ではなく、新しい製品やサービス、ビジネスモデルを通し、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンス(顧客体験)の変革を図り価値を創出するものである。

2000年代にスマートフォンやセンサーなどインプットのプロセスがデジタル化され、高度な解析を行いながら個別化サービスを生み出せるようになった。これが、GAFA(Google、Apple、Facebook=現Meta、Amazon)のような巨大IT企業が、各業界に破壊的イノベーション(革新)を起こしているDXの背景であり、医薬医療業界も例外ではない。

製薬業界では国内外とも新薬創出におけるR&D(研究開発)の生産性が年々低下している。さらに国内においては薬価低減への圧力が高まっている。これらを踏まえると、まさに既存ビジネスの進化と新たなビジネスモデル創造としてのDXが必要とされている。

課題解決の方向性としては、まずデジタル化による既存業務、社内業務の効率化がある。そしてもう一つがデジタル技術やデータを活用し、薬剤治療に関して価値を高める「Around the Pill(アラウンド・ザ・ピル)」と、薬剤治療を超えたソリューションの「Beyond the Pill(ビヨンド・ザ・ピル)」の推進だ。

このDXとしてのAround the Pill、Beyond the Pillの推進については、中国で保険グループが遠隔医療のアプリを活用するなど、予防から予後までのサービスを統合したビジネスモデルが出ている。国内においても各ステークホルダーと連携し、新しいビジネスの価値創出を打ち出している製薬企業が出ている。デジタル治療関連のアプリも続々と開発され、またデジタル技術のユースケースでは、デジタル療法やAI創薬など黎明(れいめい)期ではあるが成長余地の大きい分野がある。

ここで、企業がDXに取り組む際の注意点を挙げると、我々が最も重要と考えているのが企業のマインドチェンジだ。従来の組織・考えに固執しない柔軟さやいかに他社と協業できるかがポイントになる。

DXの先行企業と一般企業の差が大きいのは、ビジョンの設定やコミットメント、ロードマップの策定など、戦略レベルに関する項目だ。加えて、DX実現に向けたアプローチには、全社的なヒト・モノ・カネの部門間調整が必要だ。現在は専門のDX部門がありながら、各部門にDX要員を配置して連携を取るのが主流となっている。いずれにしても、最終的に一番の成功要因になるのは変化に柔軟に対応できる組織と人材だと我々は考えている。

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