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ビジネスパーソンに欠かせない 「ライバル」の効用とは

「ライバルはいるか?」の金間大介・金沢大融合研究域融合科学系教授に聞く

BizGateインタビュー/Learning

2025年の現代に「自分のライバルは◎◎さん」と周囲に公言すれば、20世紀の勝利至上主義や根性論と同じく、洗練しない時代錯誤な人間と見なされるかもしれない。しかし、経済・経営学的なデータ分析では、ライバルがいるビジネスパーソンの方が、いない人よりもモチベーションや達成感などが上回るという調査研究が出ている。金沢大学の金間大介・融合研究域融合科学系教授にライバルの効用を聞いた。

ライバルを持つビジネスパーソンの方が、持たない人よりもモチベーションや達成感などが上回るという調査も(画像はイメージ)

「ライバルがいる」2割、「以前いた」2割、「いない」6割

――金間教授は20〜40代の社会人1200人(全国無差別、20〜29歳・30〜39歳・40〜49歳の男女別に各200人)を対象に、ライバルの実態についてアンケート調査した(有効回答1151人、協力 クロス・マーケティング社)。加えて社会人や大学生に対面でインタビューした。

金間教授「『現在ライバルがいる』という回答は全体の20.4%でした。『以前いた』は19.0%、『一度もいない』は60.6%でした。性差は男性がやや高い程度。職場の同期や先輩をライバル視するケースが多く、『ライバルの能力の方が上』60.1%、『自分と同程度かやや相手が上』39.9%という結果です」

「仕事に対するモチベーションは、ライバルが『いる・いた』と回答した人ほど高く、男性では『いない』より26%の差がついています。仕事の満足度も、ライバルを持った人の方が男性25%、女性33%で高くなります」

「ライバル研究」で活用した質問項目の一部
Q1.今のあなたにライバルと思える人はいますか
以下、Q1で「いる」または「いた」と答えた方に聞きます。
Q2.そのライバルはどのような立場の人ですか(複数人いる場合は、あなたにとって最も存在感の強いライバルを想定してください)
(選択肢)学生時代の同期、学生時代の競技仲間・相手、現在の同期、現在の先輩・上司、かつての同期、かつての先輩・上司、他社・他機関の従業員
Q3.そのライバルとの実力関係に近い数値を選択してください(6つから選択)

米国などでライバル・競争関係の研究進む

――日本は1980年代以降、過熱した受験戦争などへの反省から、「協力」「共生」「ひとりも取りこぼさない」など競争を否定する考えが強調されてきた。他方、米国では個人間の競争関係が与えるパフォーマンス向上の効果などが研究が進んだ。

金間教授「米国では、2007年から2009年までの陸上長距離レースにおける出場者1263人への検証で、ライバルが出場する大会は普段より速いタイムを記録しているという分析が出ています。距離が5キロメートルの競技では、ライバルがいない場合に比べて平均で25秒もタイムが短縮しています」

「イノベーション研究でもライバルを持つと(1)新しいアイデアを考案し斬新なソリューション開発を試みる(2)停滞を回避し見て見ぬふりをしてきた案件に挑戦する――などの可能性が高まります。収入もポジティブなライバル関係を持つ方が、ライバル関係が無い場合より平均28%高くなるという調査もあります」

「他方で『同一レースのライバルの存在でペース配分が乱れる可能性がある』『ライバルの好業績が自分の前向きの意欲を奪う』とネガティブな面の研究も進んでいます」

ライバル像は「好敵手」「基準」「目標」

――金間教授の調査では「ライバル視していることを相手に伝えたか」との問いに、ほぼ全員が否定した。「自分だけがライバルと思っている」は56.2%、「相手も自分をライバルと思っているだろう」は43.8%だった。

金間教授「ライバルの類型としては、まず絶対負けたくない相手で、能力は自分と同等か相手がやや上と見る『好敵手』タイプ。続いてライバルがやや上だが、あそこまでは到達できるだろうとみる『基準』タイプ、生きる学習教材・師匠とした『目標』タイプに分類できます」

「ライバルとの接し方は、好敵手タイプには『将来の夢や目標を話す』が72%、基準タイプは『頻繁に情報交換する』66%、目標タイプは『業務に関する相談』72%という結果でした。常にバチバチ張り合っているわけではありません」

ライバルを持つ方が幸福度・成長実感が向上する

――経済協力開発機構(OECD)が国際的なウェルビーイング調査で使う「カントリルのはしご」を応用すると、ライバルを持つ方が幸福度で上回る結果が出ている。

金間教授「幸せは、なるものでなく感じるものと言えます。カントリルのはしごとは、一番上の10段目が理想で一番下の0が最悪として、アンケート相手が現在どの段にいるかを問う設問です。『ライバルあり』は幸福度が高く、『ポジティブな印象を持つライバルがいる20代』は、ネガティブな印象でライバルを持たないケースに比べて36%も幸福度が高かったのです」

――「自分は成長している」と思う成長実感でもライバルを持つ方が男性24%、女性で36%高かった。

金間教授「成長実感スコアの、リーダーシップ・チャレンジ精神・協調性・内省力の4項目で、現在ライバルがいる人が男女全世代で、持たない人を上回ります。直接対面してのインタビュー調査ではA氏とB氏がそれぞれ『ライバル視しているが相手は気づいていない』という両片思い(?)のケースもままみられました。あの人がいなかったら、ここまで到達できなかったという感想は少なくありません」

新入社員の早期退職対策にも有効か

――新入社員の早期退職にもライバル研究から効果的な対策が得られそうだ。

金間大介氏 金沢大融合研究域融合科学系教授 東京大未来ビジョン研究センター客員教授、日本知財学会理事。東京農大准教授などを経て2021年から現職。 北海道出身。イノベーション論、マーケティング論、モチベーション論など

金間教授「ライバルを見つける時期は、入社後3カ月以内が約27%、6カ月以内が約21%、12カ月以内は約14%と、6割以上が新人の時にライバルを意識します。他方、新入社員の入社後1年間コンディション調査(2021年、リクルートマネジメントソリューションズ)では、4月に69.0%を占めた『良好』層が毎月減少し、翌年3月には43.4%まで落ち込む『リアリティショック』が確認されています。スタート時の段階で、同期の中にライバルを見つけ、仕事への意欲を高めて自己達成感を促す研修方法は可能でしょう」

熟年世代はライバルをどう活用するか

――50、60代でもライバルを持つべきだろうか。生涯現役を貫いた漫画家の手塚治虫氏(1928〜1989年)は一世代以上若い新人作家への対抗意識を隠さず、将棋の大山康晴・十五世名人(1923〜1992年)は24歳年下の中原誠・十六世名人のみならず47歳年下の羽生善治九段ともしのぎを削った。

金間教授「各分野のレジェンドと呼ばれる人々だけではなく、人生100年時代にあって誰しもがライバルを持つ効果を享受できるでしょう。ライバルは自分の成長を促してくれる指針、ときにはそれを見守ってくれる同志とも言えます。『かつてライバルがいた』層が、『現在ライバルと競争している』層よりも、5年後を予想した場合の幸福感が一番強いという調査結果もあります」

「一強」藤井聡太7冠のライバルは誰か

――ライバルを持てないケースはどうするか。例えば、将棋の藤井聡太七冠だ。

金間教授「ライバルにおける好敵手・基準・目標以外の第4のタイプは『自分』です。藤井七冠のインタビューを分析すると『さらに自分を高めていきたい』とする答えが非常に多く一貫しています。過去の自己ベスト更新を目指すことは、20代前半の藤井七冠のみならず、熟年世代にとって意味があります」

――コンビニエンスストア業界、大手総合商社など、企業同士のライバル関係は今も多い。

金間教授「かつての努力論は根性論や勝利至上主義につながりました。しかし2025年段階で20代がライバルを持つことで効果的に自己研さんを続けることが可能です。ライバルとの勝敗は大きな問題ではなく、戦友、チームの仲間、貴重な相談相手にもなり得るのです」

(聞き手は松本治人)

  • 著者 : 金間大介
  • 出版 : ダイヤモンド社
  • 価格 : 1,760円(税込み)

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