生成AI(人工知能)が予想を超えるスピードでビジネス社会へ浸透し、さらに我々の日常生活をも変えつつある。世界の生成AIビジネスの行方について、「生成AI・30の論点 2025ー2026」(日経BP、日本経済新聞出版)の著者である野村総合研究所DX基盤事業本部兼未来創発センターの城田真琴プリンシパル・アナリストに聞いた。

エヌビディアを追うのはAMDか、特化型スタートアップか
――米AI半導体メーカー・エヌビディアの純利益(2025年1〜3月期)が、世界の半導体10社の純利益全体の4割超を占めました。
城田氏「エヌビディアのデータセンター向け画像処理半導体(GPU)シェアは90%以上と圧倒的です。同社のソフト開発基盤『CUDA』エコシステムが事実上の世界標準となっており、市場支配力の源泉となっています」
「一方で急増するAI需要に対し供給不足で、各企業のAIプロジェクトが遅延するなどの課題も表面化しています。エヌビディアのハイエンドのGPU価格も高騰化しています。グーグルやマイクロソフト、メタなど米大手テック企業は独自のAI半導体を開発し、特定の用途に特化した英グラフコア、米グロック、同セレブラス・システムズ、同エッチトなどAIスタートアップ企業が生まれています」
――エヌビディアへ挑む可能性のあるのはどの企業でしょうか。
城田氏「可能性としては米アドバンスト・マイクロ・デバイスやグロックでしょう、AMDは、エヌビディアに比べてエヌビディアに比べて低コストながら同等の性能を発揮できるという新製品を投入し、対抗姿勢を鮮明にしています。グロックは大規模言語モデルの推論処理に特化したニッチ戦略が効果を上げています。低消費電力で低遅延(応答までの時間が速い)である点がポジティブな評価につながっています」
VCにAIスタートアップ育成の新たな役割
――米ベンチャーキャピタル(VC)がGPUを買い集めるケースが出てきています。
城田氏「AI開発の多くのスタートアップ企業に共通するのは資金力の乏しさです。VCが資金だけでなく、必要な開発リソースも与えて支援するという、従来の役割を超えた取り組みが始まっています。VC自身がGPUを大量に予約・購入した上、出資先企業に供与して技術開発に専念させるケースです」
「米シリコンバレーのVC、アンドリーセン・ホロウィッツはエヌビディア製など高性能GPUを2万台以上保持し、投資先へ市場価格より安価に、またはスタートアップの株式と引き換えに供給しています。米インデックス・ベンチャーズも、米オラクルと提携し、クラウドサービスとしてスタートアップにGPUを提供しています」
「VCは代替技術の開発支援やリソース共有モデル構築などにも携わる可能性もあります。一方で(複数のGPUを組み合わせたシステムである)『GPUクラスター』の運用に必要な多額の初期投資に加えて、継続的な保守管理も欠かせません。日本のVCでは同様のケースはまだありません」
マイクロソフトが仕掛けるAIパソコン普及戦略
――2024年はAI機能が使いやすい「AIパソコン」元年といわれました。
城田氏「マイクロソフトの『コパイロット』に対応したパソコンを各メーカーが販売しています。2024年のAIパソコンの出荷は全体の1〜2割でしたが、今後5〜10年間で金融機関や企業の研究部門など機密性の高い業務に従事するビジネスユーザーを中心に拡大すると予想します。カギを握るのは低価格化と性能向上のバランスでしょう」
「マイクロソフトは『コパイロット』を標準機能として普及させることで、統一的なAIユーザーエクスペリエンス(UX)を消費者が得られるように設計しています。AIパソコン市場全体を活性化し、最終的には自社に有利な状況をつくり出す狙いがあると考えられます」
700人の仕事を「AIエージェント」が代替
――2025年は「AIエージェント元年」ともいわれ、一部では人間の仕事を代替し始めています。
城田氏「後払い決済サービスを提供するスウェーデンのフィンテック企業のクラーナは、カスタマーサポートセンターの担当者700人に相当する仕事をAIエージェントに代替させ、年間4000万ドルのコスト削減につなげました。顧客からの繰り返しの問い合わせは約25%減少し、問題解決に要する時間は平均11分から2分未満に短縮したといいます」
「企業が自ら積極的に見込み客にアプローチする『アウトバウンド営業』でも、AIエージェントの効果が実証されています。見積もりやメールの作成、個々の顧客へのメッセージ送信、ミーティングの予約などを自動的に処理します」
「他方で、複雑な判断や予測困難なエラーへの対応には、まだ人間のサポートが必要になります。ユーザーからの指示が曖昧・不完全だった場合はAIエージェントが誤った行動をとる恐れもあります。リスクの高いビジネスや法律分野への適用は慎重に行うべきでしょう。AIエージェント自体は、まだ開発初期段階にあるという認識は必要です」
SaaSに成果ベース、消費ベースのビジネスモデル登場
――AIエージェントがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のビジネスモデルを変える可能性を指摘していますね。

城田氏「カスタマーサービスソフトの米ゼンデスクは、AIエージェントに成果ベースの課金モデルを導入しました。採用する企業は導入リスクを低減できるほか、支払いに対して得られる価値の関係をステークホルダー(利害関係者)に明確に説明できます。24時間稼働するので人件費の削減も期待できます。そうした魅力的なオファーでゼンデスクは新規顧客獲得に弾みをつけています。同社のAIエージェント開発・維持の内部モチベーションが高まるという期待もあるでしょう」
「顧客情報管理大手の米セールスフォース・ドットコムは消費ベースの課金モデルを採用しました。会話ごとに料金(1回当たり2ドル)を徴収するシンプルな仕組みです。セールスフォースのユーザーはサブスクリプション(定額課金)型の料金モデルとの選択が可能です。季節ごとの需要の変動が大きい旅行業や小売業では消費ベース、日常的に高頻度で利用するコールセンターやカスタマーサポート業界はサブスクリプション型が適しているでしょう。AIエージェントの活用でビジネスの成功指標や顧客体験の基準にも変革をもたらす可能性があります」
(聞き手は松本治人)
生成AI・30の論点 2025-2026
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