米カリフォルニア州サンディエゴで2025年9月15〜17日に開かれた世界最大規模のコンテンツ・マーケティングのカンファレンス「コンテンツ・マーケティング・ワールド(CMW)2025」では、3日間で100以上のセッションが設けられ、様々な企業がコンテンツ制作の取り組み事例について紹介した。
その中で注目を集めたのが南アフリカの銀行、インベステックだ。7年前にポッドキャストで番組配信を開始した。米アップルのビジネス・投資部門ランキングで上位に入り、「アフリカで最も人気のあるビジネス系ポッドキャスト」として高い評価を受けている。銀行はなぜ人気ポッドキャストになったのか。

お金に関するアドバイスから高級ワインまで幅広い話題
「これまでの道のりは決して簡単なものではなかったが、苦労して学んだ教訓を皆さんと共有したいと思います」
セッションの冒頭、インベステックでコンテンツ制作の責任者を務めるイングリッド・ブース氏はこう語った。同社は南アフリカに拠点を持つ銀行で資産運用会社だ。2018年にポッドキャストのチャンネルを立ち上げ、経済や市場の動きを解説する番組配信を始めた。貯蓄や投資、住宅購入などお金に関するテーマについて専門家がアドバイスを提供するほか、エネルギー問題から高級ワインまで幅広い話題を掘り下げて紹介している。
米アップルのビジネス・投資ポッドキャスト部門(南アフリカ)で上位にランクインし、他の経済系メディアと競っている。1万3000人以上の熱心なフォロワーを抱え、CMW2025で「金融サービスにおける最優秀コンテンツマーケティングプログラム」に選ばれた。
堅いイメージのある銀行がなぜポッドキャストに参入したのか。2018年当時、世界的な潮流としてポッドキャストを始める企業は増えつつあったが、銀行業界ではまだ珍しかった。他に先駆けて飛び込んだのは、ポッドキャストの持つ可能性に気づいたからだ。

活発な若者世代が持ち歩くことができる「メディア」
南アフリカの人口は約6000万人。銀行がターゲットとする資産保有の個人は約60万人とされる。同社はポッドキャストを顧客層や将来の見込み客にリーチするための絶好の機会ととらえた。市場調査によれば、南アフリカは世界でもポッドキャストのリスナー数が多い国だという。しかも若い世代が多いのが特徴だ。実際、同社の番組リスナーの約6割は18〜34歳で、特に18〜24歳のいわゆる「Z世代」が強い関心を示しているという。
リスナーの多くはフルタイムで働いており、半分は金融や資産運用に興味を持っている。その生活スタイルは毎日忙しく、活発に行動することがわかっている。彼らにとってポッドキャストはジムなどに一緒に持ち歩くことができる「メディア」なのだ。
そのうえで、ブース氏はこう強調する。「最も重要なのは、ポッドキャストはSNSのブランド広告では得られない効果をもたらしてくれることだ」。SNSのブランド広告は有料で、消費者の興味をひき付けられる時間は長くても数十秒程度なのに対し、インベステックのポッドキャスト番組の平均視聴時間は26分。これ以上の長い時間に「ユーザーをとどめておけるのはネットフリックスだけでしょう」(ブース氏)。
複数の番組を集約し、一貫したペースで継続
ただ、最初から順調だったわけではない。2018年にスタートしたとき、複数のチャンネルと異なるリスナー層が入り交じった状態だったという。同社が提供する金融サービスと同様に、富裕層向けのプライベートバンキング、商業銀行といった事業部門ごとに専用チャンネルを持っていたからだ。番組のリスナー数は伸びなかった。
数年後、複数の番組を1つのチャンネルに集約し、一貫したペースで継続することを徹底した。ブース氏はこれを「予約型リスニング」と呼ぶ。リスナーの多くは決まった時間や場所でポッドキャストを聞く。番組が公開される毎月第2水曜日の午前6時までに準備が間に合わなければ、多くのリスナーを失う可能性がある。だからこそ公開時間の厳守が重要になる。こうした取り組みの結果、リスナーは増えていった。
音にもこだわった。同社は「ポッドキャストは音がそのまま商品になる」と銀行の幹部を説得し、時間はかかったものの、オフィスに小さなスタジオを設けることに成功した。専用機材をそろえ、録音方法も学んだ。これでゲストを呼ぶことが簡単になった。対面によるリラックスした雰囲気がダイレクトに伝わることで「ブランドの信頼構築につながった」とブース氏は語った。

「SNSで再生回数を稼ぐのは無理」 ターゲットに広告資金
一方、反省点として挙げたのが、最初にすべてのプロモーション予算をSNS広告に投じたことだ。あまり効果は得られず、「SNSでは再生回数を稼ぐことは無理だった」。ただ、認知度を高めることはできた。SNS経由でポッドキャストを見つける人は多い。そしてSNSはコミュニティーを築くことができる。
同社はインスタグラムで番組に興味がある人向けのグループを立ち上げ、リスナーの好みを探った。現在は広告予算の重点はポッドキャスト利用者向け広告に移している。グーグルの広告配信プラットフォーム「DV360」とスポティファイを使って、ファンをターゲットに資金を投じる作戦だ。
様々な試行錯誤をへて、番組は南アフリカでトップクラスの人気を誇るポッドキャストにまで成長した。しかし、その裏では「何度も技術的なトラブルに見舞われ、非常に気まずいインタビューの連続だった」とブース氏は明かした。それでも断言する。「ポッドキャストは現在、銀行のコンテンツ戦略の柱となっている」と。番組とリスナーがつながり、自分たちの考えやストーリーを届けることができるからだ。それは銀行にとって大きな価値を生み出している。
(古山和弘)
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