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民事再生に協力した取引先 経営統合で事業を託す

相生電子(長野県木島平村)

アトツギの作法

相生電子(長野県木島平村)は健康機器の製造販売を手掛ける。10年ほど前に神奈川県の健康機器販売会社の経営再建に力を貸し、業務用マッサージチェアのヒット商品を共同で開発。自らも収益を回復させた。その後、後継者難に長期間悩んだ創業者は、再生を果たした販売会社と経営統合し、その経営者に事業を託す決断を下した。

相生電子の穐澤氏(左)は業務用マッサージチェアを共同で開発した日本メディックの城田氏(右)に後を託した

祖業の電子部品検査から事業領域を拡大

相生電子は木島平村周辺で電子部品関連事業を営んでいた穐澤(あきざわ)弘氏(71)とその義弟が1983年に設立した。当初は電子部品の検査が主力だったが、集積回路のリードフレーム、制御盤、半導体素子など大手企業向け下請け製造にも事業領域を広げた。

その後、大手企業の製造拠点が相次いで海外に移ったことで受注が縮小。「150人いた従業員を、リストラを繰り返して20人強に減らした」(穐澤氏)。2002年に専務から社長に昇格した穐澤氏は電気通信事業、医療機器製造業への進出を図るなど「元請けでできる仕事を増やしていく」ことで事態の打開を目指した。

健康機器を輸入販売していた2008年ごろに大規模展示会に出展。同展示会でブースを構えていた健康機器販売会社、日本メディック(神奈川県藤沢市)に「商品検査を委託しませんか」と商談を申し入れた。

日本メディックも健康機器を輸入販売し、不良率の高さに悩んでいたため申し出を受け入れた。相生電子は制御技術の知見を生かし、日本メディックが輸入する商品の問題点を指摘。同商品の改良につながったという。日本メディック社長(現会長)の城田裕之氏(65)は「海外メーカーが驚くほど技術力がすごい」と舌を巻いた。

相生電子の事業は大手企業からの下請け製造受注が中心だった

マッサージチェアで資金繰りに行き詰まった取引先を支援

当時の日本メディックは、旅館、ホテルやスーパー銭湯などで利用料金を投入すると一定時間利用できる「コイン式マッサージチェア」事業が主力だった。料金収入はマッサージチェアを設置した施設と日本メディックで分け合うビジネスモデルだ。

多くの施設にマッサージチェアを設置するため大量に購入すると、現金の流出が大きい。日本メディックは資金繰りを確保するため、マッサージチェアメーカーから購入時に分割払いにすることを認めてもらっていた。ところが2011年にメーカーの方針が突如変わり、未払い金の一括払いを求められた。資金繰りが行き詰まり、同年7月、日本メディックは民事再生法に基づき経営再建を図ることになった。

マッサージチェアはこれまで家庭用の製品を施設向けに部分的に改良していた。「デザイン、機能面について、宿泊施設などで利用する人に特化した製品を作ればいい」。会社再生に向けて城田氏が思いついたのが業務用マッサージチェアの製造販売だ。体全身を包み込む大型のサイズにしてデザインも豪華にするほか、様々な操作が選べ、故障しても施設が困らないように短期間で修理に応じられるアフターサービスを提供することを考えた。

製造に協力してくれるメーカーを探したものの、「民事再生法適用の会社を相手にしてくれるところはなかなかなかった」(城田氏)。唯一、耳を傾けてくれたのが相生電子だった。

相生電子は健康機器製造に参入するタイミングを見計らっていた。当時は中国から温熱治療器の輸入販売をしており、「中国メーカーに製造を委託すればいいと考えた」(穐澤氏)。城田氏の中国人の知人のつてをたどり、相生電子、日本メディック共同で現地工場を視察。製造委託先に決めた中国企業の製品をベースに、業務用マッサージチェア「あんま王」の1号機を、製造元が相生電子、総発売元は日本メディックとして2012年3月投入した。

施設利用者をターゲットにしたデザイン、機能が受け入れられ、日本メディックの2012年12月期の売上高は前の期の2.4倍の約2億円となり、経営再建への足がかりを得た。

2号機以降は「デザインや操作コースの設定を日本側が主導した」(城田氏)。大きめのサイズ感など、城田氏の構想をもとに製品の改良を重ねた結果、販売は伸び続けて日本メディックの経営再建が軌道に乗った。

業務用マッサージチェア「あんま王」は旅館・ホテルなどへの販売が伸びた

親族にも従業員にも承継適任者なし

製造元の相生電子でも、あんま王は主力製品に成長。大手企業からの受注減で落ち込んだ収益も回復した。あんま王製造参入から1年余り後、穐澤氏は60歳になったことを機に、事業承継を考え始めたが、親族には承継適任者がいなかった。

還暦を迎えて間もない2014年1月の仕事始めで、従業員を前に「私は3〜4年後には引退する。従業員のどなたかが跡継ぎになれるよう頑張ってほしい」と承継に名乗りを上げるよう促した。

ただ、何年たっても名乗りを上げる従業員は現れない。既存の従業員への承継に見切りをつけ、精密機器大手の幹部経験者を後継候補含みで5人ほど中途採用したが、「当社のような地方の中小企業に長く残ってくれる人はいなかった」(穐澤氏)。

後継者が現れないことも想定し、事業売却による承継も探った。M&A(合併・買収)仲介会社を利用しながら、上場企業も含め5社程度と面談したが、具体的な交渉には進めなかった。

引退のメドとしていた60歳代前半を過ぎても、事業承継は八方ふさがりだった。上下水道関連事業など自治体向けの公共インフラ事業なども手掛けており「事業をやめることになれば、様々な取引先に迷惑をかけることになる」と悩みは尽きなかった。

「城田さんがやってくれるのが一番いい」

そんな中で、浮かんだ方法の1つが、あんま王で「切っても切れない縁」(穐澤氏)となった日本メディックへの事業承継だった。「売却するなら、知らない会社より城田さんのところが一番いいのではないか」と思うようになっていた。

2020年春、穐澤氏は相生電子を訪ねた城田氏と打ち合わせが終わった後、近くの飲食店へ食事に誘った。穐澤氏は「城田さん、うち継いでくれる人がいないんだよ。城田さんがやってくれるのが一番いい」と思いを打ち明けた。

城田氏も後継者が見つからない穐澤氏が悩んでいることは知っていた。城田氏自身も長男への事業承継の準備を始めていて、穐澤氏の気持ちはよくわかった。日本メディックにとっても相生電子は「取引がゼロになったら当社がえらいことになる」重要な取引先だ。穐澤氏の言葉に「本気で検討します」と応じた。

あんま王は業務用マッサージチェアの年間販売シェアで国内トップとなっていた。日本メディックの2019年12月期の売上高は8億円強に拡大。財務状況も安定し、買い手として問題はなかった。城田氏は早速、メインバンクに相談し、M&Aに向けて相生電子の資産査定に入った。穐澤氏も幹部に一部分散していた株式を買い取り、日本メディック側への株式譲渡に備えた。

経営統合の形態については、日本メディック側が配慮した。日本メディックが直接相生電子の株式を取得する吸収合併では、両社の従業員の間で「親子意識」が生じると懸念した。そこで両社の株式を100%持つ持ち株会社を設立する方式とし、名称も「アイオイメディックホールディングス(HD)」とした。穐澤氏も「本当に気を使ってくれた」と振り返る。

経営を託すことを決めて約1年後の2021年3月、相生電子は日本メディックとともにアイオイメディックHDの子会社となった。城田氏がHD社長と相生電子の社長に就き、穐澤氏は代表権のない会長に退いた。穐澤氏は2年後に会長職も退いた。

「互いに良いパートナーと巡り合えた」

あんま王開発以来互いに密接な関係だった両社だが、相生電子の従業員の大半は、日本メディックのトップである城田氏を知らなかった。城田氏は社長就任直後から、相生電子の従業員との接点を積極的に持とうと、給料日には給与明細を自ら手渡しし、声がけもした。従業員から要望を聞き、季節による工場内の気温の変動を減らす設備に投資するなど、職場環境の改善も進めた。

日本メディックであんま王の修理、保守点検をしている従業員が1週間、相生電子の製造ラインに入る仕組みなども取り入れた。「製品の改善点やコストダウンに向けた意思決定が早くなっている」(城田氏)という。

日本メディックの経営再建時には相生電子が協力し、相生電子が後継者難になったときには日本メディックが買い手となった関係について、城田氏は「恩返しとか助け合ったとかいう関係ではなく、互いに良いパートナーと巡り合えた」と常に対等であり続けたとみる。

自らも相生電子の後継者問題が浮上する以前から、事業承継の準備を進めていたこともあり、2024年12月にはアイオイメディックHD、相生電子の社長職を長男に譲り、自らは代表権を持たない会長となった。

穐澤氏はあんま王開発に協力したことについて「城田さんが『あんま王』という名前に合うようなマッサージチェアを開発した。それで(相生電子の)売り上げが伸びた」と城田氏の存在の大きさを強調する。

「しっかりとしたパートナーと組めたので、相生電子は今後も伸びる。城田さんの人間性を評価しているので、心配することは何もない」。穐澤氏は長年悩んだ事業承継で最善の道を選んだと確信している。

(一丸忠靖)

コラム「アトツギの作法」は中小企業診断士の資格を持つベテランのライターが、事業承継に取り組んだ中小・中堅企業の実例をリポートします。随時掲載。

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