政府は2030年度までに、半導体と人工知能(AI)分野に10兆円を超える公的支援することを、新たな総合経済対策に盛り込んだ。日本の半導体産業の未来を考えるプロジェクト「半導体ミライ・アライアンス」では、2024年11月25日、有識者や専門家などを集めて、分科会「最先端テクノロジー・人材育成」編の第2回会合を開いた。次世代半導体技術の研究開発と国内の生産基盤の強化を通じ、地方創生を進めていく重要性について、活発な意見交換をした。
黒田 忠広氏 東京大学特別教授 熊本県立大学 理事長
若林 秀樹氏 東京理科大学 大学院 経営学研究科 技術経営専攻(MOT)教授
桑田 薫氏 東京科学大学 副理事(DE&I担当)
緒方 雄一氏 三菱UFJ銀行 サステナブルビジネス部 投資・事業推進室 次長
粟生 浩之氏 ファスフォードテクノロジ常務取締役
田中 眞人氏 SCREENホールディングス シニアフェロー 技術開発担当
田島 竜平氏 長瀬産業 先進機能材料事業部長
山口 健 日経BP総合研究所 客員研究員
星 正道 日本経済新聞社 ニュースエディター補佐
金子 憲治 日経BP総合研究所 上席研究員
木村 知史 日経BP総合研究所 上席研究員
未来予想図描き共有を
――三菱UFJ銀行は、グリーントランスフォーメーション(GX)を加速させていく上で、北海道を戦略的な重点エリアに掲げ、グループ一体での支援を進めている。

緒方 当行が北海道に注目するのは、高い食料自給率や観光産業の強さといった魅力に加え、日本随一の再エネ資源を有し、カーボンニュートラル実装の場として、非常に高いポテンシャルを備えているからだ。金融機関として、カーボンニュートラルな地域経済圏の構築を支援すると同時に、道内で創出されたサステナビリティー財を道外に供給する流れをつくることで、GXのモデルケースにできると考えている。
例えば、「北海道推しごとオーディション」は、自治体が取り組む環境社会課題解決のための事業と、事業の中長期的な受益者である次世代の声と、共感する企業・個人からの寄付とをつなげるプログラムだ。外部審査員が選定した6事業をSNSで発信し、その反応を参考に寄付を行ったが、北海道における地域課題解決に向けた取り組みの重要性を痛感した。
また九州では半導体産業が盛り上がり、地域経済の活性化に向けた様々なプロジェクトが検討される中、半導体バリューチェーン推進室が仕組みづくりの支援を行っている。新たなプロジェクトには期待と同時に不安の声も聞こえる。環境への影響はもちろん、交通渋滞や地価高騰など、生活への影響が大きいからだ。正しい順番で正しい準備ができるように手伝い、未来予想図を示して理解を得て、地域創生に結びつける橋渡し役を果たしたい。

若林 地域経済への貢献はハードだけではダメだ。一時のインフラ整備だけでは、ブームが去れば衰退してしまう。クリスタルバレーがそうだ。ブームが去ってもまちが発展し続ける仕組みの構築が欠かせない。いま世界は有形資産ではなく、無形資産の重要性に着目し、投資家の目も集まっている。金融機関には、目利き力を発揮して、ソフトパワーを意識した未来図を描き、地方創生を後押ししてほしい。
――長瀬産業は2023年11月から「化学品AI共同物流マッチングサービス」の提供を始めた。

田島 半導体事業は、素材や装置、完成した製品など、多様な物流ニーズがあり、コストはもちろん、脱炭素をはじめ環境問題など、多くの課題が伴う。地方に拠点を作る上で、こうした物流に関わる課題の解決が欠かせない。中でも化学品は安全面において一般貨物との混載、また化学品同士の混載も組み合わせが難しく輸送の継続性が大きな障壁となっている。そこで業界で初めて、化学品に特化した共同物流マッチングサービスを開始した。こうしたサービスが地方における拠点整備の推進に寄与し、地方創生につながっていくと考えている。
目指すべきは知の集積
――デジタルインフラ整備を、地域住民と共生して、地方創生へとつなげていくことが重要だ。TSMCの進出で、大きな転換期を迎えている熊本で活動されている黒田先生はどのような考えで取り組んでいるか。

黒田 熊本を中心にした半径1500キロメートルの円の中に東アジアのハイテク拠点が入る地理的優性に加え、熊本には豊かな水資源と電力がある。熊本が世界から半導体の国となる資格を持つ場所として選ばれた理由だ。私はこのビッグチャンスをつかみ、大輪の花を咲かせるため、アカデミアをつくる、知の集積が不可欠だと主張している。なぜなら、直面する課題を科学で理解し、科学的証左の下で、解決に取り組むことが、半導体の国をつくり上げていく上で欠かせないからだ。
例えば、半導体製造は細かなゴミが大敵で、加工途中で出る様々なゴミを洗い流す工程が全体の約3割を占める。その工程で使われるのが超純水。1万ウエハーの処理に、約3000トンの超純水が必要で、水の消費量は莫大だ。洗浄工程で使用した水の再利用はもちろん、くみ上げた水を自然に戻す循環が大切であり、熊本では地元農家の協力を得て「涵養(かんよう)」という地下水の保全を半導体工場で行っている。
こうした仕組みを技術開発し、民間企業とともに社会実装していくのが、アカデミアの役割だ。またアカデミアは人材育成の場であり、人材の供給機能を果たす。人が集まり、知識が集まるところで、イノベーションは起こる。私は世界が半導体の世紀へと進む現在、産官学金が協力して、地域の人々と共に、輝かしい未来に向けて、アカデミアが中核となってイノベーションを起こしていくことが大切だと考えている。

――技術革新で課題解決に取り組んだ具体的なケースは。

田中 半導体の集積度、微細化が進むことで、洗浄ニーズは高まり、水の消費量が増え、環境負荷は大きくなる。水の消費量を減らすことは、製造装置メーカーの使命だ。そこで温純水を使うことでより高い洗浄効果を得る仕組みを開発し、超純水の使用量の削減と使用電力量の低減を実現した。さらに洗浄工程で発生し、破棄せざるを得なかったイソプロピルアルコール(IPA)と水の混合液を分離する技術開発に取り組み、再利用化を目指しているところだ。また24年1月に稼働した枚葉式洗浄装置を生産する新工場「S3-5(エス・キューブ ファイブ)」では、センサーを活用して空調や照明をコントロールするタスクアンビエントクリーン方式を採用、省電力化を進めた。
田島 当社とナガセケムテックス、米国Sachemの合弁会社であるSNTechでは、液晶パネルの製造工程で排出される現像液廃液の回収/再生事業を行ってきた。そこで培ってきた技術力とノウハウを生かし、再利用が難しいといわれてきた半導体製造に用いられる高純度現像液の回収および再生事業を始めている。排水処理されていたものをプラントで回収し、排水の再利用と現像液をケミカルリサイクルする仕組みだ。従来産廃処理していたものを再利用できるようにしたことで、コスト削減と同時に、環境負荷の低減につながっている。またCO2可視化サービスにも参入し、サプライチェーン全体でのCO2削減に向け、改善に取り組んでいる。
桑田 今日の議論を聞いて、半導体事業を通じた地域創生への取り組みに対する皆さんの本気度の高さを改めて実感できた。このトレンドを一過性のものではなく、イノベーション創出と産業振興、そしてそれを推進する人材育成につなげるサステナブルな活動へと発展させていくことが重要だ。
デジタル列島改造へ
――産業・社会のデジタル化が進む中、デジタルインフラの整備・拡充の重要性が高まっている。経済産業省と総務省が2024年10月に公表した「デジタルインフラ整備に関する有識者会合」の中間とりまとめ3.0をどうみるか。
木村 有識者会合では、デジタルインフラを取り巻く最近の環境変化を6つ指摘している。①人口減少・少子高齢化が深刻化する地方における地域デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性の増加②自動運転やスマート工場などの進展で必要とされる計算資源の急増③生成AIの台頭に伴うデータセンターの役割・用途の変化と大規模化④脱炭素社会に向け、大量の電力や水を消費するデータセンターのエネルギー消費効率の改善とエネルギーの地産地消⑤データセンターの建設期間の長期化による人手不足と建築コストアップ⑥地政学リスクが高まる中、信頼できるパートナーとしての日本のデジタル基盤としての地位の高まり――である。
そこで中間とりまとめ3.0では、6つの環境変化を踏まえ、デジタルインフラ整備を戦略的に進めていく上で、用途や必要とされる規模に応じたデータセンターの分散立地を提言している。現状、関東と関西に集中しているデータセンターを地方分散することで、地域DXの格差を是正するのが狙いだ。また再生可能エネルギー活用というポテンシャルが生かせる九州や北海道での地域DX推進に合わせ、国際海底ケーブルの多ルート化を進め、欧米・アジアとの接続性を高め、国際的なデータ流通のハブ機能確立の重要性も指摘している。
国内では数多くのデータセンター建設が進んでおり、既に半導体需要は高まりを見せている。30年には国内半導体市場シェアの約3割を、データセンター向けが占めると予測されている。つまり、データセンターの地方分散によって、半導体市場も地方に分散し、地方創生の一翼を担うことが期待されている。

若林 有識者会合では当初、データセンターの分散立地に否定的な意見もあったが、徐々に変化した。その背景にあったのは、米中の対立激化と生成AIの台頭だ。特に生成AIが現在の勢いで普及すると、1つのデータセンターの電力消費量はギガワットクラスになり、大都市圏における深刻な電力不足を招く。

分散立地するメリットとしては、最終ユーザーの近くでデータ処理することで遅延問題が解消され、エネルギー効率もよく、エネルギーの地産地消にもつながる。さらにデータセンターはファウンドリー(受託生産)工場と似ていて、他のハコものよりも乗数効果と雇用創出効果が高い。電力線を引き、装置を据え付け、サーバーを入れる。データセンターは24時間運用なので、少なくとも50〜100人は必要で、多くの雇用が生まれる。AIファクトリーというイメージだ。
田中角栄元首相の「日本列島改造論」から50年がたち、社会の仕組みやインフラが老朽化し、日本経済が閉塞感に包まれる現在、デジタルインフラの整備・拡充による「デジタル日本列島進化論」が必要不可欠となっている。その要となる半導体産業の育成が欠かせない。
雇用創出し地方活性化
――半導体の最先端テクノロジーと地方創生の関係は。

桑田 デジタルインフラと半導体をセットにして地方に分散立地し、地方創生を促して、デジタル列島へと進化させていく考えに大賛成だ。地方が活性化し、そこに分散知ができてくると、その分散知を束ねる統合知化が始まる。そして、分散と統合の両方が可能になる超分散システムが出来上がる。それを支えるのが半導体であり、半導体の最先端テクノロジーだ。例えば電力消費問題は、半導体の高速化や省電力化など、技術・性能の進化で解決していく。分散知の推進は、コストと実装性が課題。一方、統合知の推進は分散知をつなぐための標準化が重要になる。
――事業活動を通じて、地方創生にどのように関わってきたか。
田中 SCREENは半導体製造における洗浄プロセスで使われる装置などを製造・販売している。半導体事業の拡大に合わせて生産設備の増強を進め、滋賀県彦根市高宮町にある彦根事業所では現在5つの工場が稼働している。同事業所では3000人以上の従業員やパートナー企業社員らが働いており、周辺地域の雇用を生み出し、経済の活性化に寄与している。
また近隣の滋賀大学とはデータサイエンス分野で提携し、ビッグデータの分析などの人材育成や共同研究を行っている。台湾のファウンドリー大手が熊本県益城町に建設している熊本工場の近くに、フィールドサービスエンジニアの育成施設「グローバルトレーニングセンター」を設置。年間1500人の技術者を受け入れる。最先端の半導体製造装置を用意し、操作や保守点検のスキルを身に付けた人材を育成する。


粟生 ファスフォードテクノロジは、半導体チップを基板に貼り付けるボンディング(接合)技術で世界をリードする半導体装置メーカーだ。データセントリック時代を支えるデータセンターの重要性が高まる中、データ転送の効率化や熱対策などにつながるチップの積層技術への期待は大きい。そこでシリコンウエハーの表面に形成した銅電極同士を貼り合わせて接続するハイブリッド接合など、新たなプロセス開発で、メモリー半導体の消費電力低減に挑んでいる。
地方創生への関わりとして、エネルギーの地産地消に取り組んでいる。山梨県南アルプス市にある本社のR&D棟の屋上に太陽光パネルを設置。そこで発電した電気と、山梨県営水力発電所で発電した二酸化炭素(CO2)フリー電気を組み合わせることで、本社で使用する電気は100%再エネとなっている。今後もこうした取り組みを積極化し、地域の持つポテンシャルを生かした事業展開を進めていく考えだ。

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