半導体産業を中核にした日本経済の成長に期待がかかっている。2030年に世界の半導体市場が1兆ドル(約150兆円)に拡大するとの予測がある中、政府は前例のない規模の財政支援を通じ、基幹産業化に向けた施策を推し進めている。官民一体で産業競争力を回復させる千載一遇のチャンスだ。日本の半導体産業の未来を考える「半導体ミライ・アライアンス」第2回座談会では、半導体で稼ぐ力と日本経済の成長シナリオについて議論し、その競争力の源泉として多様な人材の育成策が重要であるとの認識を共有した。
入山 章栄 氏 早稲田大学大学院 教授
黒田 忠広 氏 東京大学 特別教授 熊本県立大学 理事長
桑田 薫 氏 東京工業大学 理事・副学長
若林 秀樹 氏 東京理科大学大学院 教授
真岡 朋光 氏 レゾナック・ホールディングス 取締役 最高戦略責任者/最高リスク管理責任者(CSO/CRO)
粟生 浩之 氏 ファスフォードテクノロジ 常務取締役
三河 巧氏 SCREENセミコンダクターソリューションズ 執行役員 知財戦略担当 技術戦略担当
小平 和良 日経BP メディアマーケティング統括補佐
星 正道 日本経済新聞社 ニュースエディター補佐
山口 健 日経BP 総合研究所 客員研究員
技術変革の主導権握れ
けん引役は「AI」と「アジア」
――日本経済をいま一度成長軌道に乗せていく上で、半導体産業がその核になるのではないか。政府による強力な支援策が取られる中、2月24日に台湾積体電路製造(TSMC)熊本第一工場が開所した。半導体産業の現状をどのように見ているか。

若林 今こそデジタルインフラ構築による日本再生戦略を推し進め、その基盤となる半導体産業の復活を成し遂げなければいけない。経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」で示した基本戦略の3つのステップのうち、あらゆるモノがネットにつながるIoT用の半導体生産基盤と日米連携の強化が進み、グローバル連携も始まりつつある。日本の動きの速さに、世界が注目している。
黒田 世界の半導体需要は中国が40%、アジアの日本以外が33%、日本が7%で、合計すると8割がアジアだ。半導体製造は韓国が21%、台湾が20%、日本が19%、中国が19%で、こちらも約8割を占めている。確かに販売面では米国が強くて5割超だが、半導体を核としたハイテク産業は需要のあるアジアに集積している。
人口の伸び、それに伴う電力消費の拡大などから、今後もアジアが市場を引っ張っていくことは間違いなく、地理的にも、産業構造的にも、そのど真ん中に日本がいる。これが日本の半導体産業が世界の期待を集めている理由である。
――「Chat(チャット)GPT」をはじめとする生成人工知能(AI)の登場で半導体の需要動向が変化を見せている。
真岡 世界の半導体市場はAIをけん引役として飛躍的に成長すると予想されている。2030年に向けて、様々なエレクトロニクス機器にAIが搭載され、半導体需要は一段と高まるはず。
一方、微細化の追求で性能向上を進めてきたムーアの法則に限界が見え始める中、AIが求める高性能・高効率を実現するため、新たなブレークスルーとして後工程への期待が高まっている。

粟生 ここ数年は、製造装置市場は拡大するメモリー需要向けと、レガシー半導体で急成長している中国向けで、順調な伸びが期待できる。ただ、5年から10年先を考えると、AI半導体の需要拡大をどうつかんでいくかが課題だ。
いま先端ロジック半導体に対応できるのは、台湾など一部のメーカーに限られている。しかし、今後の技術進化で誰が主導権を握るのか。見極めていくことが必要になる。
若林 確かにAIの普及、人口動態などを踏まえ、35年〜50年の世界市場を見据えた戦略やサプライチェーンを考えることが重要だ。ところで台湾有事が起きた場合、どういった対応を考えているか。
粟生 もし台湾有事が発生したら、後工程の工場が台湾と中国で世界の約7割が集中しているので、大変なパニックに陥るだろう。後工程は前工程とは異なり、設備を増設しやすいので、リスクヘッジしておくことは必要かもしれない。
真岡 台湾有事は起こらないという意見もあるが、シミュレーションしておくことは必要だ。当社でもシナリオプランニングは行っており、地政学リスクを織り込んだ計画を立てている。
チップレットはゲームチェンジャー
――半導体ビジネスはこれまで微細化が鍵を握っていた。今後は何が主導権を握るのか。
若林 2000年に垂直統合から水平分業へと業界構造が転換したのに匹敵する、技術のパラダイムシフトが起こりつつある。モア・ムーアに加え、3次元集積や後工程パッケージ、そこに材料が加わるモア・ザン・ムーアの世界だ。中でも異なる機能のチップを集積する先進パッケージング技術「チップレット」への期待が高まっている。
黒田 チップレットはゲームチェンジャーだ。従来の微細化は資本力を活用して開発を進め、規模の拡大で勝ち組となれた。しかしチップレットは様々な技術の組み合わせ、産業エコシステムの力が求められる。その点、日本には世界トップクラスの材料や製造装置のメーカーがいる。レガシーはもちろん、最先端の製造技術開発にも取り組んでいる。こうしたポテンシャルを生かすことが大切だ。
真岡 1つの半導体製品の中に、組み込まれるチップが増えることに加え、チップ同士の間に挟む材料や、組み上げた際の物理的な強度、熱特性、電気特性など、チップレットは広範にわたる技術やノウハウの融合が不可欠だ。そこで当社は川崎に「パッケージングソリューションセンター」を開設。後工程全体を俯瞰して性能評価できる体制を整えている。また24年度には米国シリコンバレーに2拠点目を開設し、海外の半導体関連企業とも積極的に共創していく計画だ。

三河 当社は前工程の製造装置を扱っているが、ビジネスモデルが変わりつつある。以前は製造側と一緒に開発して納入するスタイルだった。今はニーズを先取りした提案が求められる。そこで積極的なアライアンスやコンソーシアム参加を行っている。チップレットに関しては、前工程で重視された歩留まりが、後工程も含めた歩留まりを高める必要が出てくる。そこに新たなビジネスチャンスの可能性を感じる。
若林 今後、チップレットによって、前工程と後工程の境目がなくなるかもしれない。そうなると、チップレットに必要な統合設計の重要性が高まり、それが付加価値の源泉になる。
入山 半導体産業が産業転換期にあることがよくわかった。今、日本企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が加速している。それを成功させるには小手先のデジタル化ではなく、コーポレートトランスフォーメーション(CX)が不可欠だ。半導体産業にとって大事なのは、経路依存性に陥らずに、インダストリアルトランスフォーメーション(IX)を実行していくことだ。
全方位の「重奏」戦略が鍵
――これまでの議論を聞いて、桑田さんはどう感じたか。
桑田 今我々は半導体の力、競争力を持つことで、今度こそ同じ轍(てつ)を踏まずに半導体産業を成長産業にしていかなければいけない。ポイントは、半導体は製造技術、回路設計、アーキテクチャー、アルゴリズムなど複数の専門が重奏してつくりあがる産業であることだ。その重奏的な高い技術力で、市場ニーズを洞察するインテリジェンス機能により抽出した価値を、半導体として実現していく。だから、どれ一つとして手を抜くことは許されない。全方位の半導体実現力を持つべきだ。でないと競争力のあるチップはつくれないし、例えば、製造技術にのみ注力していては、ただ製造を請け負うだけの存在にとどまってしまう。

今回、市場が求めるチップレットの重要性の議論を通じて、モア・ザン・ムーアへと技術変革の舵を切るタイミングにあることを、改めて確認できた。まさに半導体産業は全方位の「重奏」戦略が求められている。そして日本の半導体産業はチップレットを競争力の源泉に、俯瞰力による「勝ちシナリオ」をつくって、変革をもっと大きなうねりにしていくことが重要だ。
その実現にはエンドユーザーの価値を共有し、共に市場を形成していくパートナーづくりが大切になる。エンドユーザーから得た利益を、半導体への対価価値として配分・還流することで、それを技術開発や設備投資へと再投資するサイクルを回すことが必要だからだ。チップの売り切りモデルではなく、半導体を基盤とした製品・サービスによるバリューチェーンの構築を目指すべきだと思う。
若林 同感だ。半導体は技術革新のスピードが速く、生産設備の刷新に数兆円から数千億円単位の巨額投資が必要とされる。設備投資のタイミングや在庫の見極めが難しく、好不況の波の変動が大きいので、赤字も巨額になる。半導体が戦略物資となった今、国家安全保障的な視点から国内の安定供給体制の構築が喧伝されているが、今後半導体の力で稼ぐ仕組みをつくり上げていく上で、利益配分はとても重要なテーマである。

セミナー
Seminar「日経BizGateイベントガイド」では、
企業が主催する法人向け無料イベント・セミナー情報をご紹介しています。










































