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「人材」と書いたらいけないの? 「人財」が急に広がったワケ

誰かに話したくなるビジネス日本語:「人材」「人財」

BizGateリポート/Learning
生成AIを使えば一瞬にしてきれいな文章を作れるようになっても、ベストセラー本のランキングには「伝え方」「語彙力」「言語化」といったタイトルが並び、ことばへの関心はかえってますます高まっているようです。新聞の校閲畑で30年以上のベテラン、日本経済新聞の小林肇用語幹事からビジネスパーソンのみなさんのために、いまどきの日本語について3分でアップデートするコラムをお届けします。今回のテーマは「人材」「人財」です。

「人財」が登場する記事 2000年代に入り急増

最近、「人材」ならぬ「人財」表記をよく目にします。皆さんも企業のホームページなどで見たことがあるでしょう。ご多分に漏れず日本経済新聞社でも「人財」が付く名称の部署があります。

日本経済新聞社の記事データベースサービス「日経テレコン」を使い、日本経済新聞の朝夕刊(地方経済面を含む)で「人財」が出現する記事の数を調べてみました。1980年代から少しずつ登場し始め、しばらくは年に1〜2桁だったのが2011年以降は100件超となり右肩上がりに増加。2021年に200件、2025年には300件を突破しました。ものすごい勢いです。その多くは企業の人事記事で、「人財本部」「人財開発部長」「人財育成室採用担当」などといった部署・役職名に「人財」の文字が見て取れます。

こうした傾向は、「人財」が好まれてのことだとも思いますが、「人材」という表記に疑問を持つ人がいるのも一因にあるといえます。数年前、ある新聞に載った「『人材』の表現に違和感」という高校生からの投稿が話題となりました。「人材という言葉には、労働者はモノであるといった偏見が染みついている」という趣旨で、その後の報道も含めて、賛否ともども多くの反響があったといいます。

確かに「材」には材料や物のイメージがあり、「人材」に対して「人間をモノ扱いしている」「経営者が社員を材料や部品の一部として見ている」というような抵抗感を持つ人はいます。これに対して同音の佳字を当てた「人財」ならば「社員は会社の宝であり財産」という意味にも受け取れることから、社員を大事にする企業であるとのアピールになるともいえます。企業トップのメッセージを見ていると「人材」よりも「人財」を好んで使う人が増えてきました。

とはいえ、「人材」は決して良くない表記というわけではありません。「才能のある人。役に立つ人物。人才」(大辞林第四版)という意味で、「材」とは「才」のこと。漢和辞典編集者・円満字二郎さんの『漢字ときあかし辞典』(研究社)には、「材」について「〝役に立つ木〟を意味する漢字。『人材』『逸材』『適材適所』のように〝才能〟の意味で使うのは『才』の意味が残っている例。人間を『材木』扱いしているわけではない」との解説があります。

この1月、とあるキャリア開発の研修に参加したところ、次のような「ジンザイ」を紹介していました。人財(卓越した成果を出す価値のある人)、人材(普通の成果をつくる人)、人在(存在するだけの人)、人済(用済みの人)、人罪(悪影響を及ぼす人)――。「人材」よりも「人財」のほうが優れているとのことで、こうした研修ではよく取り上げられる話題なのだとか。字を入れ替えただけの言葉遊びと捉えればよいのでしょうが、「人材」に対する誤解を生みかねず、あまり感心できません。

漢字の持つ意味の一部分だけを見て、ことばの良し悪しを決めつけることは慎みたいものです。私が編著者として関わった『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典』(三省堂)では、2025年刊行の第2版に「じんざい」の項目を新設。標準表記として「人材」を示し、「固有名詞で『人材』を避け、当て字の『人財』が好まれる傾向にあるが、『材』は才能の意味なので『人材』に悪い意味はない」との注記を入れました。新聞の用語担当者として「人材」が「人財」に劣るような表記ではないことを記しておかなければならないと思ったからです。

「人罪」などはともかく「人財」と「人材」に優劣はつけられません。「人財」に託された人を大切にしようという思いは尊重しつつも、「人材」の本来の意味もきちんと理解しておけるといいですね。単に漢字を置き換えるのではなく、「人財」が実態を伴ったものになるよう願っています。

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社用語幹事。新聞の校閲・用字用語の業務に30年以上従事する。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。専修大学国際コミュニケーション学部協力講座講師。文化庁外来語の表記に関する実態調査業務技術審査委員(2023年度)。著書、講演多数。ウェブサイトで「新聞漢字あれこれ」(日本漢字能力検定協会)、「ニュースを読む新四字熟語辞典」(三省堂)を連載中。

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