フィンテックイベント「FIN/SUM 2026」において「補助金×AI×金融」をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、経済産業省経済産業政策局総務課課長補佐の猿渡功己氏、NOBUNAGAキャピタルビレッジ代表取締役社長の峠清孝氏、そしてモデレーターを務めたStayway代表取締役CEOの佐藤淳氏。政策、地域金融、テクノロジーの三者が、補助金を起点とした成長投資のあり方について議論した。
設備投資を起点に 賃上げと成長の循環を
まず政策面では、補助金の役割が改めて示された。猿渡氏は、近年の補助金の規模拡大について触れ、「新型コロナウイルス禍を機に、設備投資を行おうとする企業への補助の規模が拡大し、2桁、3桁億円規模の補助金も珍しくなくなった」と説明。その背景には、日本経済の構造課題がある。「日本の国内総生産(GDP)成長率は国際比較で低い水準にとどまっている。データをみると、生産性は先進国と比べて遜色がないものの、資本投入量と労働投入量が他国に比べて少ない状況が続いている」「設備投資をいかに国全体で喚起し、その成果を賃上げに回して、消費と投資の好循環を生み出せるかが重要」と強調した。

具体的な施策としては、中堅企業への支援強化が挙げられた。猿渡氏は「中堅企業向けに創設した大規模成長投資補助金は、補助上限50億円、補助率3分の1以下という大型の制度」と説明。「2024年の法改正で中小企業と大企業の間に位置する中堅企業の定義が新設された。 この層は過去10年で投資や売上高の伸びが日本経済に大きく寄与してきたにもかかわらず、これまで制度上の位置付けがなかったため、 今回初めて後押しできるようになった」と述べた。
この制度の特徴についても言及し、「最大の特徴は、採択企業に賃上げ率の達成を求め、未達の場合は補助金の返還を求める点にある。中堅企業は各地方で中核となる存在なので、『あそこが上げたのだからうちも上げなければ』という波及効果を地域全体に生み出す狙いがある」と説明。補助金を通じた地域経済への影響に期待を示した。
金融機関の現場におけるジレンマ
こうした政策の一方で、金融機関の現場では課題も顕在化している。峠氏は、東海地域の実情について、「東海エリアは製造業の集積地であり、大規模な設備投資へのニーズが根強くある」と述べたうえで、「自己資金だけでは大型投資に踏み切りにくい中で、補助金が入ることで回収期間が短縮される」と補助金の意義を評価した。

一方で、金融機関の体制には限界もある。「銀行側としても補助金業務を支援したいものの、リソースをどこまでかけるか、外部に委託するかなどは、多くの地域金融機関が悩んでいるところだ」とし、さらに、「AIでできる部分と現場に足を運ばないと作れない部分がある。最後は事業の中身を見極める目利きが必要」と述べた。そのうえで、「AIの時代だからこそ自分たちの目利きと現場力を重ねていくことが、金融機関の強みになる」と強調した。
補助金活用の現場では、テクノロジーの導入も進む。峠氏は、「補助金は1万種類ほどあるともいわれる。金融機関がすべてのハブになるのは現実的には難しい」としたうえで、「外部のサービスや専門家と連携しながら提案していくのが現実解」とした。
その一例として、「Staywayが提供する『補助金クラウド』を使い、書類の下地を生成AIでつくれるのは、本当にありがたい」と評価した。「大型補助金が成約できた事例でも、補助金クラウドの助けを受けながら、行員が最後のひと押しをできたことが大きかった」と、現場での活用効果に言及した。
AIによる業務分担の再設計

補助金業務におけるAI活用について、佐藤氏は「企業が補助金を受け取るまでには、情報収集の難しさ、申請手続きの煩雑さ、交付金の後払いという3つの課題がある」「当社の『補助金クラウド』は、数多くある補助金の中から自社に使える補助金を提案し、生成AIで書類作成を支援するサービス」と説明。実際の効果についても、「中には20時間かかっていた作業が12分まで短縮できるケースもある」と紹介。「AIを使えば文章作成で70点はすぐ取れるが、100点にするのは行員の役割」「作業はAI、お客様の意思を拾い上げるのは人間という分担が現場に浸透してきている」と役割分担についても語った。補助金は、金融機関のビジネスにも変化をもたらしている。
佐藤氏は「補助金の提案は融資にもつながるので、金融機関との相性がいい業務」と指摘。さらに「補助金を取ってもらうこと自体がゴールではなく、お客様の事業を深く理解するための手段だと位置付けている金融機関も多い」と述べ、補助金が関係深化の起点になっていることを示した。
資金面の課題と今後の展開
一方で、制度上の特徴として資金面の課題も残る。峠氏は、「補助金を取っても入金は半年から1年後になる」と述べ、「スタートアップは赤字や債務超過の場合もあり、銀行内の格付けをすると厳しい評価となってしまう。そのため、入金が確実とわかっている補助金のつなぎ融資であっても支援できないケースがある」と指摘した。
佐藤氏も、「補助金の後払い構造が資金繰りの壁になる」「Staywayはものづくり補助金で受給権を買い取る仕組みを全国中小企業団体中央会と協議して構築した。しかし補助金ごとに運営団体が異なるため、横展開は容易ではなかった。現在はそうしたつなぎ融資に対応できるファンドの設立を検討している」と説明。「官民の連携で資金の空白を埋め、成長投資の好循環を途切れさせない仕組みづくりを進めていく」と今後の方向性を示した。
議論を通じて浮かび上がったのは、補助金の役割の変化である。補助金は、単なる資金支援ではなく、設備投資、賃上げ、金融支援、そして事業戦略をつなぐ基盤へと進化しつつある。政策、金融、テクノロジーが交差する中で、補助金は企業の成長戦略を支えるインフラとして、その重要性を一段と高めている。
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