日経メタバースコンソーシアムは2023年の発足以来、持続可能なメタバース空間の利用促進や社会実装の在り方、産業振興について議論を重ねてきた。学者や経営者から政治家や音楽家まで多様な参加者が提言し、メタバース論を深めた。それは明日の社会基盤づくりへの礎となる。推進母体の未来委員会のメンバーが2年間を総括する。
産業活用と社会課題解決へ発展
リモートでの仕事が当たり前となり、フェイスブックが社名変更を発表するなど、次世代の社会基盤としてメタバースに注目が集まり始めた2021年末、日経メタバースコンソーシアムの設立準備が始まった。誰もがまだメタバースについて期待と疑問を持っていたころだ。メタバースとは何かという根本的な問いから議論がスタートし、この2年間でシンポジウムと未来委員会を重ねてきた。議論は未来志向から産業活用へ、そして社会課題解決のためのメタバース活用へと発展した。
日経メタバースコンソーシアムには他の会議体にはない3つの特徴があった。まず産官学が見事に連携し議論を重ねてきた点だ。企業、行政、研究機関がそれぞれの立場で議論を行う。メタバースの実現には様々な技術の進化が不可欠だが、同時に法整備など制度面での議論も欠かせない。企業と行政が建設的な議論を重ね、双方の課題意識を包み隠さずぶつけあってきた。
2つ目の特徴は参加者の多様な顔ぶれだ。性別年齢はもちろん研究者、会社員、エンジニア、起業家、音楽家、監督、アーティスト、官僚まで国内外から様々な立場の人が登壇した。参加者の立場の多様性は議論される意見の多様性に直結する。それぞれの立場からメタバースが作る未来について徹底的に議論をしてきた。3つ目はメンバーが一堂に会する未来委員会で批判的かつ建設的な議論が行われたことだ。互いの意見を褒めあう形式的な会議ではなく、立場が異なってもメタバースに関する課題意識を率直に伝える文化が根付き、学術会議の論文発表の場のようでもあった。
生成AIはメタバースの要素技術
21年以降、生成AIをはじめ技術の進化はさらに加速し、メタバース構築で課題となっていた3D技術の国際標準化も着実に進んでいる。メタバースはエンタテインメント利用だけでなく高齢化や人口減少、地域活性化など、日本が抱える社会課題の解決策の一つとして大きな可能性を秘めている。例えば、高齢者がアバターを通じて社会参加できる世界、あるいは人口減少に悩む地域がメタバース空間で新たな経済活動を生み出すという未来は近い将来に実現するだろう。
生成AIの登場でメタバースへの期待が薄れたという声も聞くが、それは短絡的だ。生成AIはメタバースの要素技術として活用され、仮想空間のシミュレーションは産業界でより加速している。先日アップルが発売したゴーグル型端末は、高度な空間コンピューティングと空間音響が融合され、当シンポジウムにおいて音楽家の小室哲哉氏が2年前に予見していたエンタテインメント体験が実現に近づいていることを我々に示してくれた。
相互理解を深められる世界
メタバースという言葉の意味は、この3年で大きく変化した。21年にはまだ見ぬ未来の技術や体験を指していたが、いまやメタバースは産業界に着実に浸透しつつある。いずれはメタバースという言葉は使われなくなり、当たり前のように仮想空間と現実が高度に融合した世界が訪れるはずだ。
当シンポジウムで映画監督の細田守氏が「現実社会は課題であふれている。デジタル空間でその課題を解決する方法を見つけ、現実に解決策をインストールすることで、メタバースは様々な社会課題を解決に導く事ができるはずだ」と語った。近い将来、メタバースはより豊かな社会を我々に提供する技術となるだろう。すべての人々が物理的な制約を超え社会参加できる世界。地理的な制約を超え相互理解を深められる世界、メタバースで新しい社会活動の扉が開かれるはずだ。
(日経イノベーション・ラボ 事務局長 山田剛)

人間の知識欲を満たす時代
カヤックアキバスタジオCXO 天野 清之氏

デジタルネーティブの台頭とゲーミフィケーションの普及がデジタル世界への接続とコミュニケーションを加速させている。AIは、世代間コミュニケーションとデジタルスキルの差を縮小し、デジタルイマージョン(物理的な現実世界とデータによるデジタルな世界が融合すること)によって現実とデジタルの境界を曖昧にしていくだろう。これにより、高速情報処理が可能な超情報化社会を実現し、現実だけでは得られない体験や専門知識の探求が促進され、人間の知識欲を満たす時代が到来すると見込まれている。
未知の領域への探求を可能にするメタバースとAIは、私たちの進化を加速させるために不可欠だ。両者の普及は生活様式や産業構造を変化させていき、少子高齢化で労働人口が減少していく日本にとってはSDGs(持続可能な開発目標)的な観点からも必要と考えている。メタバース空間で複数のAI搭載型NPC(ゲーム空間をはじめメタバース空間に存在し、プレーヤーが操作しない「ノンプレーヤーキャラクター」のこと)を使いこなす働き方が実現すれば、人手不足が深刻な物流業界の課題解決にもつながるはずだ。
メタバースを新たな社会基盤とし、メタバース上での経済活動を活発化させるためは、まずは都市情報のデジタル化が急務となっていくだろう。
将来への布石を残そう
ソニー・ミュージックエンタテインメント シニアアドバイザー/フォワードワークス 取締役会長 橋本 真司氏

2年前に委員会がスタートした時は、デジタル技術が急速な進化を見せ、DX化が一気に進み、メタバースというデジタル空間が、我々人間が共有かつ利用できる場として存在感を持ち始めたタイミングだった。その後、コロナ禍などの外的要因もあって、テレビ会議などデジタル空間のビジネス利用が普通に行われるようになった。ビジネスとデジタル空間の相性の良さへの理解が進み、ビジネススタイルそのものの変化につながった。特にメタバースは、時間や距離などの制約を取り払い、そこでの活動が広がっていくことで、産業利用の事例が次々と出てきた。生成AIなどが登場し、新しい発想が生まれ、大きな種まきの期間であったと思う。そんな中、委員会の場で産官学の専門家の皆さんと意見交換できたことは大変貴重な経験であった。
今、様々な試行錯誤が行われる中、理想とされるデジタル空間の実現に向けてもっと精度を上げる必要がある。課題は真正性の確保や活用ルールの整備、収益性の担保などだ。技術進化のハイスピードが人間社会に与える影響も危惧される。しかし諦めてしまったら未来はない。生みの苦しみというか、幾多の失敗を乗り越えて成功に向けて踏み出せるように、トライし続けることが大切であり、創意工夫が欠かせない。一時的に失敗しても、将来への布石を残しましょう。
ツールではなく活動基盤そのもの
東京大学 名誉教授/東京大学先端科学技術研究センター サービスVRプロジェクトリーダー 広瀬 通孝氏

仮想現実(VR)とメタバースは密接な関係を持つ。ある人はほとんど一緒ではないかとも言う。しかし、VRは単なるツールであるのに対し、メタバースは我々の活動基盤そのものである。ツールは気に入らなければ捨てればよいが、基盤となるとそうともいかないだろう。未来委員会での議論で最も意識した事項は、まさにこの点についてである。
メタバースは電子的な活動空間であるには違いないが、単なる空虚な空間ではない。そこで営まれる様々な活動を含めた全体こそがメタバースである。そのためには現在の我々の社会におけると同様、様々なルールや仕組みが必要となる。そのルールについては様々な考え方があるわけで、何が好ましいかについては議論が尽きない。
人々の活動が電子社会に軸足を移していくであろうことは、コロナ禍を経てますます既定路線になりつつある。どんな電子社会に我々が住むようになるかは、放っておいてよい問題であろうはずがない。個々人と社会の関係は必ずしも単純ではない。個人が集合して望ましい社会が自動的に発生するわけではないが、かといって社会のアーキテクチャーが個々人の活動を規定するのも気味が悪い。
VRになくてメタバースに存在すべき理論はこの部分ではないだろうか。メタバースは「モノ」でなく「コト」なのである。
実践の積み重ねに期待
国土交通省 総合政策局/都市局 IT戦略企画調整官 内山 裕弥氏

この2年の間にも、メタバースを巡るムーブメントは目まぐるしく変化している。メタバースをうたったコンシューマー向けサービスの領域では、この数年間の熱気にも関わらずいまだにインストリームに訴求するプロダクトを生み出せておらず、市場の期待も失速気味である。他方、ゲームエンジンをはじめとする開発環境や位置測位技術、デバイスなどXR領域の技術的進化のスピードには目を見張るものがある。
国土交通省都市局が2020年から進めている都市デジタルツイン「PLATEAU(プラトー)」は、現実の都市空間を再現したデータを作り、防災や環境、まちづくりなどの分野で新しいソリューションを生み出そうとするプロジェクトだ。既に様々な官民のシステムでデータが使われており、実装フェーズが進んでいる。PLATEAUを使ったメタバース系のサービスも多い。
静的な地理空間情報である都市デジタルツインが空間コンピューティングにおける基盤的レイヤーとしてその役割を明確にしつつあるなか、産業インフラとしてメタバースを位置付けていくためには、その役割を今一度議論する必要があるだろう。それは体験なのか、技術領域なのか、コミュニケーション方法なのか。委員会における議論がその端緒を得て、ますます多くの実践が積み重なっていくことを期待したい。
社会基盤の一端を担う存在に
TOPPAN 情報コミュニケーション事業本部 フロンティア事業開発センター 先端表現技術開発本部 ビジュアルコミュニケーション開発部 部長 山田 晃弘氏

プロジェクトで議論してきたメタバースの社会基盤化は、当社にとっても大きな関心があった。これまでも印刷技術の蓄積を生かした高精細のメタバースや、リアルアバターなどを開発・提供してきた。加えて現在、新たな方針として「コミュニティーを作ることができるメタバース」の実現を目指している。にぎわうメタバースの創出には、メタバースを何度も訪れる動機が必要。その動機となるものがコミュニティーだと考えている。自分らしさや多様性を発揮しやすい特性を生かすことで、メタバースならではのコミュニティーが形成できるはずだ。
生活の置き換え進む
大日本印刷 ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット 副ユニット長 宮川 尚氏

コンソーシアムに参加した2年間で最も実感したのは、"普段の生活の置き換え"としてメタバースという選択肢が広がり、「これは使えるのではないか」という状況がどんどん出てきた点です。学校の授業や研修、特定領域の実務利用などにおいて様々な実証を進める中、「いるだけで楽しかった」「身振り手振りが好印象だった」など、空気感を共有できることが画期的だと感じました。DNPとしてこれからも様々な分野で置き換え可能な拡張体験としてのメタバースに積極的に関与していきたいです。
DNPは総合印刷会社であり、これまでは情報の印刷という形で、様々なものに技術を転用して業態・業容を拡大してきました。現在はメタバース空間の社会実装を推し進めていますが、今後技術革新が進むことで、新規事業創出につながっていくと期待しています。クロスリアリティー(XR)は新しい印刷技術として捉えており、例えば時間や空気感、関係性なども印刷できるのではないかと社内では議論しています。
未来委員会では多様な議論が行われ、貴重な機会を得られました。今後グローバル起点で政府や産業界と一体となり、ルールメークしていくことが非常に重要になってきます。それに対してどう貢献できるか、どこをどうリードできるかを、社内で言語化し、具体的な活動にしていくことが今後の課題と考えています。
「普段使い」へ環境づくり
総務省 情報流通行政局 参事官 山野 哲也氏

地理的、身体的、時間的な制約を超えるメタバースは、自治体サービスや地域活性化、遠隔作業や研修など、様々な場面で活用されている。日経メタバースプロジェクトに参加する中で、先進的なユースケースに触れ、産業・社会インフラの一つとして多様な場面でメタバースが一層活用されていくと実感した。
今後、インフラとしての役割が増す中で、ユーザーが安心・安全に利用できる環境づくりが一層重要になる。昨年10月より、総務省では「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」を開催し、民主的価値を踏まえたメタバースの将来像の醸成を念頭に、自主・自律的な発展や信頼性向上に関する原則について検討を進めている。今後は、我が国が国際的な共通認識を主体的に形成する役割も果たしていきたい。
産業分野や自治体などでの活用事例が増える一方、個人ユーザー同士の日常的なコミュニケーションの場としてのメタバースは、一時に比べて落ち着いている印象もある。他方、本プロジェクトでは、コミュニティー形成の場としてのメタバースの発展に向けた取り組みの紹介や関連する議論がなされ、明るい未来を描くことができた。今後、技術の進展やデジタル社会の浸透が一層進んでいく中、ユーザーが「普段使い」できるメタバースの発展に向けて、引き続き取り組んでいきたい。
メタバースの基盤化、産業インフラとして可能性
NVIDIA エンタープライズマーケティング シニアマネージャー 田中 秀明氏

この数年で企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は大きく進展、先行する自動車産業での工場デジタルツインを初め、ロボットからアバターまで多くのモノが3次元(3D)仮想空間のなかで動き始めている。ここに新たに生成AIの活用も始まり、DXの流れは一層早まるだろう。
提供開始から3年目を迎えた「NVIDIA オムニバース」はデジタル化に向けた構築プラットフォームとして活用が進み、生成AIとの連携や、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」とのリンクなど対応範囲も広げている。2023年に開始されたOpenUSDでの産業用3Dデータのオープンスタンダード化を始め、現在はこれまでのデジタル化での課題解決と新しいテクノロジーが出そろう段階に来たといえる。
これから急速に産業デジタル化が、いろいろな業種で同時多発的に始まると期待される。製造業だけでなくコンテンツ産業も含め3D仮想空間の利用が一気に進み、さらにコラボレーションの技術により、多種多様な業界が垣根を越えてつながることが可能になるわけだ。ここで必要なのが基盤としてのメタバースだろう。
2年間のコンソーシアムでは、NVIDIAの取り組む産業メタバースを紹介してきたが、ようやくクリアな道筋が見えてきたように感じる。いよいよ本番、皆様と共に進められることを楽しみにしている。
AIやロボットXRとの連携不可欠
一般社団法人メタバース推進協議会では、新たな社会インフラとなり得るメタバースが、人間本来の暮らし方の探求、生活文化の継承につながると考えている。今までもこれからも、人がつくる生活文化に新しい技術がどう役立つのかという視点は変わらないのではないか。
今後はAIやデジタルヒューマン、ロボット、XRといったテクノロジーを進化させ、メタバースと連携していくことが必要不可欠だと考えている。
め3D仮想空間の利用が一気に進み、さらにコラボレーションの技術により、多種多様な業界が垣根を越えてつながることが可能になるわけだ。ここで必要なのが基盤としてのメタバースだろう。

新たなパートナー連携で社会実装
Metaverse Japan(MVJ)は、日本を代表するメタバース団体として3期目を迎え、産官学を横断し中立的な立場での活動を展開しています。また、私自身は渋谷にて「バーチャル渋谷」や「AIR RACE X」など、具体的にメタバースを活用した街づくりも行っています。ユーザー交流や地方自治体、企業まで幅広い事例が生まれており、リアルとバーチャルの連携や生成AIとの融合など、環境の変化に柔軟に対応しつつ、新たなパートナー連携や実験的な試みを推進し、社会実装を促進してまいります。

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