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ソブリンAI時代の日本 文化圏創造が生む新たな価値

生成AIサミット(GenAI/SUM)2025 パネル討論から

生成AIサミット
日本のAI開発のトップランナー2社の社長と国の研究機関、そして経済産業省関係者が、日本のためのAI開発とデータ整備、企業育成について議論した(右から、丹波氏、岡野原氏、鳥澤氏、渡辺氏、モデレーターの日本経済新聞 伴正春記者)

米国の巨大テック企業が主導するAI(人工知能)開発に対し、日本やAPAC(アジア太平洋地域)諸国はどのようにローカルAI戦略を構築し、勝ち筋を見つけるのか。2025年10月6日に都内で開かれた「生成AIサミット(GenAI/SUM)2025」では、AI開発のトップランナーであるSB Intuitionsの丹波廣寅社長、Preferred Networks代表取締役の岡野原大輔氏、情報通信研究機構(NICT)の鳥澤健太郎氏、経済産業省の渡辺琢也氏が「ソブリンAI時代の羅針盤 〜日本が目指すデータの自立と文化圏の創造」をテーマにパネル討論。データの自立性を確保しながら、地域に根ざしたイノベーションを創出し、グローバルなAIエコシステムの中で日本が存在感を築く方策を議論した。

文化や価値観になじむ答えを出せるソブリンAIが必要

丹波 廣寅 氏 SB Intuitions 代表取締役社長 兼 CEO、ソフトバンク 執行役員 次世代技術開発本部 本部長

丹波 廣寅 氏

「企業のAI活用には2つの側面がある。一つは言葉でAIに指示を与えてツールを使うこと、もう一つはAIから出力された回答を利用することだ。どちらも言葉を扱うが、言葉とは文化的・歴史的・教育的な情報の蓄積そのものだ。我々の財産であり、日本の文化や価値観になじむ答えを出すためにも『ソブリン(主権)AI』が必要だ」

「今後はロボットをAIで制御し経済活動を行う時代がやってくる。ロボットを制御するためのAIを育てるには、教師役となる高性能なAIが必須だが、今の日本にはそこまで賢く大規模なAIが存在していない。それがなければ、どれだけ出口を用意しても売り物にならないだろう。日本人が腑(ふ)に落ち、国内にインフラがある教師役のAIをいかに構築するかが一番の課題だ」

「ソフトウエア時代は開発すれば終わりだったが、AIは作ってからがスタートだ。運用フェーズでいかに時間と予算を投入できるか、資源を配分できるかが、日本の競争力を左右する重要な要素になる」

国内企業のノウハウを迅速に共有して強力なモデルを

岡野原 大輔氏 Preferred Networks 共同創業者 代表取締役 最高技術責任者

岡野原 大輔 氏

「現在の生成AIは萌芽(ほうが)段階で、ユーザーが既に体験している機能はまだ全容の1%程度に過ぎない。今後起こりうる大変革に対応するには、日本も今の時点で技術力を持たねばならない」

「LLM(大規模言語モデル)開発を手掛けるなか、データ収集、加工、フィルタリング、モデル学習、評価といったプロセスの無数の段階で意思決定に迫られる。国や企業が本格的にAIを実装し、競争上重要なデータを活用する際、コントローラビリティー(操作可能性)は一層重要だ。海外に依存したままではいざという時に対応できず、日本でも同等の選択肢を用意しておく必要がある」

「翻訳など特化型モデルでは、日本語データを従来にない規模で投入することで、極めて高い性能を実現できている。質の良いデータを活用できる状態にするために、企業間でノウハウを迅速に共有して強力なモデルを共同開発することが必要だ」

700億ページ超の日本語ウェブデータのデータセットが完成

鳥澤 健太郎氏 情報通信研究機構(NICT) フェロー

鳥澤 健太郎 氏

「NICTが20年近くにわたり収集してきた700億ページを超す日本語ウェブデータをクリーニングし、約17テラトークン(生成AIが処理をする際の情報量の単位)の日本語データセットが完成した。海外ビッグテックと比べても競争力ある大きさだ。さらに多言語音声翻訳システムから得られた対訳データや音声データも豊富に保有している。これらを国産生成AI開発に取り組む民間企業に提供する試みを始めた」

「日本のコンテンツホルダーが保有するデータは、生成AIにとって希少価値が高い『種』だ。日本企業はデータを外に出さずに守る姿勢が強かったが、LLMが急速に進化するなか、コンテンツホルダー自身がその姿勢を見直す動きも始まっている」

「偽情報やバランスの欠けた情報を出力するなど、LLMの問題のある振る舞いを自動検出する『能動的評価基盤』の構築を検討している。LLMの応答を自動評価し、問題があれば矯正用の学習データを自動生成する枠組みだ。リスク対処と同時に既存LLMの改善をもたらすと期待している」

AIを作れる国へ 国家レベルの対応が必須に

渡辺 琢也 氏 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長 兼 情報産業課 AI産業戦略室長

渡辺 琢也 氏

「生成AIは文字・会話だけでなく、あらゆるデータから効率的に知識を生成できる汎用性を持つ。社会経済の本質とはデータの変換であり、社会のあらゆる領域にAIが入り込むことになる」

「AIの浸透を前に、国家レベルでの対応が必須となっている。一つは安全保障面で、国際貿易は各国の主権が絡み、自由貿易が永続する保障はない。デカップリング(分断)は既に一部で現実になっている。次に、成長産業に日本が貢献できなければ、富は海外に流出し続け、デジタル赤字がさらに拡大する。日本はAIを作れる国へ転換しなければならない」

「2024年2月から開始した経済産業省の生成AI開発支援プログラム『GENIAC(ジーニアック)』では、Preferred NetworksなどがLLM開発に挑戦している。目指すところは汎用AI開発支援ではなく、エコシステムを根付かせることだ。先発企業が作ったAIを基盤に、多くの組織がそれを活用して独自のAIを開発する好循環が競争力を生むだろう」

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