
国内最大級の広告クリエーティブフェスティバル「虎ノ門広告祭」が2025年10月17〜24日、東京都内で初めて開催された。21日に開かれた「社会課題×クリエイティブの最前線」と題するパネルでは、「日本は、義理チョコをやめよう。」「注文をまちがえる料理店」「鳥肌が立つ、確定申告がある。」といったユニークなアイデアを打ち出してきた3人のクリエーターが、それぞれの流儀について語った。広告・キャンペーンの枠にとどまらず、社会課題の解決の必要性を強く訴えた。司会はZ世代インフルエンサーの長谷川ミラさんが務めた。
オリエンシート、いったん横においてたどり着いた広告
岡本欣也氏 コピーライター・クリエイティブディレクター
長谷川ミラ 2018年にゴディバジャパンの「日本は、義理チョコをやめよう。」という広告を手がけて話題になりました。

岡本 元々はバレンタインデーにチョコレートを売ることを考えなければなりませんでした。広告なので当然そこに向かっていきます。いろいろ議論しました。何を訴えたら、ゴディバという企業がより目立ち、より良いものに見えるのか――。そうした中で「あらゆるものが老朽化しているね」という話が出ました。「建物や高速道路、そして目には見えない制度みたいなものも、どんどん古びていって……。そういえば義理チョコってあるけど、あれって、どうなんだろう」といった意見でした。(企画の目的などを広告主に聞き取ってまとめる)オリエンシートを、いったん横において、まっさらなところから考え、たどり着いた広告です。
長谷川ミラ 実際、女性にとって義理チョコは「負担」でした。でも、ゴディバにとっては耳が痛いコピーでもあったはずです。
岡本 採用が決定されるまで、社内ではいろいろ議論があったようです。広告記事は、ゴディバジャパンの社長の名前で締めくくられています。署名が入った提案として良い意味でのパフォーマンスになったということです。私自身、コピーライターとして提案する際、手紙を添えています。手紙ってアナログそのものですよね。でも、人の心を最も動かすのは紙に書かれた手紙じゃないかと。タレントに出演をお願いする時も、なぜか手紙だとうまくいく。気持ちを凝縮して1枚にまとめていくことが何よりもパワーを持つと思っています。
長谷川ミラ 日本たばこ産業(JT)の「あなたが気づけばマナーは変わる。」シリーズも衝撃的でした。コピーが「たばこを持つ手は、子供の顔の高さだった。」でした。

岡本 広告主は消費者に対し、ガンガン注意していくことを基本やりたがりません。JTにとっては、たばこを買ってくれる人が一番大事です。ただ、これからは吸わない人のことも含めて「全体の幸せみたいなことを考えていかなければ」と提案しました。了承したJTの度量も大きかった。広告は広告主の都合のいいことを発信するシステム。だからこそ常に警戒が必要です。せめて嘘にならないような広告であるべきです。大抵クライアントのいいなりですけど「いける時はいくぞ」が大切です。
この指止まれの「指」が大切
小国士朗氏 小国士朗事務所 代表取締役
長谷川ミラ 「注文をまちがえる料理店」が話題になりました。

小国 注文と配膳を担当するスタッフ全員が認知症の状態にあるレストランです。認知症なので間違ったり忘れたりしますが、客は怒りませんし、クレームもありません。なぜかというと、店の名前が「注文をまちがえる料理店」ですから。間違いを受け入れて笑ってしまおう、というプロジェクトです。
NHKのディレクターとしてドキュメンタリー番組の制作に携わり、認知症介護のプロフェッショナルを取材しました。あるグループホームでは認知症の方々が料理もしていて、献立にはハンバーグと書かれていた日にギョーザが出てきたことがあった。ツッコミを入れようと思いましたが出来なかった。だって、みなさん、おいしそうにパクパク食べていたから。間違いは、その場にいる人たち全員が受け入れると間違いではなくなることに気づきました。「この風景を、もっとつくりたい」「ネーミングするなら何だろうか」と考え、「注文をまちがえる料理店」なら面白いとなりました。
長谷川ミラ ご自身の流儀とは。
小国 この指止まれの「指」が大切です。「注文をまちがえる料理店」は最高のエンターテインメントをうたったもので、認知症という文字は入っていません。「認知症の人がキラキラ輝く料理店」という指を立ててもよかったでしょうが、その瞬間、指に止まらない人がたくさん出るだろうなと思いました。世の中の人の大半は「にわか」です。その「にわか」であっても参加しやすい、何かを考えることが大事だと思っています。みなさん結局、社会課題を解決したいという欲望より、日々楽しく暮らしたいという欲望のほうが強いのです。

とはいえ、「注文をまちがえる料理店」において恣意的に間違いが起きるようにした瞬間、全てがおかしくなります。やっぱり間違えない準備を重ねないと。それでも間違えた時に「まぁ、いいか」となる。でも客は間違いを期待しますね。「オムライスを頼んだら、オムライスがきました」というクレームもありました。でも、そのクレームの後に「認知症の方って普通ですね」という一言もありました。接点ができたのは結構すごいことです。
社会課題に関わる広告に「ホープ」と「ざわつき」を
長谷川輝波氏 電通 クリエイティブディレクター
長谷川ミラ 知的障害のあるアーティストの社会参画に取り組む福祉スタートアップ、ヘラルボニー(盛岡市)をサポートしています。

長谷川輝波 「鳥肌が立つ、確定申告がある。」というグラフィックスを起点にキャンペーンを展開しました。ちょっとドキッとするコピーの下に、確定申告の書類(数字は空欄)とヘラルボニーと契約するアート作家の家族からのエピソードを紹介するメッセージを並べました。作家の親のツイートは「年明けには確定申告が始まりますが、今年はヘラルボニーさんのおかげで稼ぎが数百万円規模になったという知らせがあり、すごくうれしかった」という内容。私にも障害を持った親戚がいて、重度の障害のある人の稼げる金額が、おおむね年間20万円と分かっていたから、数百万円という数字の桁に鳥肌が立ちました。そのまま広告にするのが一番強いと思い、キャンペーンに仕立てました。

グラフィックスは国税庁や盛岡税務署の最寄り駅、かつ出口に近いところでの屋外広告になりました。ヘラルボニーは1月31日を「異彩の日」という記念日にしています。「世の中の障害のイメージを変える企画がやりたい」というお題をいただいていたので、確定申告直前にこの企画を実施するのはピッタリだなと思いました。確定申告は多くの人にとって無味無臭だと思いますが、「鳥肌」というコピーを組み合わせることで振り向いてくれたのではないでしょうか。
長谷川ミラ 大切にしている心構えを教えてください。
長谷川輝波 2つあります。1つは「ホープ(希望)」です。社会課題に関わる広告とかキャンペーンは、マイナスをゼロにするようなものが多い。もう少しポジティブに、ゼロをプラスにする広告を作りたい。もう1つは「ざわつき」です。社会課題に取り組む際、「正しいことしか言っちゃいけない」「背筋を伸ばして考えなきゃいけない」では学校の先生に説教されている感覚になってしまいます。ゾクゾク、裏切り、ハッとする気づきこそ、広告ができるアプローチです。
パネル討論「社会を変えるのは、広告か?それ以外か?」
長谷川ミラ 本日のテーマは「社会を変えるのは、広告か?それ以外か?」です。
岡本 広告の効果は、何人が目にしたか、何人が「いいね」を押したか、で測られがちです。一方、一人一人の心に深く刺さったのかという、今のところ数値化されてない部分もあります。バズるより染み入る。これが大事なんだと思っています。社会課題を普段から意識して広告をつくっている訳ではありませんが、どうやら頭の中では常につながっているみたいです。きょうの機会を得て、気づかされました。
小国 「動くか?動かないか?」だけに関心があります。視聴率10%超で1000万人に届いても、1人も動かなかったら意味がない。それよりも1人に届いて1人が動いているほうがいい。例えば、SDGs(持続可能な開発目標)のパネルを目にして反対する人は誰もいないわけです。でも「何をすればいいんだろう」「テーマがでかすぎて」となるのは、もったいない。「広告か?それ以外か?」なんてどうでもいい。アクションできるアイデアを考えていきたい。
長谷川輝波 今はネガティブなツイートが次々に目に飛び込んできます。自分のSNS(交流サイト)のタイムラインのアルゴリズムが腐っているのかもしれませんね。そのような社会の空気を「清浄化したい」と考えていて、広告ならできるかなと思います。ポジティブな言葉を発信したい。

(関嗣明)
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