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デジタル詐欺広告と広告詐欺の違い 企業に必要な対応は

アドテック東京2024 Special Session

BizGateリポート/Creativity

マーケティングに関するアジア最大級の国際カンファレンス「ad:tech tokyo(アドテック東京)」が2024年10月16〜18日、東京・六本木で開催された。コムエクスポジアム・ジャパン(東京・港)が主催し、国内外の専門家や企業関係者が最新の広告マーケティングの成功事例などについての講演やワークショップを展開。18日のスペシャル・セッションでは「詐欺広告と広告詐欺〜両者の違いと広告業界が築くべき信頼性・透明性」をテーマに企業関係者と専門家ら4人が意見を交換した。

偽広告に関する報道が増えている(左から山口氏、牧江氏、小出氏、森氏)
セッション参加者
司会:山口 有希子 パナソニック コネクト取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO DEI担当役員、カルチャー&マインド改革推進担当役員
牧江 邦幸 日本経済新聞社 常務執行役員 メディアビジネス担当
小出 誠 一般社団法人 デジタル広告品質認証機構 事務局長、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 客員研究員
森 亮二 弁護士法人英知法律事務所 パートナー弁護士

広がるSNSプラットフォーム事業者への強い疑念

山口 デジタル広告の現状はどうなっているのでしょうか。

牧江 ネット広告への信頼性が揺らいでいるとの懸念から、日本経済新聞では(関連する)記事として取り上げることが増えています。例えば、(9月25日付朝刊に)証券会社の偽広告が累計1万件配信されていたという調査報道による記事を載せました。

 (ZOZO創業者の)前沢友作氏がフェイスブックやインスタグラムで自分の画像が使われ、詐欺広告が出されたことを(運営元の)メタに抗議。メタ社の対応に怒りを表明したことで、世の中で(メタのような)プラットフォーム事業者に対する疑念が強く生じました。SNS型投資詐欺による被害金額(警視庁調べ)は2024年4月をピークに減少しているものの、依然として高い水準にあります。

牧江 広告詐欺については、英国の調査会社の調べで、広告支出額の23%(を占める広告)がMFA(メード・フォー・アドバタイジング)という生成AI(人工知能)で作られた読者不在のサイトに流れており、(広告主の)被害が急増しているとの記事もありました。

小出 AIによって(作られた)MFAが2022年ぐらいから増えて大問題になっています。簡単に広告だらけのサイトを作ることができ、そこに広告が流れ込んでいる。広告主側はそこに(自社の)広告が出ているという意識すらないでしょう。

山口 米国では(MFAが)全広告の21%に達するとの報告もあるなど、広告主の広告費をだまし取るためのメディアが広がっています。ところで、「詐欺広告」と「広告詐欺」はどこが違うのでしょうか。

小出 詐欺広告とは、だましているのが問題のある広告主で、被害者は一般の利用者です。一方、広告詐欺は被害者が一般の広告主となります。デジタル広告品質認証機構は広告詐欺から一般広告主を守ることが(事業)領域です。広告詐欺として一般に知られる「アドフラウド」とは、自動化されたプログラムによって閲覧数やクリックが水増しされて請求され、広告費がだまし取られている問題のことです。何も対策しないと(広告費の)10〜20%くらいだまし取られているといわれています。このほか広告が不適切なサイトに掲載され、ブランドが毀損する「ブランドセーフティー」の問題もあります。

「詐欺広告」と「広告詐欺」はだます主体と被害者が異なる(写真は主催者のウェブサイト動画の一部)

ブランドセーフティーへの認知が低い日本の広告主

山口 デジタル広告の仕組みを簡単に説明します。広告主が広告会社を経由するか、直接的にデジタルプラットフォーム事業者を通じて、プラットフォーム事業者か他のメディアに広告を掲示し、最終的に視聴者に届きます。日本ではプラットフォーム事業者経由のデジタル広告がほとんどです。広告主もメディアも玉石混交で、良い広告主・メディアもあれば、問題のある広告主・メディアもある。質の悪い広告が増えると、メディアと消費者は被害を受けます。一方、質の悪いメディアが増えると、広告詐欺が増えます。つまり、プラットフォーム事業者の(広告の)審査が甘いと不健全な広告やメディアがまん延するのです。そして真面目に広告を出そうとしているメディアや広告主、消費者が最終的な被害者になります。

小出 アドフラウドは対策した場合でも日本は3.3%くらい発生しており、全世界の平均(1.4%)や米国(2.2%)より高い。一方、ブランドセーフティーについて、米国では強く留意するのに対し、日本では(クリック数などの)コンバージョンにこだわるのにブランドセーフティーへの認知は低い傾向にあります。特に広告主がブランドセーフティーの認知度も対策実施の割合も低いことが大きな課題です。

牧江 日本では大手プラットフォーム事業者が国内デジタル広告費(2021年)の8割を占めます。一方、米国は64%です。米国では「PMP(プライベート・マーケット・プレイス)」と呼ばれる広告主と媒体社を限定した広告市場が20%を占めます。

アドフラウドの発生率は日本が世界平均や米国より高い

政府は広告主・経営者向けガイドラインを検討

山口 日本には(デジタル広告の)健全な広告主と健全なメディアを直接つなぐPMPのような市場がありません。政府はどのような対応策を考えているのでしょうか。

 プラットフォーム事業者に特化した法律はすでに4つあり、さらに「偽・誤情報規制法」がこれからできる見通しです。総務省は詐欺広告について2018年以降に3つの検討会で議論してきました。このうち『デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会』(2023年〜)は、プラットフォーム事業者の役割が変化し、情報流通の場としての公益性が高まっていると指摘。「なりすまし型」の偽広告が流通・拡散するリスクを問題視しています。プラットフォーム事業者の自主性に委ねていては、デジタル空間における情報流通の健全性は脅かされるとみています。

 では(政府は)どんなことするのかということですが、総務省は広告主・経営陣向けのガイドラインやガイドブック(の作成)を検討しています。具体的には①掲載したくない配信先のブロックリスト②掲載したい配信先のリスト③PMPの活用④アドベリフィケーション(広告検証)ツールの導入⑤第三者機関による認証などを取得した広告仲介プラットフォーム事業者・広告事業者の利用⑥質の高いメディアの技術活用――といった取り組みを盛り込む予定です。

山口 森さんはプラットフォーム事業者についてどう思いますか?

森 日本のマスメディアは広告審査をしてきましたが、これは法的な義務ではなかった。一方、プラットフォーム事業者は株主を意識して経済合理性に基づいて行動するので、(違反した場合の)制裁金などがない限り、広告審査を見送ることになってしまいます。こうした問題について、総務省も法制度の必要性は認識しています。

プラットフォーム事業者に特化した法律は4つあり、さらに「偽・誤情報規制法」ができる見通しだ

内容が真実であることを可視化する技術を実用化へ

山口 メディアは何をすればいいのでしょうか。

牧江 日本インタラクティブ広告協会では、プラットフォーマー5社がワーキングチームを作り、広告をモニタリングする動きがあります。怪しい広告を見つけた場合には配信をやめたり、アカウントを停止したりするなどの措置を取るのです。このほか、運用型広告への適合などを念頭に、広告掲載基準ガイドラインを10年ぶりに改定します。読売新聞社や慶応義塾大学が中心となって開発したOriginator Profile(OP)は、ニュースがSNSなどで拡散された時にその内容が真実であることを可視化する技術で、全国紙や放送局が資金を出して2025年の実用化を目指しています。

広告主は広告本来の目的に立ち返った視点を

山口 広告主はどんな対応を取るべきでしょうか。

小出 日本の広告主は(クリック数など)コンバージョンなど何らかの成果が出ていれば、ブランドセーフティーなんてどうでもいいと考える傾向があります。CPC(クリック単価)やCPA(顧客獲得単価)をKPI(重要業績評価指標)にして判断しています。しかし、デジタル広告も広告本来の目的に立ち返った視点を持つことが必要です。本当に広告が効いているかは、視聴した人が広告を受け入れたかという「受容性が大切。従来の広告の世界では(どこに載るかという)掲載環境を大切にしていました。例えば、屋外広告であれば、風俗店の横に出すことを認める(広告担当)部長はいないでしょう。(デジタル広告も)広告到達の「質」を大切にしないといけない。

小出 人間はデジタルの世界だけで生きているわけではない。デジタル広告の成果を電子商取引(EC)の売り上げだけで判断する向きもありますが、経済産業省の調べでは日本のEC化率は9%しかない。デジタル領域だけの広告の成果なのか、リアルの売り上げを含む全体の成果なのかという視点を持つことが大切です。例えば、男性向け化粧品のデジタル広告をアダルトサイトに出して商品がたくさん売れたとしても、実際は9割がドラッグストアで売れる商品だとしたらそのブランドはどうなってしまうのでしょうか。デジタル情報空間の劣化が進めば、リーチ単価だけを重視する広告出稿や媒体面の単価の安さ競争につながっていく。この結果、価値のない情報ばかりのコンテンツが氾濫してしまう。広告主を中心に掲載面を選ぶ広告活動を取り戻し、媒体の質にあわせた市場を形成しないといけません。

おかしなデジタル広告は民主主義すら破壊するおそれがあるという

おかしなデジタル広告は民主主義を破壊する

山口 デジタル広告はデジタル空間における情報流通のいわば「燃料」です。広告が変な形で使われると、大げさではなく民主主義を破壊する可能性すらあると思っています。フェイクニュースが増え、詐欺広告が反社会勢力の資金源になるからです。

 何でも信じそうな人に詐欺広告を配信するとか、(選挙権を持つ)18歳に近い人に政治的なメッセージを大量に送るといったことも可能になりました。この状態をそのままにしておくと民主主義を破壊するリスクは顕在化するでしょう。

小出 MFAのように、AIによって(広告業界を巡る)状況は悪化しており、広告主は対応を真剣に考えるタイミングにきています。デジタル空間のエコシステムが負のスパイラルに入っていることを認識し、会社内で共有すべきでしょう。

牧江 新聞社や広告会社が加盟する広告審査協会は、広告主が本当に信頼できる団体や組織なのかを事前にチェックしています。コストを払って読者を守るための取り組みです。インターネットの信頼性を保つためにも、プラットフォーム事業者とも一緒になって、こうした取り組みを進めていきたいと考えます。

山口 デジタル広告には様々な人々が関わっています。デジタル広告の未来において広告関係業界が健全でいられるかどうかは、我々の考えや行動にかかっています。広告主の企業も広告会社もメディアも、未来に誇れるような(広告)業界にするための努力と行動を取っていただきたいです。

(原田洋)

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