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持続可能な社会構築へ 半導体の民主化必要

分科会「持続可能な社会づくり」編 第2回会合

半導体ミライ・アライアンス

2024年12月18日、最先端の2㌨(㌨は10億分の1)㍍半導体の量産を目指すラピダス(東京・千代田)が、北海道千歳市に建設中の半導体工場に極端紫外線(EUV)露光装置の搬入を開始したと発表した。25年4月にはパイロット(試作)ラインを稼働させる計画だ。日本の半導体産業の未来を考えるプロジェクト「半導体ミライ・アライアンス」では24年11月25日に分科会「持続可能な社会づくり」編の第2回会合を開いた。半導体の社会実装の現状と課題は何か。持続可能な社会に必要な半導体の民主化をいかに進めるか。有識者や専門家が意見を交換した。

半導体ミライ・アライアンス 分科会「持続可能な社会づくり」編 第2回会合メンバー
黒田 忠広氏 東京大学特別教授 熊本県立大学 理事長
井﨑 武士氏 エヌビディア日本法人 エンタープライズ事業本部長
加治 慶光氏 シナモン 会長兼CSDO(チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー)
真岡 朋光氏 レゾナック・ホールディングス 取締役 最高戦略責任者/最高リスク管理責任者(CSO/CRO)
中野 慶三郎氏 三菱UFJ銀行 半導体バリューチェーン推進室 室長
小林 暢子 日経BP総合研究所 主席研究員
星 正道 日本経済新聞社 ニュースエディター補佐
竹居 智久 日経BP 経営メディアユニット長補佐

変わる設計コンセプト

――生成AI(人工知能)の社会実装が進む中、先端半導体のビジネス構造にどのような変化が出てきているか。

真岡 朋光氏

真岡 半導体の製造工程は電子回路をウエハー上に作りこむ前工程と、ウエハーをチップに切り分けて組み立てパッケージする後工程がある。近年、先端半導体の複雑化・高度化に伴い、前工程と後工程のトータルで要求性能を達成する設計にしなければならない状況が起きている。なぜなら半導体には非常に多くの部材が使われており、それぞれの特性が密接に関係し合うからだ。電子材料としての電気特性、構造材としての力学特性、発熱や熱膨張といった熱特性など――である。そうした特性を踏まえて、最適ポイントを探し、前工程と後工程を一気通貫に行う統合設計の重要性が高まっている。

そんな中、近年シリコンバレーに集積する大手半導体メーカーや「GAFAM」などの米テック大手企業、ファブレスが自社で半導体を設計し、後工程のパッケージも自ら研究開発して、新しいコンセプトを次々に生み出している。こうした動きの中、レゾナックでは2024年7月、米シリコンバレーを拠点とする米企業10社による次世代半導体パッケージのコンソーシアム「US-JOINT」の設立を発表した。最先端の後工程装置を備えた研究開発拠点を活用し、顧客と一緒に半導体パッケージの最新コンセプトの検証を行う。顧客の近くで迅速かつ緊密な共創・擦り合わせを行うことで、すばやくより良いソリューションを提供していく。

――先端半導体ビジネスにおける課題解決に向け、三菱UFJ銀行ではどのような活動を推し進めているか。

中野 慶三郎氏

中野 24年4月に半導体バリューチェーン推進室を立ち上げた。これまでもデバイス、製造装置、材料産業が直面する課題の解決をサポートしてきたが、加えて、半導体で盛り上がる周辺産業へのアプローチを強化している。また、産業知見を生かした新たな金融手法を創出することにも取り組む。経済安全保障やカーボンニュートラル、人材育成などのマクロ的なテーマから、産業競争力強化に向けた企業の取りうるアクション検討のようなテーマまで幅広く活動している。

今、力を入れて取り組んでいるテーマの一つが、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化だ。半導体サプライチェーンには数多くの課題があり、かつ個社の取り組みだけで解決できる課題は限定的だ。実際に取引先を訪問すると、発注企業、サプライヤー双方から多くの悩みを聞くが、それぞれの立場によって課題に対する考え方も異なる。第三者の立場である金融機関が発注企業とサプライヤーとの間に入ることで解決できる課題もあると考えており、様々な取り組みを行っている。また、課題解決の基礎となるサプライチェーンの可視化に向け、データプラットフォームの構築・提供なども初期的な検討を始めた。

九州では、24年5月に「九州半導体人材育成等コンソーシアム」のサプライチェーン強靱化ワーキンググループに参加したほか、九州における半導体産業基盤強化を目的に、同11月にふくおかフィナンシャルグループと連携協定を締結した。九州は半導体産業の一大集積地域であるが故に他地域に先行して課題が浮き彫りになるはず。まずは九州で課題解決に向けた仕組みを実装し、全国へ波及させていくことを目指す。

半導体の後工程で目指す技術を表わした拡大模型(レゾナック)

AIが人間力を増幅

――先端半導体の社会実装が進むことで、どのような変化が起こるか。

黒田 忠広氏

黒田 半導体は最初私たちの生活空間を快適にした。パソコンやスマートフォンが登場し、仮想空間が生まれて、物理空間と仮想空間の価値付けが進んだ。そして今、物理空間と仮想空間の高度な融合が始まっている。

産業革命は石炭を中心としたエネルギー革命だが、結果、労働力として人間や馬に勝る機械の活用が始まった。今後は生成AIの普及拡大により、人間より頭脳力で勝るAIロボットの活用が一段と進むだろう。では人間は何を求められるのか。私は幸せを探すためのアイデアを考えることではないかと思う。これまでは有形の固定資産が価値を持ち、資本を集約した人がその価値を握る社会であった。それが「モノからコトへ」という変革期に入り、無形資産が価値を持つ社会へと移りつつある。半導体も単純なデバイス製造ではなく、何をアイデアに設計し開発するか。エンジニアリングからシステム設計に価値が移る、大きな転換点を迎えている。

加治慶光氏

加治 VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代が到来している。先の見通せない中、人類共通の目標として出てきたのが、国連ミレニアム開発目標(MDGs)であり、それを発展させたのが持続可能な開発目標(SDGs)だ。我々が目指す世界の姿は、SDGsの17の目標の中にすべて包含されている。

その中で半導体が関係するのは、経済や環境に関する7番から17番の目標ではないか。例えば、二酸化炭素(CO2)排出量の見える化や再生可能エネルギーの効率的な利用など、グリーントランスフォーメーション(GX)は、AIと先端半導体の活用で実現可能だ。

井﨑武士氏

井﨑 半導体の社会実装を考える前に、AIで何を変えられるかが重要で、それが結果として半導体ニーズにつながると考えている。いま社会課題として挙がっているGXや医療・福祉などについて、今後AIが何らかの解決策を生み出すことは間違いない。例えば、いま注目されている技術に、脳波を受信・解析して活用する「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」がある。目の見えない人の脳波にアクセスして、ディープラーニング(深層学習)で解析し、アバター(分身)に考えていることを話させるアルゴリズムの開発が進んでいる。

Z世代がデジタル機器を使いこなすように、今後、AIを使いこなす世代は、行動や考えをAIでエンハンス(増幅)されていく時代を生きる。そこで重要になるのは、AIに学習させるための計算基盤と、それを検証する仮想空間だ。半導体の進化がそれを支える。

現実空間を仮想空間に再現したデジタルツイン工場(エヌビディア)

――先ほど無形資産の重要性の話があったが、人材を価値創出の資本とみなす「人的資本」の考え方の広がりをどうみるか。

小林 暢子

小林 これまで非財務情報として、数値化してこなかった人材情報を見える化してKPI(重要業績評価指標)を設定し、価値創出につなげる人的資本経営に取り組む企業が増えている。日本は人口減少・高齢化の進展により、労働人口が2040年には1000万人不足するという悲観的なシナリオが出ており、人材獲得競争が激化している。一方で、デジタル人的資本という概念が出てきていて、人を増やさなくても、優秀なAIエージェントがいれば、対応可能だという考え方もある。

魅力高める推進力に

――先端半導体が支えるAIの世界で期待する社会変化とは。

中野 AIと半導体が、あらゆる社会課題の解決に寄与できることは疑いの余地がない。その上で私が注目しているのは、半導体とAIには、稼ぐ力が低迷した産業をサステナブルに成長できるような形へ転換させる力があるのではないかという点だ。農業や畜産などの1次産業は、コスト高による収益性の低下や、後継者不足に悩んでいると聞くが、半導体とAIの活用によって魅力あふれる産業に回帰させることができれば様々な社会課題が解決できる。重要なのは、こうした取り組みが半導体産業自身の成長にもつながる仕組みをつくることだ。それが半導体産業の強い推進力を生んでいく。我々は、このような変革に向けた仕組みづくりに対する貢献を模索している。

真岡 付加価値の源泉がAIとなることに同感だ。一方で、AIが普及すると、処理能力や情報の質での差別化が難しくなる。大企業と中小企業の違いがなくなり、何によって差別化するかが、大きなテーマになるだろう。ポイントは組織の暗黙知。どう暗黙知を育てて確保していくかが、企業競争力の源泉になる。

もう一つ注目しているのが、仮想空間。仮想空間の活用には無限の可能性がある。ただ、ここでも人間が人間であることの証明や、幸せの追求の仕方などが課題となる。

――黒田先生は東京大学の「システムデザイン研究センター(d・lab)」を立ち上げ、半導体技術の民主化に取り組まれてきた。なぜ民主化が必要か。

黒田 半導体の社会実装を推し進める上で、大規模集積回路(LSI)が「特別な」ものから「誰でも容易に実現できる」ようにすることが重要で、それを半導体技術の民主化と呼んでいる。民主化が重要なのは、イノベーションがアイデアの交配で起こり、多様性がその創出を加速するからだ。

そこで、d・labでは、LSIの開発期間と費用を10分の1にし、アジャイル(機敏)に社会実装することを目的に、「Agile-X」というプロジェクトを推進している。ポイントは配線。高度な演算処理機能を持つ標準的なチップを用意し、配線の工夫で顧客ニーズに応じた機能を実現するストラクチャードアレイという仕組みを活用する。もう一つ大切なのが、タイムパフォーマンス。AIを活用して設計にかける時間を短縮し、同時にコストを低減させる。高校生対象の半導体ハンズオンセミナーも始まった。ソフトウエアを書くようにチップを設計する時代はそう遠くない。

誰でも容易にチップを作れるようになると、人の役割はAI半導体のユースケースの創出に移る。求められるのは広大な設計空間を俯瞰(ふかん)する力。つまり物理から情報まで、デバイスからシステムまで、ハードからソフトまでを俯瞰する力である。

Agile-Xの試作装置(東京大学「d.lab」提供)

頭脳が集まる拠点構築を

――政府は、ラピダス支援を念頭に、半導体やAIの分野に対して30年までに10兆円の公的支援を行う方針を明らかにしている。改めて国内で半導体製造を行う意義について、意見を聞きたい。

中野 米中対立や各種紛争を背景とした経済安全保障リスクの低減という観点はもちろんのこと、新しい技術のトライアルの場という意味でも、国内での先端半導体製造拠点の整備は大事だと捉えている。また、当行では北海道や九州などで、街づくりやインフラへの取り組みに積極的に関与し、地域経済の活性化につながる仕組みの構築を目指している。

加治 日本国内はもちろん、アジア圏、自由主義国家における半導体サプライチェーンの安定化に寄与するという点で、とても意義のある試みだと思う。また高度成長期に自動車産業や電機産業を育成したのとは違い、半導体産業の育成支援と同時に、未来を見据えた先端技術開発が重層的に進められている点が重要だ。東京一極集中ではなく、北海道や九州に加え、広島県の東広島や岩手県の北上など、いくつもの地域で進んでいることも評価したい。

真岡 半導体のサプライチェーンが変わっても、我々材料メーカーはお客様に対して、適正な製品を適正なタイミングで提供していくことに変わりない。ただ、新型コロナウイルス感染症のまん延の影響による半導体の供給不足を機に、戦略物資として光が当たり、さらに本格的なAI時代を迎えて、その需給動向が大きな注目を集めている。加えて、国内での盛り上がりは、長年見向きもされなかった半導体業界にとって、人材の獲得やビジネスの活性化を促す、とてもよい影響がある。

井﨑 ハイエンドな画像処理半導体(GPU)はトランジスタ(半導体素子)の集積数が20兆を超える規模となっている。現状では、その製造をTSMCに頼らざるを得ない状況だ。日本国内で先端半導体を製造できる拠点ができ、選択肢が増えることは、ビジネスの健全性を保つという意味で非常に重要であり、大いに期待している。

黒田 「鉄は国家なり」といわれた時代から100年が経過し、「シリコンは国家なり」の時代となった。政府が主導し、産官学金が共創し、半導体で地域づくりをスピーディーに推し進めている状況だ。最先端半導体の製造拠点造りには課題もいろいろあるが、重要なことは、いかにして人材を育成し、世界の頭脳をひきつける地域となれるかだ。私が参加する熊本では、そうした熱量の高い地域へと着実に歩みを進めている。

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