ここ数年、「金が史上最高値を更新」というニュースを目にすることが増えました。26年1月にはニューヨーク市場で史上初めて1トロイオンス5000ドル(約77万円)を突破し、過去55年で見れば約140倍もの価格になっています。貴金属スペシャリストの池水雄一氏は「金は上がり続ける宿命」にあるといいます。今回は、なぜこれだけ金の価値が高まっているのかについて語ります。

金(ゴールド)は上がり続ける宿命

 私は2019年に日本貴金属マーケット協会を立ち上げ、代表理事として貴金属投資についてのセミナーを開催したり、海外のトレーダーと日本の貴金属市場をつないだりという活動をしています。

 私と金との関わりは新卒で住友商事に入社し、貴金属部門に配属されたのが始まりです。それから40年、金相場を見続けていますが、この2~3年で投資における金の立ち位置が大きく変わったと感じています。

 これまでの日本の投資家の特徴は「バーゲンハンター」。「下がったときに買い、上がったら売る」というスタンスです。ところが、今は上がっても買う。下がっても買う。貴金属店には金の地金(じがね)を買い求める人で、朝から行列ができています。

 なぜ、これだけ金への関心が高まっているかというと、このインフレで人々が「キャッシュ(現金)を持っていたら、どんどん目減りしてしまう」というリスクに気づいたからです。

 新型コロナウイルス禍が明けてから海外に行き、物価の高さにあぜんとした人もいるでしょう。私がコロナ禍後、最初に海外へ出かけたのはシンガポールでしたが、それまで1シンガポールドルといえば65円ぐらいのイメージでした。それが空港で両替したら、100円超。思わず、スマホでレートを確認しました。最近は英国に行き、ちょっと朝食を食べただけで28ポンド(6000円弱)。もう、「海外に行ったら価格を円換算しない」と心に誓わないと楽しめないし、何もできません。

 こうした海外の物価の高さは日本円の購買力の弱さでもあります。この日本のインフレ、さらに円安の影響を少なくするには何をすればいいのかと考えたとき、一番手っ取り早いのが円建ての金を買うことなのです。

 ただ、そうは言っても、これから金を買う人が知りたいのは「今後も金の価格は上がるのか?」でしょう。

 私は金をはじめとした貴金属に関しては「上がり続ける宿命」だと考えています。一番の背景は紙幣の価値が希薄化していくことが明確だからです。平たく言えば、資本主義とは「お金を使ってみんながハッピーになる」という考えです。そのため紙幣がどんどん刷られ、紙幣の価値が希薄化していく。それを加速させているのがトランプ政権であり、日本の「責任ある積極財政」です。

 今回の衆議院選挙では各党が公約として「減税」を打ち出しましたが、消費税という財源がなくなったら、どこからその分のお金を持ってくるのか。結局は国債を発行して、借金するしかない。そりゃあ円安になるでしょう。今、海外のバイヤーによって日本の長期国債が売られ、長期金利が上がっています。海外勢から見れば、「この状況で減税と言っているなんて信じられない」と驚きですが、当の日本人はあまり危機感がない。これは私個人としても非常に心配なところで、だからこそ金を買っておくべきですし、これからも金の価格は上がり続けると思います。

円が最弱通貨になった理由

 なぜ、日本円はこんなに弱くなってしまったのか。その理由が分かるのが『 円ドル戦争40年秘史 なぜ円は最弱通貨になったのか 』(河浪武史著)です。1985年にニューヨークで締結されたプラザ合意はドル安誘導政策、実際には経済大国となった日本による米国救済劇でした。ところが、ドル安誘導策は日本にバブル経済の発生とその崩壊をもたらし、その後、日本は「失われた30年」に突入。円相場は2024年には1ドル161円まで下落しました。

『円ドル戦争40年秘史 なぜ円は最弱通貨になったのか』(画像クリックでAmazonページへ)
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 実はこの本に書かれている40年は私にとっての社会人人生とも重なります。プラザ合意が締結された1年後の86年に住友商事に入社し、貴金属部門に配属されたことはお話ししましたが、当時は金のことなど何も分からず、仕事を覚えるのに必死でした。この本を読むことで「こういう政治的な背景があったのか」と改めて認識しました。

 著者の河浪武史さんは日本経済新聞の記者で、ワシントン特派員として第1次トランプ政権やFRB(米連邦準備理事会)の取材も担当した人です。内情をよく知っているからこそ書けた部分も多く、読みながら「ほう、そうだったのか」と何度も声が出たほど。トランプ大統領については、彼が不動産王だった時代のことから書かれています。

 日本の円安の現状についても「円安の原因は日米の金利差だと言う人もいるが、問題はそう簡単ではない。米国が利下げを行い、日本の長期金利が急上昇する場合は、日銀はまた国債購入を再開して必死で金利を抑えることになるだろう」というようなことが詳しく解説されています。

この本に書かれている40年は私にとっての社会人人生とも重なります(池水氏)
この本に書かれている40年は私にとっての社会人人生とも重なります(池水氏)
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 後半になるほどタイムリーな内容が多く、日本円のリスクヘッジを考える際にも参考になる本だと思います。私も読みながらドッグイヤー(本のページの角を折ること)がたくさんできました。

 次回は世界のエネルギー政策や会計史についての本を紹介します。

取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか