バーガーキングが、漫画やアニメとのコラボレーションで大切にしているのが、作品に対するリスペクト。コラボするときは徹底して調べ、そうすることでコラボする作品のファンが心から喜ぶ企画が可能になる。『SPY×FAMILY』とのコラボでは、アーニャをバーガーキングに招待する手紙をつくり、彼女の目線に合わせた95㎝の位置で店頭に掲げた。日本のバーガーキングを大きく育てたビーケージャパンホールディングス代表取締役社長がつづった『バーガーキング流 逆襲のマーケティング』から一部再構成してお届けする。IPとコラボする極意とは。[日経クロストレンド 2026年3月6日付の記事を転載]

アーニャの目線に合わせた95㎝の位置で店頭に掲げた手紙(写真提供/バーガーキング)
アーニャの目線に合わせた95㎝の位置で店頭に掲げた手紙(写真提供/バーガーキング)
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 漫画やアニメとのコラボ(コラボレーション)は、メーカーや小売店・飲食店チェーンが、販売促進やブランド価値を高めるために活用する常とう手段だ。国内のハンバーガーチェーンでも各社が様々な施策を展開し、話題をさらうこともあれば、物議を醸すこともある。人気キャラクターのグッズをおまけに付けたセットメニューを販売し、“大人買い”する来店客が多発して肝心な子どもが購入できない事態も生じた。おまけだけ入手して、セットの食事は捨ててしまうといった、マナーを欠いた食品ロスも問題化した。

 2022年10月、僕たちバーガーキングも、漫画やアニメ作品とのコラボ施策を断行しようとしていた。こうしたコラボ施策の場合、どこと組むかを発案するのは、決まって僕自身だ。実は、僕はコラボを行うための情報収集を日ごろから熱心に行っている。

 情報源となるのは2つ。まず、時間があれば足を運んでいるのが、東京・池袋にあるアニメイト池袋本店だ。言わずと知れた、漫画・アニメ作品が集まる聖地で、店内をくまなく見れば、今、何が流行っているのか、そして何が流行りそうなのかを察知できる。

 さらに、毎年年末に開催され、週刊少年ジャンプ(集英社)などジャンプ系の雑誌で連載されている漫画作品やグッズが展示される「ジャンプフェスタ」にも欠かさず訪れ、人気作品だけでなく、これからブレークしそうな新顔を物色している。漫画やIP(知的財産)の方からコラボを打診されたり、代理店から提案を受けたりするが、そうした持ち込み企画に乗っかることはほぼない。大切にしているのは、僕自身の感覚だ。

 では、コラボに当たって何を大切にしているのか。最も重視している点の一つが、まだ、他のメーカーや小売店、飲食店があまり手を付けてなく、コラボ一番乗りかそれに近い状況であることだ。人気があるもののこれから大々的にブレークしようとしている作品、あるいは一部に熱狂的なファンがいるが一般的にはまだそれほど知られていない作品を狙う。

 そうした中、今後、上り坂を駆け上がる可能性が高い作品に先鞭をつければ、「よく知っていたな」「見る目があるな」と、ファンは感心し、きっとバーガーキングにも好印象を抱いてくれるに違いない。

 そして、これも非常に大事な点だが、作品に対するリスペクトを忘れずに、中途半端な施策を講じないことだ。単に、セットメニューのおまけとして金太郎あめのごとき施策でフィギュアやぬいぐるみを提供する。もしくは限定グッズを販売する。それは、果たして作品を尊重しているといえるのだろうか、というのが僕の意見だ。

 だから、やるからには徹底して調べる。まずは僕が作品を読破し、施策に携わるメンバーにも読了を依頼する。場合によっては何度も読み返し、自分自身がその作品にどっぷり浸かり、ファンに近い心理状態になってから、「では、どんな施策を行うか」と思索する。そうすることで、コラボする作品のファンが心から喜ぶ企画が可能になると考えている。

 そうやって、情報収集も作品への理解も、二重三重に積み重ね、バーガーキングとして初めて、漫画・アニメ作品との協業が日の目を見ることになった。それが『 SPY×FAMILY』(スパイファミリー、遠藤達哉・集英社)とのコラボだったのだ。

 SPY×FAMILYは諜報員の男、殺し屋の女、超能力少女がかりそめの家族となり、日常のトラブルと奮闘しながら世界平和に挑む、スパイコメディーだ。セットメニューにおまけを付けて提供するのがコラボの王道であり、僕たちも「どんなものをプレゼントすればファンが喜ぶか」を考え抜いた。

 単純な発想としては、登場人物であり、人気が高い超能力少女・アーニャのぬいぐるみを提供することが選択肢になるかもしれない。だが、ゲームセンターのクレーンゲームで手に入りそうなグッズでファンが喜ぶかは疑問だ。そこで、僕たちが用意したのが、アーニャのイラストが前面に描かれた紙エプロンだ。これはどこにもないオリジナルグッズで、希少性からファンも大切にしてくれると想像した(このグッズは一部を除くバーガーキング各店舗で入手可能だった)。

 そして、単におまけを付けるだけでなく、作品へのリスペクトを込めた様々な企画も実装した。その一つが、バーガーキング渋谷センター街店を SPY×FAMILYの舞台である、オスタニアの首都バーリントの世界観を体感できる内装へと模様替えし、「バーガーキング バーリント店」に仕立て、運営する施策だ。

 1階エントランスには顧客を迎えるアーニャのイラストが描かれ、2階に目を向ければ、巨大なアーニャが窓からのぞく様子が飛び込んでくる。店内にはアニメの名シーンや印象に残るセリフが展示され、作品と一体になれる点がファンにとっては垂涎の体験だ。

 さらに、僕はバーガーキングのクリエーティブディレクター(CD)の岩田君に、「もっとファンが喜ぶ企画を考えて」と依頼した。そんな投げかけに彼が見事に応えてくれた。それが、「アーニャを喜ばせることで、ファンを喜ばせる」というコンセプトだ。

 早速僕たちは、そのコンセプトに沿って、企画を考案していった。アーニャはピーナッツが大好物だ。そうであれば、バーガーにもピーナッツバターを塗ってあげようと考えた。生まれたのが、ピーナッツバターソースを使用した「ロワイヤル&ベーコン」「ロワイヤル&ベリー」「ロワイヤル&チキン」の3商品だ。加えて、大きさも通常のワッパーより一回り小さい、ワッパージュニアサイズで提供することに決めた。これならアーニャの小さな手や口でも食べやすいはずだ。

 極めつけが、せっかく彼女仕様でつくったバーガーなのだから食べてほしいと考え、アーニャをバーガーキングに招待する手紙を作ったことだ。「アーニャさまのための、とくべつなバーガーをごよういしちゃいました」「ぜひ、いちどたべにいらしてください」と、子どもでも読みやすいようにひらがなを多用。Twitter(現X)に投稿すると同時に、秋葉原昭和通り店、下北沢南口店、渋谷センター街店の店頭にも掲示した。

 その掲示位置がまたユニークだ。身長が低いアーニャの目線に合わせ、高さ95㎝の位置に手紙を掲げたのだ。

 こうして、徹頭徹尾、アーニャを喜ばせる作戦で、様々な企画を動員した。結果、彼女が喜ぶ姿を思い浮かべ、頬を緩ませるファンが続出した。作品に登場するキャラクターが喜びそうな企画をリアルの世界で体現することで、ファンを喜ばせるという発想。これは、僕が岩田君から出してもらった企画の中で、間違いなく最高傑作の一つだ。

ゴールドマン・サックスが約800億円で買収。絶好調バーガーキング社長の初著書。1993年の初出店から日本での経営は赤字が続き、“外資系の失敗ブランド”の烙印を押されていた。そんなどん底からV時回復を実現した、賛否両論で話題をつくる「BKマーケティングの極意」が学べる1冊。「マーケティング5カ条」を初公開。

野村一裕(著)、日経BP、2200円(税込み)