イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に解剖した新刊『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。連載の第1回では、トーマス・エジソンを取り上げ、「イノベーターとは何者なのか」について考えます。
イノベーターとは何者なのか? この問いに答える前に1つ、クイズを出したいと思います。
みなさんは白熱電球を発明したのは誰かご存じですか?
「エジソン」というのは、残念ながら不正解です。
正解は、ジョゼフ・スワンという英国の物理学者です。スワンはトーマス・エジソンが白熱電球を実用化する前に、白熱電球を開発して特許も取得していました。エジソンもその事実を認め、スワンと共同でエジソン&スワン・ユナイテッド・エレクトリック・ライト・カンパニー(通称、エジスワン)を英国に設立しています。当時は欧州や米国で多くの人が白熱電球を研究しており、最初の発明者が誰かについてはもちろん議論の余地がありますが、白熱電球の商業化につながる発明において、スワンが果たした役割は大きいといえるでしょう。
イノベーターは発明家と何が違うのか?
にもかかわらず、エジソンが白熱電球の発明者として多くの人に認知されているのはなぜでしょうか。それはエジソンが、白熱電球を世界で普及させるうえで決定的な役割を果たしたからです。
1893年のシカゴ万国博覧会で、エジソンは5000個以上の白熱電球で飾られた高さ25mの「光の塔」という巨大な電飾タワーを設置しました。万博のオープニングセレモニーでは、当時の米大統領が電気の起動ボタンを押すというパフォーマンスも実現しました。
宣伝上手だっただけではなく、エジソンは白熱電球の技術的な課題も解決しました。スワンが当初発明した電球の寿命は約40時間にすぎませんでしたが、エジソンは通電すると光るフィラメント(細かい糸状の線)に、炭化させた竹を使うことで、約1200時間という長寿命を実現しました。
もちろん白熱電球を利用するためには、電力の安定的な供給が欠かせません。エジソンは電力を生み出す発電所や送電網など、電力供給システムの整備にも乗り出しました。白熱電球を家庭やオフィスで利用できるようなインフラの整備にも力を尽くしたのです。
つまりエジソンは厳密には白熱電球の発明者ではなかったのかもしれませんが、技術的な改良をほどこし、それを社会に広く普及させるうえで決定的な役割を果たしました。
ある発明がイノベーションになるかどうかは、それが社会に実装されるかがカギとなります。その意味でエジソンは白熱電球を広く普及させ、社会を劇的に変えることに成功したイノベーターだった、といえるでしょう。
EVを誰が発明したかについて話題にならない理由
テスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスクについても同じことがいえます。EV(電気自動車)の発明自体は19世紀にさかのぼりますが、誰が発明したかについて話題になることはほとんどありません。なぜなら誕生から100年以上たっても、EVが社会を変えるようなインパクトを生むことはなかったからです。
しかし、21世紀に入ると、テスラがけん引役となって、米国、中国、欧州などでEVの普及が進みました。2026年時点では勢いが減速しているとの指摘もありますが、世界の自動車メーカーにおける新型車の開発計画を見ると、多数のEVの市場投入が予定されています。計画が遅延するケースもありますが、将来的に、ガソリンやディーゼルなどの内燃機関のクルマを駆逐して、EVがメインストリームになる可能性は否定できません。
EVが社会に実装される大きな流れを生んだのは、テスラを率いるマスクです。その意味で、マスクもエジソンのように社会を変えるインパクトを生み出したイノベーターといえるでしょう。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスも、書籍から家電製品まで多様な商品を扱うインターネット通販を普及させ、世界中の人々の消費行動を劇的に変化させました。今では当たり前のインフラの1つになっているため、忘れている人もいるかもしれませんが、ネット通販が広がる前は、リアルの小売店が買い物のほとんどを占めていました。
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも、OS(基本ソフト)の「ウィンドウズ」をグローバルに普及させ、先進国から新興国まで老若男女がパソコンを当たり前に使う世界を実現させました。ウィンドウズ以前のコンピューターは大企業向けが中心で、個人向けのパソコンは限られたマニア層が主に使うものでした。
新しい技術やアイデアを考案する人が発明家で、革新的な商品やサービスを広く普及させて、社会そのものを変える大きなインパクトを生み出す人がイノベーターです。
もちろんエジソンは、発明家とイノベーターの両方の特徴を兼ね備えた人物といえます。しかしながら、発明家とイノベーターが別であるケースは少なくありません。

[日経ビジネス電子版 2026年3月19日付の記事を転載]
山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)
