イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に徹底解剖した書籍『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から抜粋・再編集してお届けします。連載の第4回では、ジョブズ、マスク、ベゾスらに共通する、「内発的動機」に従って行動する思考を取り上げます。 =敬称略
経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが「行動の人」と呼ぶ、社会を変え、経済発展のダイナミズムを生み出すイノベーターの飽くなき行動力の源泉はどこにあるのでしょうか。スティーブ・ジョブズ、イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツといった多くのイノベーターに共通するのは、「大好きなこと」に取り組んでいることです。
自分の内側から湧き上がる情熱に従い、自分が面白い、楽しいと感じることに集中する「情熱思考(Passion-driven Thinking)」をイノベーターたちは大事にしています。好きなことに取り組めば、心理学で「内発的動機」と呼ばれる、モチベーションが高まった状態を持続しやすいからです。内発的動機とは、お金がもらえる、ほめられるなどの自分の外側にある理由ではなく、面白い、楽しいといった自分の内側から生じる動機を指します。
心理学・行動科学に詳しい米国の作家、ダニエル・ピンクは『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』で、内発的動機を次のような3つの要素で説明しています。
1番目が「自律性(Autonomy)」で、強制されずに自分で選んでおり、やるかやらないかも自分で決めているということです。2番目は「熟達(Mastery)」で、上手くなりたい、深く理解したい、昨日の自分を超えたいという思いによって熟達が進むこと。3番目が「目的(Purpose)」で、何のためにやるのか、自分なりの意味を見出していることです。
これら3つの要素が満たされると、内発的な動機が自然に高まるそうです。ピンクは研究者ではありませんが、『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』を書いた米心理学者で内発的動機を実験によって証明したエドワード・L・デシの自己決定理論などさまざまな心理学の研究を下敷きにしており、説得力があります。
「人間は、自分でやりたいと思って行動するときに、最も創造的になり、最も粘り強くなる」というのがデシの主張です。誰かに命令され、コントロールされるような行動は、短期的な成果を上げたとしても、思考力や主体性、責任感を奪われるため、人間の可能性を狭めることを心理学的に証明しようとしました。
「自らの意思で行動を決める。意義あることの熱達を目指して、打ち込む。さらなる高みへの追求を、大きな目的へと結びつける。甘ったるい理想主義だとみなして、こうした考えを受けつけない人もいるかもしれない。だが、科学は異なる立場をとる。このような行動様式が人間の本質だと、科学が認めている」。ピンクは『モチベーション3.0』でこう強調しています。
偉大なことをやり抜く道は、仕事を愛すること
自らの情熱と意志に従い、心からやりたいことに打ち込むことが、自分自身のモチベーションを高め、イノベーションを起こす原動力になる。それはイノベーター自身の発言からも裏付けられます。
ジョブズは2005年にスタンフォード大学の卒業式でこう述べました。
「自分の仕事を愛してやまなかったからこそ、前進し続けられたのです。皆さんも大好きなことを見つけてください。仕事でも恋愛でも同じです。仕事は人生の一大事です。やりがいを感じることができるただ一つの方法は、すばらしい仕事だと心底思えることをやることです。そして偉大なことをやり抜くただ一つの道は、仕事を愛することでしょう」(日本経済新聞2011年10月9日「『ハングリーであれ。愚か者であれ』 ジョブズ氏スピーチ全訳」)
ジョブズは1985年に、自ら創業したアップルの取締役会でトップを解任され、追放されます。屈辱的な経験でしたが、ジョブズはそこでくじけませんでした。自分が打ち込んできたことが大好きだったので、NeXTというコンピューターメーカーを起業し、ピクサー・アニメーション・スタジオの創業も支援してトップに就任します。1996年にアップルに復帰して、その後CEO(最高経営責任者)となり、「iPod」「iPhone」「iPad」といった革新的な製品を次々に生み出し、アップルを驚異的な成功へと導きました。
ゲイツも中高生時代に、大好きだったプログラミングに熱中し、ハーバード大学にいったん進学したものの、中退してマイクロソフトを起業する道を選びました。マスクとベゾスは子どもの頃から大好きだったSFが忘れられず、宇宙開発のスタートアップをそれぞれ起業します。マスクはテスラのCEO、ベゾスはアマゾンのCEOを続けながらも、大好きな宇宙関連のビジネスに取り組んだことが、宇宙開発の歴史を変える再利用可能なロケットの実現につながりました。

[日経ビジネス電子版 2026年3月27日付の記事を転載]
山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)
