イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に徹底解剖した書籍『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。連載の第8回では、マスクやベゾスがビジネスで実践するアナロジー思考とその基盤となる読書を取り上げます。 =敬称略
イノベーターにとって、とりわけ大事なのは「知識の幅」です。なぜなら、イノベーションはゼロから生まれるものではないからです。大半のアイデアは過去に誰かが思いついたものです。可能な限り多くのすでに存在するアイデアを知った上で、それらを組み合わせることにより、これまで存在しなかった「新しい価値を生み出す」ことがイノベーションです。
このようなアプローチは「アナロジー思考(Analogical Thinking)」と言い換えることができます。アナロジーとは「類推」を意味しており、一見するとまったく異なる分野のアイデアを、別の分野の問題解決やアイデアとして転用する思考法です。
「新しいアイデアは『借りてきて組み合わせる』ことで生まれる」と書籍『アナロジー思考』で著者の細谷功は述べています。遠い世界のアイデアを借用して、別の領域で組み合わせるような考え方です。
「では、どうやって既存のアイデアを『借りてくる』のか? そこで用いられるのがアナロジー思考である。発想力には大きく2つの要素がある。第一が『多様な経験や知識を持っていること』、そして第二が『それらをいま発想の対象としているものに結びつけること』である。アナロジーはこの2つ目の力に貢献する」(『アナロジー思考』)
ここで重要なのは、発想力の要素として「多様な経験や知識を持っていること」を第一に挙げていることです。アナロジー思考を実践するために欠かせない基盤になるのが知識の幅といえるでしょう。
知識の幅を広げる一番の近道が読書です。世界的なイノベーターには猛烈な読書家が目立ちます。彼らは驚くほどの貪欲さを持って、多数の本を読み続けています。
良書と呼べる書籍は、多くの場合、その分野の専門家が書いており、引用、脚注、参考文献のような形で根拠も示されています。それぞれの書籍は、さまざまな先人たちの研究成果を参考にしており、アイザック・ニュートンが語ったように、巨人たちの肩の上に乗って書かれています。
さらに編集者は何度も本文を読み返して、誤りを修正した上で、外部のプロにも校正を依頼して、書籍を出版しています。書籍を買えば、そのような知識をわずか数千円の投資で手に入れることができます。中古の書籍なら数百円だったり、図書館で無料で借りたりすることも可能です。
“知の基盤”がなければ、AIの回答が正しいか分からない
もちろん今はインターネットとAI(人工知能)でさまざまな情報が得られる時代です。わざわざ本を読む必要はないと考える方もいらっしゃるかと思いますが、決してそうではありません。根拠が曖昧(あいまい)だったり、断片的だったりする情報を得るよりも、まず読書によって正確性が高く、まとまった深い知識を学んだ上で、足りない情報をネットやAIの助けを借りて調べるようなアプローチが重要です。自分自身の頭の中に“知の基盤”がなければ、AIの回答が正しいのか、どの部分が足りないのかの判断もつきません。
「知識の宝庫」ともいえる良書をたくさん読んで、知識の幅を広げることはイノベーションを起こす上で圧倒的な強みになります。組み合わせることが可能な材料が多ければ、多いほど、有利になるからです。
イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ピーター・ティールなどのイノベーターは、歴史、SF、科学、経済、経営といった幅広いジャンルの膨大な数の本を読んでいます。いわば自分の頭の中に図書館があり、多数の本が並んでいる状態といえるでしょう。
マスクは幼少期から読書が大好きでした。「読んだものはすべて覚えていた。わたしたちはイーロンを『百科事典』と呼んでいた。『ブリタニカ百科事典』と『コリアーズ百科事典』を読んで、すべて記憶していた」。マスクの母親のメイ・マスクは著書『72歳、今日が人生最高の日』でこう述べています。マスクは「1日10時間、本にかじりついていることも珍しくなかった」と弟のキンバル・マスクも語っており、異常なまでの読書欲を持っていました。
ベゾスも読書好きです。幼い頃から図書館に足しげく通い、膨大な数の本を読破してきました。そもそもベゾスは、アマゾンをリアルの書店と比べて品ぞろえが圧倒的に豊富な「インターネット書店」としてスタートさせました。
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも少年時代から本の虫で「読書から一番多くのことを学んだ」と語っています。猛烈な「読書マニア」として知られており、2016年の米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビュー記事で「1年間に本を50冊読む」と述べていました。日頃読みあさっている多数の本の中から、毎年5冊の推薦書を公表。選ばれた書籍が軒並みヒットするので、多くの出版社の垂涎(すいぜん)の的になっています。読んだ本については、多数の書評も書いています。さらに米シアトルの自宅には図書館もあり、蔵書は1万4000冊以上に達するそうです。
オーストリア・ハンガリー帝国出身の経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターが『経済発展の理論(初版)』で述べたように、イノベーションは、さまざまなアイデア・要素を新たな形で組み合わせる「新結合」から生まれます。新結合を生み出すには、知識の幅がどれだけあるかがカギになります。知識の量は、イノベーションの質を高めることにもつながります。
次回の記事では、アマゾン創業者のベゾスがアナロジー思考をどのように活用しているのかを取り上げます。

[日経ビジネス電子版 2026年4月14日付の記事を転載]
山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)
