イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に徹底解剖した書籍『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。連載の第9回では、アマゾン創業者のベゾスがアナロジー思考をどのように実践していたのかを取り上げます。 =敬称略

 前回の記事『「百科事典」と呼ばれたイーロン・マスク イノベーションの源泉は猛烈な読書』で述べたように、天才的なイノベーターは読書などを通じて得た「知識の幅」をイノベーションに生かしています。もちろん知識の幅があるだけでは、単なる「物知り博士」にもなりかねませんが、世界的なイノベーターは、膨大な知識を基に「これまでにない組み合わせ」を見つけ出す傑出した能力を持っています。その肝になるのが、さまざまな事象の本質的な構造を理解して、新しい分野に応用するアナロジー思考です。

 「アナロジーとは複雑な事象に潜む本質的構造を見抜き、それを別の分野に応用することである。この『構造を見抜く』というのがアナロジーの基本的考え方である」。『アナロジー思考』の著者でビジネスコンサルタントの細谷功はこう指摘しています。

 読書などで得た知識やアイデアの本質と構造を見抜いたうえで、それを全く別の分野で応用すると何が起きるのかをシミュレーションする。このプロセスを繰り返し、さらに別の分野のアイデアと組み合わせることも検討して、最適解を見つけ出そうとするような思考法です。

 「アナロジー思考は人間であれば多かれ少なかれ必ず持っている思考力であるが、この活用の仕方の程度が人によって異なる。10倍、いや100倍単位で違うといっても過言ではない。アナロジー思考力の強い人はありとあらゆることを関連付けて考え、すべての事象を学びの対象にすると同時にすべての事象をアウトプットの対象にする」とも細谷は述べています。優れたイノベーターは、異分野で発見した知識を自分が手掛ける分野に適用して、アウトプットすることを得意としています。

 例えば、アマゾンの強みである、インターネット通販において迅速な発送を実現する自前の倉庫を効率化させるアイデアは、ベゾスがトヨタ式の改善手法に関する書籍『リーン・シンキング』を読んだことが1つのきっかけになっています。自動車工場の改善手法という一見すると遠くにあるアイデアの本質をベゾスは見抜き、ネット通販に応用しました。生産管理の「最強の型」ともいえる異業種の手法に目を付けたのはベゾスの慧眼でした。

 そもそもベゾスがアマゾンを起業して間もない1990年代後半は、自社で資産をできるだけ保有しない“持たない経営”が脚光を浴びていました。とりわけネット通販では、自社で倉庫を保有するよりも、外部の物流企業にアウトソーシングして任せた方が効率的と考えるスタートアップも目立ちました。

 しかしベゾスの発想は違いました。むしろ自前の倉庫と物流センターを持った方が、ライバルが真似できない迅速な配送が可能になり、圧倒的な顧客満足度を実現できると考えたのです。

倉庫や物流に「トヨタ式」を導入したアマゾン

 もちろん物流のプロではなかったアマゾンが迅速で効率的な配送の仕組みを構築するのは大変でした。その際にベゾスが参考にしたのが『リーン・シンキング』に書かれていた、工場でムダなスペースをなくし、働く人の作業のムダを省き、取引先を含めたサプライチェーン(供給網)全体で物流を効率化するアイデアでした。

 このアイデアにベゾスは強い刺激を受け、アマゾンが運営する物流拠点に、トヨタ生産方式(TPS)を応用したリーン生産システムの手法を取り入れます。例えば、アマゾンの倉庫ではトヨタの“アンドン”的な仕組みを採用しています。アンドンとは「異常を見つけた人が、即座に現場を止め、問題を顕在化させて、全員で直す」ための仕組みです。

 アマゾンではコンベアの途中で荷物が詰まると、スタッフのタブレットに通知が届き、どこでどんな問題が起きているかが表示されます。そしてスタッフが現場に行って問題を解決します。アマゾンの年次報告書には「アンドン」や「カイゼン」といった言葉がたびたび登場しており、ベゾスがトヨタ式の改善手法に強い関心を持っていたことが分かります。

 インターネット通販に、自動車メーカーの生産管理の手法を組み合わせるアイデアは、ベゾスの知識の幅が広かったからこそ実現できたといえるでしょう。まさに「遠くからアイデアを借りてきて組み合わせる」というアナロジー思考で、業界の常識にとらわれずに、異業種から優れたアイデアを貪欲に取り入れたことが、アマゾンの競争力を高めました。

 自前の物流センターを持つことで、アマゾンは配送スピードでライバルのネット小売りに対して圧倒的な優位性を持つようになりました。しかもロボットなどの自動化技術も活用して低コストで効率的な物流システムを実現しており、低価格で商品を売っても利益が得られる仕組みを構築しました。

 さらにアマゾンはクラウドサービスの「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」にも、トヨタ式の改善手法を導入しています。AWSはソフトウエア開発のプロセスに「Andon cord(アンドン・コード)」の概念を取り入れており、問題発生時に即座にプロセスを停止し、エスカレーションすることが推奨されています。これはトヨタの工場で「問題が起きたら現場の作業を止めて、すぐに改善する」という原則を、ソフトウエア開発に適用したものといえるでしょう。

ジェフ・ベゾスは読書で得た知識を生かし、トヨタ生産方式のノウハウで物流拠点の運営を効率化させた(写真:REX/アフロ)
ジェフ・ベゾスは読書で得た知識を生かし、トヨタ生産方式のノウハウで物流拠点の運営を効率化させた(写真:REX/アフロ)

日経ビジネス電子版 2026年4月16日付の記事を転載]

天才になれなくても、天才の思考法は誰でも学べる。イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才イノベーターの成功は「思考の型」から生まれています。『天才思考』では、第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に詳細に解剖します。

山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)