「技術的には可能ですが(だけど…)」(エンジニア)、「つまり、OKってことですね!」(営業)、そして生まれるすれ違い…。技術職と営業職の衝突は、どの業界でも聞く話だ。身をもって体験している人も多いのではないだろうか。『話が長いエンジニア、答えを急ぐ営業 すれ違いを武器に変える「仲介思考」の育て方』(日経BP)著書の水谷享平氏は新卒でGoogleに入社して以来、ずっと両者の「仲介役」を果たしてきた。エンジニアにとって、対人関係だけでなくAI時代にも求められる「仲介思考」とは。
すれ違いには「構造的な理由」がある
私はもともと工学部の電気工学科で、電気が専門でした。多くの同級生が電気系のメーカーに進む中で、Googleは試しに受けた会社でした。当時は「エンジニア」「営業」「その他」という募集があって、私自身にGoogleで働けるようなプログラムの技術はありませんでした。それで「その他って何だろう?」と思いながら応募して、入社してみたら「テクニカルアカウントマネージャー」というポジションだったんです。日本の営業と海外のエンジニアの間に立つような仕事で、新卒当時は仕事や業界の解像度も低かったので大変でした。
その後、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)のスタートアップや半導体スタートアップなどで、事業開発や経営企画、プロダクトマネージャー、営業、人事などいろいろと経験しましたが、やってきたことは一貫して「うまく間に立って、優秀な専門家の力を借りる」ということでした。
本書を執筆するきっかけになったのは、noteで『エンジニアと営業仲悪い問題について』という記事を書いたことでした。もともとは「エンジニアって性格悪くない?」という営業視点の投稿があって、それに対してX(旧ツイッター)で多くの人が「それはエンジニアが悪い」「いや、お前が悪い」と意見を言い合っていました。SNSをよく見る方なら覚えがあると思いますが、こうした対立は本当に「あるある」で、よく見かけるんですね。でも、長年仲介役をしてきた身からすると、エンジニアと営業のすれ違いは「構造的な理由」から起きていて、避けられない仕組みになっているんです。そのことをnoteにまとめたら、大きな反響と共感をいただきました。
「起きるべき」すれ違い
すれ違いの構造について認識したのは、複数の会社を経てビジネスサイドと技術サイドの両方に関わるようになってからです。意見が対立した両者の意見を聞いていると、「どっちも正しい」場面が本当に多いんですね。どちらも正しいのに、言い合ってパフォーマンスが落ちるのはもったいない。それで「じゃあ、どうやって解決するか?」ということを考え始めました。
当たり前ですが、職種が違うと知識や経験が違い、認識も違って、ゴールも違います。この本では「三層構造」として紹介しているのですが、それに加えて、両者では見ている時間軸も異なります。エンジニアは正しさや製品のクオリティーを重視して、後々の運用保守や機能追加の可能性まで考慮した比較的長期的な視点で見る傾向がありますが、営業は四半期ベースで数字をトラッキングされているので、何よりも「今の問題」を解決してほしかったりします。でも、この視点は両方とも必要なもので、「起きるべき」すれ違いです。
構造上の理由かつ「仕事」の文脈である以上、それは個人への攻撃ではなく、構造的に解決するべきですよね。それを今回「仲介思考」としてまとめたのですが、かなり抽象化しているので、営業とエンジニアに限らず、幅広い職種に当てはまると思います。何なら、仕事以外の人間関係にも当てはまるかもしれません。
例えば、受け入れがたいことを言われたときでも、一瞬ぐっとこらえて「何か事情があるんですか?」と構造の把握に意識を向けるだけでも、その後のコミュニケーションコストは大きく変わります。
AI時代にエンジニアに求められるスキルとは
AIの進化は本当に速くて、近い将来多くの仕事がAI前提になっていきます。コーディングで言うと、学校で習うような1行ずつコードを書く技術の重要度は相対的に下がっていくかもしれません。一方で、AIに正しく前提やコンテクストを渡すスキルは非常に重要で、それが欠けると、AIは汎用的なことしかしてくれません。それは、複数の専門性をうまくつなげてアウトプットするという意味では、実は人とのコミュニケーションとも共通しています。
エンジニアにとっては、自身の知識や技術を磨いていくことも重要ですが、技術は変化のスピードも速いですよね。5年後、10年後がどうなっているか分からない。その中で、「長い目で効いてくる、無駄にならないスキル」を育てるのもいいのではないでしょうか。仲介思考は考え方の癖のようなもので、一度身につければ、個々の技術と掛け算で価値が上がってきます。
単純に、日々の仕事がやりやすくなると、コスパもよいですよね。特に同じ社内であれば、対人関係は積み重ねですから、一度きりではなく、これから先の仕事も楽になります。AIの登場で激動の時代、身内での対立にリソースを奪われていても仕方がありません。もしすれ違いが起きても「仲介思考を実践するチャンス」と捉えて、試してみていただければと思います。
取材・文/西 倫英(日経BOOKSユニット第2編集部) 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/小野さやか
Googleで仲介役を務めた著者が、エンジニアと営業のすれ違いを解決する「仲介思考」をまとめた1冊。「謙虚さ」「理解」「発見」という3つのプロセスを経て解決に導く考え方やトレーニング方法も紹介。
価格:2,420円(税込)
発行日:2026年2月27日
著者名:水谷享平 著



