2026年「本屋大賞」に朝井リョウさんの『 イン・ザ・メガチャーチ 』(日本経済新聞出版)が選出されました。朝井さんに喜びの声と受賞までの道のりについて聞きました。

(写真:スタジオキャスパー)
(写真:スタジオキャスパー)

『イン・ザ・メガチャーチ』が本屋大賞にノミネートされたとき、また受賞を知ったときのお気持ちと、その時々の朝井さんのご様子を教えてください。

朝井リョウさん(以下、朝井):ノミネートされたときは、【本当によかった】と思いました。そう書くとノミネートを想定していたように受け止められるかもしれないですが、そういうわけではなく、前々作『 正欲 』(新潮社)や前作『 生殖記 』(小学館)をノミネートいただいたことで、本書に関わるスタッフ陣からの(言外の)期待をひしひしと感じていたんです。なので、まずはその期待に応えることができた、とホッとしました。

 とはいえ受賞するとは思っていなかったので、受賞の連絡をいただいたときは【まさか】という気持ちでした。私の作品は、『イン・ザ・メガチャーチ』を筆頭に、読んでいて気持ちがいいものではないという自覚があるので、不特定多数の投票による支持は集まりづらいだろうと感じていました。連絡をいただいたのは午前中で、もう家を出ないと待ち合わせに遅れてしまうというタイミングだったこともあり、一瞬喜びを噛み締めた後、すぐに駅へ向かわなければなりませんでした。

『イン・ザ・メガチャーチ』は発売直後から増刷がかかり、盛り上がりが加速していきました。その広がりの様子を、朝井さんご自身はどう感じられていましたか。想定していたこと、想定外だったことがあれば、教えてください

朝井:想定していたことは特にないです。何度出版の機会に恵まれても、本というのはつくづく生物(なまもの)で、計算とか戦略みたいなものが通じないものだと痛感します。何かを想定して動くということは、こと本に関してはしないようにしています。

 想定外だったことは、【普段はビジネス書を読む層に届いている】実感があったことです。日経新聞での連載、日経BPからの出版ということも影響していると思いますが、いわゆる読書好き・小説好きではない層からの反響を感じる機会がこれまでの本に比べて多かったです。

『イン・ザ・メガチャーチ』では、コンテンツスケジュールを出すなど、プロモーション戦略にもかなりこだわりを持って進めてこられました。実際にやってみた手ごたえや反響などはどのように感じられていますか。

朝井:何のエビデンスもない話で恐縮ですが、出版業界はそれ以外の業界に比べて、前宣伝が少ない気がしていました。本書は15周年記念作品ということもあり、自分にとってのお祭りということで、コンテンツスケジュールを発売の約2ヶ月前に公開したいと自分から提案させてもらいました。それなりに面白がっていただけたとは思いますが、正直、最も反響があったのは発売と同時に金髪を解禁したときでした(笑)。

出版までの道のり、発売後の道のりのなかで、印象深いエピソードや思い出はありますか。

朝井:とにかく連載期間中が印象に残っています。前作『生殖記』と約3ヶ月ほど連載期間が被っていて、しかもどちらも日刊の新聞連載だったので、その期間は毎日原稿用紙5枚分のストックがなくなっていったんです。生きているだけでどんどんストックが減っていくのが怖くて、この期間のことは忘れられません。あとは発売後に本当に沢山の書店員さんたちに応援いただいたことも印象深いです。大阪の書店に行ったとき、こちらのタイムスケジュールが不適切で、帰りの新幹線の発車時刻ギリギリになってしまったんです。そのとき担当いただいていた書店員さんが「こう行けば近いですよ!」と一緒に駅まで爆走してくれて……感謝しています。

改めて、本屋大賞は、朝井さんにとってどのような賞ですか。

朝井:読み手としては、自分の読書好きを決定づけてくれた『 一瞬の風になれ 』(佐藤多佳子著、講談社、2007年受賞)と出会わせてくれた賞なので、やはり特別な感慨があります。書き手としては、普段からお世話になっている書店という場所から生まれたお祭りといいますか、小説家としての喜びと日頃現場に立ってくださっている方々への恩返しを同時に達成し得る稀有な賞だと思っています。今回の受賞で少しでも書店文化の盛り上がりに寄与できたら嬉しいです。

(写真:興梠真穂) 
(写真:興梠真穂) 
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」――2025年、作家生活15周年を迎えた朝井リョウが、ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。

朝井リョウ著、日本経済新聞出版、2200円(税込み)

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