チャンネル登録者数約50万人の旅行系YouTuber・おのださんが、『 旅は究極の自己投資 自由に生きるための世界スマート旅 』を出版した。彼は年間の大半を旅に費やしながら発信を続けている。会社員時代の20代は「ひたすら貯金に励んだ」というおのださんが、「お金は使ってこそ価値がある」と考えを変えたきっかけは、ビル・パーキンス著『 DIE WITH ZERO 』との出合いだった。旅とお金の関係について、おのださんに聞いた。

必要なのは「現場まで行く勇気」だけ

おのださんのYouTubeチャンネルを見ていると、ハワイ、台湾、上海、シンガポール、アイスランド、サウジアラビア……といろいろな国の旅行動画を公開されていて驚きます。素朴な疑問として、どうしてそんな頻度で海外に行けるのでしょうか?

おのだ 渡航先の情勢や時期にもよりますが、航空券は直前でもそこまで高くないことも多いんです。東京なら羽田空港も近いですし、思い立ったらすぐ動ける環境にあります。結局、ハードルは「現地まで行く勇気」だけ。日本のパスポートはありがたいことに多くの国にビザなしで渡航できるので、パンデミックや紛争によって厳しい時期もありますが、旅行を十分に楽しむことができます。

そのフットワークの軽さが、おのださんのチャンネルの魅力ですよね。それに加えて、旅先の観光情報というより、航空券のマイルの活用法や機内設備、機内食などを丁寧にリポートするスタイルが印象的です。こうしたスタイルはどのように生まれたのですか?

おのだ 私がYouTubeへの投稿を始めたのは2016年で、今からちょうど10年前になります。当時は、飛行機や食事の様子を撮る人は、ほとんどいなかった。他の人との差別化を意識して始めたスタイルを、今も変わらず続けている感じです。

10年間、1年の大半を旅に費やすというのはなかなかまねできません。だからこそ、おのださんの著書のタイトル「旅は究極の自己投資」という言葉の意味に、すごく興味があります。

おのだ 旅っていうと、一般的には娯楽というか、「楽しむもの」というイメージが強いと思うんです。大学時代の私も、旅は単純に楽しむものだと思っていました。でも今は、旅を通していろんな人とのつながりができましたし、YouTubeというプラットフォームのおかげで旅を「仕事」にすることもできた。好きな旅に投資して発信を続けていたら、それがたまたま時代にマッチして仕事になった。これは本当に大きなリターンですし、ラッキーだったと思っています。

 大学を卒業して社会に出てからの私は、「定年までがんばって働かないと」というプレッシャーがずっとありました。ところが海外に行ってみると、がむしゃらに働いていない人もたくさんいる。ヨーロッパでは家族との時間を大切にするために、土日はお店のシャッターがバシャッと閉まっているんですよね。また、仕事を辞めて長く旅行をする人もいます。「これもすてきな生き方だな」と素直に思いました。

 私の人生は、お金を稼ぐためでも、働くためでもなくて、自分を楽しむためにある。旅に出るとそのことを改めて実感します。そういう意味では、これが「旅は究極の自己投資」の核の部分かもしれません。考え方がすごく変わったというか。

「私の人生は、お金を稼ぐためでも、働くためでもなくて、自分を楽しむためにある」
「私の人生は、お金を稼ぐためでも、働くためでもなくて、自分を楽しむためにある」

『DIE WITH ZERO』との出合い

おのださんの人生を後押しした1冊に、ビル・パーキンス著『 DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール 』を挙げています。この本との出合いについても教えてください。

おのだ 「ゼロで死ね」という強烈なタイトルですが、書店で見つけたとき、自分が漠然と思っていたことを言語化してくれているような気がしたんです。20代の私はずっと「お金をためるのが正義」だと思っていた。サラリーマンをしていたNEC時代は、ひたすら貯金していました。

 でも、ふと、途中で死んでしまったら、いくらお金をためても意味がないと思ったんです。逆に、「今が一番若い」のだから、今こそ一番価値のあるお金の使い方ができるんじゃないか——そう考えるようになっていた時期に出合った本でした。「ゼロで死ねか、そうだよな」と思って手に取って読んでみたら、内容にもすごく共感しました。

20代の頃、会社員だった5年間で、1000万円近く貯金されたんですよね。

おのだ はい、ひたすらためましたね(笑)。そのぶん、生活は徹底して節約していました。当時は「海外に住みたい」という目標があったので、最低でも2年間は無収入でも生きていけるだけの蓄えが必要だと考えていたんです。600万~700万円くらいたまったら、会社を辞めるきっかけにしようと。

 そういう意味では、あのときの貯金は「守りのお金」だった。この本を読んでからは、「お金を使うスキル」こそが大事だと思うようになりました。

『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著、ダイヤモンド社)。「今が一番若いのだから、今こそ一番価値のあるお金の使い方ができる」。20代はひたすら貯金に励んだおのださんが、「お金を使うスキル」の大切さに目を開かされたと語る1冊。お金の「ため方」ではなく「使い切り方」に焦点を当てた世界的ベストセラー(画像クリックでAmazonページへ)
『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著、ダイヤモンド社)。「今が一番若いのだから、今こそ一番価値のあるお金の使い方ができる」。20代はひたすら貯金に励んだおのださんが、「お金を使うスキル」の大切さに目を開かされたと語る1冊。お金の「ため方」ではなく「使い切り方」に焦点を当てた世界的ベストセラー(画像クリックでAmazonページへ)

若いうちの旅は「利回り」が高い

『DIE WITH ZERO』では、若いうちの経験に投資すべきだと説いていますが、「旅」にも通じる考え方でしょうか?

おのだ 仕事をリタイアしてから世界一周するよりも、20代や30代にするほうが、その価値は高いと思うんです。何より体力が違いますから。たとえば、ボリビアのウユニ塩湖。あそこは富士山の山頂と同じくらい標高が高くて、60代や70代で行こうと思ったらめちゃくちゃ大変です。でも若いうちなら、ちょっとしたノリで友達と一緒に行ける。私も、高山病でホテルのトイレにこもるはめになりましたけど、若いから乗り切れた部分はありますね。ああいう体験を、70代ではしたくないです(笑)。

ちなみに、若い人におすすめする旅行先はありますか?

おのだ 韓国や台湾は近場で行きやすい一方で、正直、日本とそこまで大きくは変わらない部分もあります。だから若い人におすすめなのは、東南アジア、特にベトナムですね。ベトナムはベトジェット・エアというLCC(格安航空会社)が日本から多く就航しているので、比較的安く行けます。時間とお金があるなら南米ですね。会社員になってから南米に旅行するのは、まとまった休みを取るのが大変ですから。若いうちにしか行けない場所は、確実にあると思います。

 それに、私はウクライナにもイスラエルにも行きましたが、戦争で急に行けなくなる国もあるわけです。マイルの制度も改定されたりしますし、航空券の運賃や燃油サーチャージもここ数年は上がっている。行きたいところがあるなら、さっさと行っておいたほうがいい。これは視聴者の方にも、いつも言っていることです。

「お金を使って後悔」したことはない

「さっさと行っておいたほうがいい」にはとても納得する半面、物価高や円安などでお金を守る気持ちが勝ってしまうことも……。おのださんなら、どうアドバイスしますか?

おのだ 最近は新NISAも広まってきていて、若い人たちも賢く投資している印象があります。私が20代の頃は、私自身は投資をするタイプでしたけど、周りにはそういう人はあまりいなかった。ただ、今になって思うのは、手持ちのお金を投資に回すこと自体はもちろん大事ですが、やりすぎるのもよくないなということです。60代になって足腰が弱くなってから「旅に出たい」と思っても、お金はあっても行けない、という状況になりかねない。

 若いうちのお金の価値は高いというのは、『 DIE WITH ZERO 』にも書かれていることですが、10年ほど旅を仕事にしてきて、本当にその通りだと思っています。

おのださんは、若いうちに「お金を使って後悔した」みたいな経験はありませんか?

おのだ あまりないですね。たとえば、妻と大阪に住んでいたときに、ミシュラン三つ星レストランの「HAJIME」に行ってみたんです。普段は全然そんなところには行かないんですけど、一人6万円くらいして。でも、その時のことを今でも夫婦で話すんですよ。「なんかすごい料理出てきたよねぇ」とか。良かった、悪かったというよりも、とにかく“記憶に刻まれる”んです。

 お金を使うことに限らず、バンジージャンプでもなんでもいいのですが、何年かに一度はそういう「振り切った経験」をしておいたほうが、人生は豊かになると思います。私は飛行機のファーストクラスに乗って、機内サービスや機内食をリポートする動画も配信していますが、「若いからファーストクラスに乗っちゃいけない」とか、「自分の年収では乗っちゃいけない」とか、そういうことを考えるだけ無駄なんですよね。

 自分が、思い切ってお金を使って体験してきたことって、だいたいは人に話せるいいコンテンツになっていることが多いんです。そこで得た経験は必ず何かの形で返ってくるものだと、10年この仕事をやってきて実感しています。

取材・文/金澤英恵 取材・構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子