これまでに『博士の愛した数式』(小川洋子著、新潮社)、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(リリー・フランキー/新潮社)などの作品が受賞してきた本屋大賞。本が売れない時代と言われるなか、「売り場からベストセラーをつくる!」という思いを込めて設立され、今年で23回目を迎えた。

 本屋大賞実行委員会は全国の有志の書店員で運営され、大賞は書店員の投票のみで選ばれる。2026年の一次投票は全国490書店から書店員698人、二次投票では345書店から書店員470人が投票し、大賞には朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)が選ばれた。授賞式への参加申し込みは過去最多の700人を超え、会場には抽選で選ばれた書店員をはじめ、出版関係者などが来場した。

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紙の本へ回帰の兆しも

 授賞式では最初に本屋大賞実行委員会理事長の浜本茂さんが挨拶し、「親子かもしれない書店員からの投票を見つけた」と話した。「同じ名字で同じ店舗、しかし、名前と年齢が違う。もしかしたら、親子かもしれない、娘さんはお母さんの背中を見て書店員を目指したのかもしれないと思うと、ものすごく感動しました。本当に親子かどうかは分かりませんが、親子二代で投票してくれる書店員が現れ、そういう人たちによって23年間も本屋大賞が続いているのだと思いました」(浜本さん)

 続いて、オフィシャルスポンサーの日本能率協会マネジメントセンター代表取締役社長 張士洛さんが大賞発表に向けて「最高にワクワクする日がやってきた」と述べた。「学校現場では子どもたちが紙の本に触れる機会が減り続けていますが、教育先進国の北欧や欧米ではZ世代を中心に、紙の本と紙のノートへの回帰が始まっています。やはり、人々は再び手触りのあるぬくもりを求め始めているのだと信じています。今年も本屋大賞には熱量の高い本がそろいました。誰もが読みたくなるはずです。1人でも多くの読者を増やすために、本屋大賞受賞作を中心に、みなさんと紙の本の将来をつくっていきたいと思います」(張さん)

 大賞作品の発表は、本屋大賞実行委員の、丸善雄松堂 広島支店・河野寛子さんから行われた。

 「今年も書店で働く多くの方から、『これぞ』と思う小説を届けてもらいました。届けられた推薦投票にはすべて目を通し、その本の魅力を実行委員みんなでしっかりと共有しています。今日までご協力をいただいた書店、流通に携わるみなさま、本当にありがとうございました。

 街の書店では、早ければ大賞発表の数分後から新しいPOPや帯が取り付けられます。これは書店員にとっては忙しいながらも楽しい作業です。ぜひ、お近くの書店で、本を売ること、書店を盛り立てることを一緒に想像してもらいながら受賞作の発表を聞いてもらえればと思います」(河野さん)

 そして、本屋大賞を朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』が受賞したと発表されると、会場は大きな歓声に包まれた。

 朝井リョウさんが受賞の言葉を述べると、書店員たちも壇上に上がり、全員で記念撮影。この日のために用意した手書きのPOPが並ぶ様子は、まさに『イン・ザ・メガチャーチ』で書かれたファンダムのようだった。

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 改めて26年のノミネート作品を振り返ると、次の10作品となる。順位順に大賞『イン・ザ・メガチャーチ』(日経BP/朝井リョウ)、2位『熟柿』(KADOKAWA/佐藤正午)、3位『PRIZE─プライズ─』(文藝春秋/村山由佳)、4位『エピクロスの処方箋』(水鈴社/夏川草介)、5位『暁星』(双葉社/湊かなえ)、6位『殺し屋の営業術』(講談社/野宮有)、7位『ありか』(水鈴社/瀬尾まいこ)、8位『探偵小石は恋しない』(小学館/森バジル)、9位『失われた貌』(新潮社/櫻田智也)、10位『さよならジャバウォック』(双葉社/伊坂幸太郎)。

会場には、工夫を凝らした『イン・ザ・メガチャーチ』のPOPが並ぶコーナーも
会場には、工夫を凝らした『イン・ザ・メガチャーチ』のPOPが並ぶコーナーも
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 会場では3月に発売された『本屋大賞 公式ファンブック』(日本能率協会マネジメントセンター編、本屋大賞実行委員会 全面協力)も紹介されていた。過去の受賞作品のエピソード、作品に登場する聖地巡礼、さらには本屋大賞の副賞「10万円図書カード」で受賞作家たちはどんな本を買ったのかが分かる一冊となっている。

本屋大賞がどのように生まれたのか、受賞作はどのように選ばれているのか、選考の裏側までわかる『本屋大賞公式ファンブック』。全国書店で販売されている。
本屋大賞がどのように生まれたのか、受賞作はどのように選ばれているのか、選考の裏側までわかる『本屋大賞公式ファンブック』。全国書店で販売されている。
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 また、『本屋大賞2026(本の雑誌増刊)』(本の雑誌編集部)も全国書店で販売されている。一次投票、二次投票の書店員の推薦コメントがすべて掲載されており、ノミネート作品をもう一度、違った角度で味わえる。

書店員の推薦コメントが読める『本屋大賞2026(本の雑誌増刊)』
書店員の推薦コメントが読める『本屋大賞2026(本の雑誌増刊)』
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本を読むのは孤独だけれども、豊かな時間

 閉会の挨拶は本屋大賞実行委員であり、丸善 博多店の徳永圭子さんから行われた。大賞作品の発表を受け、「今、売り場では猛スピードで大賞作品、ノミネート作品を並べている」と全国の書店に思いを馳せた。

 「本屋大賞を支えているのは、書棚をつくっている書店員だと思います。お帰りの際や週末にお出かけの際には、ぜひ書店に足を運んでみてください。面白い文芸作品が並んでいるとお約束します。

 若い人からは『どんな作品を読んだらいいですか?』と聞かれることが増えました。今まではわりと読みやすくて楽しい作品をすすめることが多かったのですが、最近は時間がかかってもいいから、大きな人生や時代を描いた長い作品をゆっくり読んでもらいたいと思っています。1人で本を読むのは孤独な作業ではありますけれども、とても豊かな時間です。店頭に立っていると、こうした時間を持つことが、今、そしてこれからの時代にすごく必要なことだと感じます」(徳永さん)

 4月9日、本屋大賞が発表されるや否や、全国書店の棚に『イン・ザ・メガチャーチ』が一斉に並んだ。工夫を凝らしたPOPが並ぶ書店に足を運び、心揺さぶる一冊に出合いたい。

丸善丸の内本店
丸善丸の内本店
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くまざわ書店池袋店
くまざわ書店池袋店
ブックスタジオアルデ新大阪店
ブックスタジオアルデ新大阪店
紀伊国屋書店武蔵小杉店
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コーチャンフォー若葉台店
コーチャンフォー若葉台店
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三省堂書店有楽町店
三省堂書店有楽町店
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取材・文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 会場写真/稲垣純也 本写真/スタジオキャスパー