三菱UFJニコスの角田典彦社長にインタビューし、自身の「読書の軌跡」を伺いました。第2回は学生時代の読書スタイルや、金融パーソンを志すきっかけになったビジネス小説などについて語っていただきました。(聞き手は、日経BOOKプラス編集長 常陸佐矢佳)

中学生の時は古本屋さんを回って本を読みまくった
まだ私が10代だった頃は、地元の和歌山市にはたくさん古本屋さんがありました。中学に入って自転車通学になった私は行動範囲を広げ、毎日、クラブ活動が終わって塾に行くまでの間に、古本屋さんを回るようになりました。店主の多くが、おばあちゃんかおじいちゃんで、優しく立ち読みさせてもらえました。
翻訳小説のミステリーや冒険ものにハマった時は、早川書房の「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」を読みあさりました。古本屋さんを回って読んでいないものを見つけたらすかさず読み、市内の古本屋さんにあったものは購入するか立ち読みかで全部、読破しました。当時、たしか古本は1冊30円か40円くらいからでしたが、私は読むのが速くて月に10冊、20冊と読んでいたので、全て買うとなるとお小遣いで賄うには負担が大きかったのです。

ジャンルを問わない乱読派、今は電子書籍で読んでいる
大学生になって上京すると、東京・神保町の古書店街という、本好きにとってはたまらなくもあり恐ろしくもある場所を見つけてしまい、これまた入り浸りになりました。結果、ジャンルを問わない乱読派に。社会人になってからは、通勤や出張の移動時間を読書に充て、自宅でも、好きな音楽や映画を流しながら本を読む、という“ながら読書”を楽しんでいます。かつては出張に行くとなると何冊も携帯して重い思いをしながら持ち運んでいましたが、今は電子書籍があるおかげで身軽になりました。出張先でも、読みたいものを見つけたらすぐダウンロードできますから、本当に便利になりました。基本的にスマホで読みますが、漫画は単行本に近い感覚で読みたいので、タブレットで読んでいます。
時に、予想が外れてイマイチな内容の本に出会うこともありますが、その場合は、どうしたら面白くなるだろうか、ということを考えながら読んで楽しみます。途中で読むのをやめることはないですし、この本を買わなければよかったと思うことは全くありません。全ては一期一会です。

金融パーソンを志すきっかけになった『マネー・チェンジャーズ』
私が金融パーソンを志すきっかけになったビジネス小説があります。それがアメリカ中西部最大の銀行を舞台にした群像劇『マネー・チェンジャーズ』(アーサー・ヘイリー著)です。1975年に刊行された古い作品ですが、クレジットカードの不正利用や新興企業への巨額融資の裏側、都市再開発案件など、今の銀行や社会が抱える問題を描いていて、時代を超えたリアリティーにあふれています。物語の終盤で、主人公が役員を務める銀行が取り付け騒ぎに直面した際、お客さま本位に徹した説得で、お客さまの信頼を獲得して急場を見事に解決します。その実にフェアな格好よさに心を打たれたことが、金融パーソンを志すきっかけになったことは間違いありません。
初めて本書を読んだのは中学生の時で、あまりの面白さに強く感銘を受けたことを覚えています。長らく絶版していましたが、数年前に電子書籍で復刻したのはとてもうれしかったです。即ダウンロードして、いつでも読めるようにしています。

気持ちを盛り上げたいときに開いて、お気に入りのシーンを読む
私は、落ち着きたいときやリフレッシュしたいときなど、こういう気分のときにはこれを読む、という本が決まっています。情報や知恵を得るだけではない本の活用法で、いわば心の支えです。この『マネー・チェンジャーズ』は、気持ちを盛り上げたいときに開いて、お気に入りのシーンを読みます。すると、主人公のせりふや振る舞いがほろっと胸に響いて、スーッと心がきれいになる感じがするんです。心がきれいになると、「よし、やろう!」と活力が湧いてくるものです。逆に、ストレスがたまると心が濁ってきて、間違った選択をしたり、やらなくていいこともしがちです。そうならないように、本の力を借りています。
著者のアーサー・ヘイリーは、1960~90年代に活躍したイギリスのベストセラー作家で、綿密な取材に基づいて特定の業界の内幕を描くことで知られています。金融業界の他、自動車業界や電力業界などを舞台にした傑作を多数執筆しています。脇役など細かいところまで作り込むキャラクター描写と、ページをめくる手が止まらなくなるストーリーテリングの達人で、彼の著作は全て、原書でも読んでいます。
真のリーダーシップを学んだ『鷲は舞い降りた』
私が好きな小説に共通するキーワードは、努力、フェア、そして男気です。かたくなに男の矜持(きょうじ)を守る、いわゆるハードボイルドで、北方謙三さんをはじめ、ロバート・B・パーカー、レイモンド・チャンドラーなど、たくさん読んでいます。なかでも大好きなのが、第2次世界大戦中のドイツの精鋭部隊を舞台にした世界的ベストセラー『 鷲は舞い降りた 』(ジャック・ヒギンズ著、ハヤカワ文庫)です。
物語の核になるのはイギリスのウィンストン・チャーチル首相の誘拐計画です。それを指揮する大佐が、ミッション・インポッシブルな任務を負わされてもなお軍人としての名誉と倫理を重んじ、部下からの尊敬と信頼を集めながら全力で任務完遂を目指すのです。彼の言動から、人間の誇りとは何か、真のリーダーシップとはどういうものか、ということを学びました。初めて読んだのは、中学か高校の時だったと思います。当時は古本屋で買いましたが、その後新刊を何度か買い直し、いまは完全版を持っています。
幸いなことに、私には現実世界でも目標となる諸先輩方がたくさんいらっしゃいます。銀行時代に師と仰いでいた先輩が研修でおっしゃられた「色々あるけれど、要すれば『格好よく振る舞う』ことが正しい道を行うための最も分かりやすいポリシーである」という訓話は、座右の銘として胸に刻んでいます。常に格好よく振る舞えるかを考えていれば、道を間違うことはない、と。英語の「Do the right thing」と同義だと理解しています。
私は、人にアドバイスを求められたときにも、この先輩の言葉をよく引用させてもらっています。気を付けなければならないのは、自分にとっての格好よさが、みんなにとっての格好よさとイコールとは限らない、ということです。ひとりよがりの格好よさにならないように、いろんな人と話したり、本を読んで学んだりする必要があります。そういう意味で、ベストセラーやロングセラーを読むのは、近道になると思います。


文/茅島奈緒深 構成/南浦淳之(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子
