(写真=PIXTA)
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 いまだに従来型の携帯電話、いわゆるガラケーを持っている。電話とは別にデータ通信専用のタブレット端末も併用していて、私用のスマートフォンを持っていない。少し前に、そんな2台体制からスマホ1台に切り替えようと検討をした。が、結局見送ることにした。

 スマホ購入を見送った理由を振り返ると、日本の未来に不安を覚える。自走ロボットやドローンが普及する「無人配送社会」が到来したときに、日本は世界に見捨てられるのではないかと考えるからだ。今回はそんな話を紹介しようと思う。

モバイル決済ができなかった

 スマホを買おうと考えたのは、複数のレンズを使って写真を撮る「マルチレンズ」に興味を持っていたところに、「Google Pay」の発表が後押しとなったからだ。

 Google Payは米グーグルが2018年5月24日に日本向けのサービス拡充を発表したモバイル決済サービスだ。「Suica」や「WAON」といった各社が独自の仕様で運営している決済サービスを一括管理できる。

 以前から米アップルのモバイル決済「Apple Pay」で同様のことができており、発表そのものは画期的というほどではなかった。が、自作のAndroid向けアプリの都合でiPhone購入を見送っていた自分には待望の発表だった。韓国や中国のスマホメーカーは既にマルチレンズのAndroid端末を販売していたので、Google Payのサービス拡充をきっかけに、ついにガラケーからスマホに乗り換えようと考えたのだ。しかし、その考えは早々に壁にぶつかる。海外メーカーでモバイル決済ができる機種がほとんどなかったからだ。

 日本の決済サービスの多くは、「FeliCa」という非接触通信技術が必要だ。2004年には携帯電話でFeliCaを使った決済ができるようになっていたが、18年になっても海外メーカーはほとんど対応していない。FeliCaは実質的に日本の独自仕様で、海外ではほとんど使われていないからだ。

 中国ファーウェイが最新モデルでFeliCaに対応するとの噂があって期待していたが、18年5月に発表された「P20 Pro」はNTTドコモの専売だった。実は、スマホを買うなら、その後の料金を考えて、格安のMVNO(仮想移動体通信事業者)を使おうと考えていた。ドコモ専売のスマホを使うには不要な回線契約をした上で解約金を支払わなければならない。端末代金のほかに何万円もかかると分かり、結局見送ることにしたのだ。

価値を失う日本市場

 FeliCaが登場して何年も経っているのに海外メーカーがほとんど対応していないということは、日本の独自仕様に合わせるメリットを各社が感じていないということだろう。日本は急速な少子高齢化が進んでいて、今後市場は確実に縮小していく。市場価値を段々と失っていく上に、独自仕様に合わせた専用品開発が求められる日本は、世界の企業から無視されやすい市場になっていくと言わざるを得ない。

 記者が同様に世界から無視されることを心配しているのが、冒頭で触れた「無人配送」だ。自走ロボットやドローン、自動運転車などを使った無人配送サービスの実現を目指し、多くの企業が技術開発に取り組んでいるが、そのサービスが日本に来ない可能性がある。

 無人配送を実現するために欠かせないのが、詳細な地図データを使いこなす機能だ。機械が人間のように周囲の状況を判断して移動するにはコンピューターの計算スピードがまだまだ足りないため、予め詳細に地図のデータを調べておいて制御に使おうというわけだ。

 実は、この詳細な地図データが日本だけ独自の仕様になる可能性が高い。そうなると海外で産まれた優れた無人配送サービスが日本に輸入されづらくなる。逆に国内企業がサービスを開発する場合も、独自仕様はサービスを海外に輸出する上で足かせになりかねない。

 もちろん、そのリスクは日本の地図業界もよく理解している。現在、日本では複数の企業が出資するダイナミックマップ基盤(東京・港区)が中心となって自動運転向けに詳細な地図データの整備を進めているが、その関連企業の1社が世界で地図データの整備をする代表的企業である独Hereと協業し、データ仕様の互換性を目指していた。

 ところが風向きが変わる出来事が起こった。その互換性を目指してHereと協業していた会社であるパイオニアが9月12日、経営悪化を理由に海外ファンドから出資を受けると発表したのだ。もしこの出資が地図データ整備に影響を及ぼすようなことがあれば、未来の無人配送社会で日本が独自仕様を貫くことになりかねない。

 ダイナミックマップ基盤がパイオニアの働きとは別に地図データを独自仕様にするリスクを重要視し、国際的に互換性のある形で整備ができれば記者の心配は杞憂で済む。が、ダイナミックマップ基盤が日本企業だけで組織され、整備する地図は国内のみを想定していると聞くと、不安を覚える。

 なにせ日本は決済サービスがいくつも乱立してキャッシュレス文化がなかなか定着していないといった前例がある。複数の独自仕様の決済サービスが乱立すれば普及の妨げになるリスクは予想できたはずだが、リスクよりも企業側の都合が優先されたわけだ。そんな日本の現状を見ると、地図データでもリスクよりも企業の都合が反映されてしまうのではないかと考えてしまう。

無人配送は高齢化社会の支え

 高齢化が進む日本では、在宅で医師の診断を受けられる「遠隔診断」や、薬の処方を受けられる「遠隔服薬指導」が期待されており、すでに検証や制度の整備が進んでいる。その期待を叶えるには、薬などを届ける無人配送サービスの普及は欠かせない。配送はすでに人手不足が加速しているのだから、無人配送なしには在宅での高度な医療サービスも夢物語になってしまう。

 海外で優れた技術が開発されても、日本だけはその恩恵を受けられない。日本で優れた技術が開発できても、海外へ輸出ができずに事業が潰れてしまう。そんな悲しい未来が無人配送サービスで起こるのではないか。できればそんなリスクを考える日本のファンドや銀行がパイオニアに出資してほしかった。

 スマホ購入を断念したことで脳裏をよぎったこうした心配が、杞憂で終わることを祈っている。

■変更履歴
記事掲載当初、「ダイナミック基盤」としていましたが「ダイナミックマップ基盤」の誤りです。本文は修正済みです。お詫びして訂正します。 [2018/10/04 12:50]
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