ホワイトキューブに〝整列〟する12着のかっぽう着。それぞれから赤い腰ひもが垂れ、先端におもちゃのピストルや戦没者の写真、軍人勅諭の冊子が結ばれている。「家庭的な女らしさ」を象徴する純白のかっぽう着と、暴力や死を連想させる品々。それらをつなぐインスタレーションは、女性の身体が、家父長制を土台にした国家の鎖につながれている社会構造をあぶりだす。
本作を手がけたのは嶋田美子さん(1959年生まれ)。80年代後半から女性と戦争を主題にしてきた嶋田さんは、来月開幕するベネチア・ビエンナーレの国際企画展への参加が決まっている。東京・六本木のオオタファインアーツで開催中の個展「滅私—愛護」は、89年の昭和天皇の死をきっかけに制作された90年代前半の作品11点を紹介し、銃後の女性の役割を考察する。
重要なモチーフの一つが国防婦人会(国婦)の女性たちだ。当時の資料を素材にした一連の版画には、銃を手に射撃訓練に臨むかっぽう着姿の女性が繰り返し登場する。参政権もなく家に縛られていた女性にとって、「国家への貢献」という国婦の活動は魅力的な自己解放の場になりえた。そこには、強制的に動員された「戦争の被害者」と単純化できない加害性が潜む。

女性たちは同時に、「産む性」「ケアする性」としての役割も期待された。<産めよ子宝 殖(ふ)やせよ貯蓄 働いて耐えて笑って御奉公>。天井近くの壁を囲むように印字された戦中標語は、それまで家庭に閉じ込められてきた女性を都合よく使おうとする国の本音を映し出す。一方、忠霊塔を思わせる高い塔がモチーフの版画は、労働も愛もケアも結局のところ、ささげる対象は国家=天皇でしかないという事実を突きつける。
戦中標語に頻出するという「滅私」「愛護」は、現代では「献身」「ケア」と言い換えられる。自己責任の名の下、仕事も子育てもやり遂げることを女性に求めるこの社会の根っこには、戦時下と変わらぬ家父長制の暴力があることを本展は鋭く問う。5月16日まで。
2026年4月27日 毎日新聞・東京夕刊 掲載