「産みたいと思えない、私がおかしい?」月岡ツキさんの葛藤と本音

生野由佳
生野由佳
子どもを望まず、夫婦二人で楽しく暮らすという選択肢もある(写真はイメージ)=ゲッティ
子どもを望まず、夫婦二人で楽しく暮らすという選択肢もある(写真はイメージ)=ゲッティ

 いつかは子どもを産むもの――。

 疑問を持つことなく、そうした前提のもとで育つ女性が多いのではないだろうか。けれど実際には、結婚や出産、家族のカタチは人の数だけ違う。

 結婚をきっかけに「産む・産まない」という選択に向き合い、自身の迷いや葛藤を言葉にしてきた女性がいる。エッセー集「産む気もないのに生理かよ!」(飛鳥新社)を出版した月岡ツキさん(33)だ。産みたいと思えない自分はおかしいのか。その問いを、長い時間をかけて掘り下げてきた。【聞き手・生野由佳】

「女は愛嬌」と育てられ

 ――「産む・産まない」を意識するようになったのはなぜですか。

 ◆結婚したことで「子どもをどうする?」という問いが、急に現実のものとして目の前に現れました。すぐに決められることではありませんでしたし、正直に言えば「産みたい」とも思えなかった。でも同時に、「産んだほうがいいのかな」という社会の空気も確かにあって、その間で長く葛藤していました。

 ――育ってきた環境の影響もありますか。

 ◆あると思います。長野県の田舎町で、祖父母と同居する「ちびまる子ちゃん」みたいな大家族で育ちました。大きな不幸があったわけではありませんが、「結婚して子どもを産むこと=幸せ」という無条件に明るいイメージは持てませんでした。女性はいつも大変そうで、役割を背負わされているように見えました。

 正月に親戚がくると、布団を敷いて、ご飯を作って、私も自然と「女の子だから」と手伝う側に回る。正月が終わるころには、母が疲れ果てていました。「将来、これを自分もするのか」と感じていたことは、後から振り返ると大きかったと思います。

結婚をきっかけに「産む・産まない」に向き合ってきた月岡ツキさん
結婚をきっかけに「産む・産まない」に向き合ってきた月岡ツキさん

 ――「女性は結婚して子どもを産む」という空気感があったのでしょうか。

 ◆「早く結婚しなさい」と、強く言葉で迫られたわけではありませんが、「そうすることが当たり前」という前提が確実に存在していました。結婚や出産を疑問に思うこと自体が、あまり想定されていない感じでしたね。

 母からは勉強ができるより、笑顔であいさつができる方がいい、女は愛嬌(あいきょう)といった感じで育てられました。

「夫婦二人が楽しい」と言えない社会

 ――出産について、パートナーとはどんな話し合いをしましたか。

 ◆29歳の時に結婚しました。結婚前は、子どもについてお互いに深くは考えていなかったと思います。軽口として子どもがいっぱいいたら楽しいね、と話していたこともあるぐらい。

 ただ、夫は医療系の仕事をしており、出産後にうつ病になったり、子育てに困難を感じていたりする家庭を日常的に見聞きしていました。「理想だけじゃ育てられない」という認識が私にも夫にもあり、一緒に自分事として考えた時に、二人で暮らすのが楽しいし、子どもはなしでいいんじゃないかという雰囲気になりました。

 ――子どもが好きではなかったのでしょうか。

 ◆子どもが嫌いではありません。むしろ反対で、めいやおいの子守はよくしており、遊ぶのは上手な方だと思いますよ。ただ、自分の子どもになると、「勉強してほしい」などと無意識に期待を押し付けてしまいそうな不安があります。

「女性は結婚して子どもを産むもの」という価値観が今も社会に残っているのかもしれない(写真はイメージ)=ゲッティ
「女性は結婚して子どもを産むもの」という価値観が今も社会に残っているのかもしれない(写真はイメージ)=ゲッティ

 ――産まない選択に対して、周囲の反応に違和感を覚えることはありますか。

 ◆「子どもがいないなら、まだ二人で楽しい時期だね」といった、将来は子どもを育てることを前提とした言葉をかけられることがあります。「二人で暮らすのが楽しい」というのが一般的ではない、言い出しにくい社会なのだと感じます。

 自分自身は受け流せますが、「もし不妊治療をしている人だったら」と考えると、配慮に欠ける言葉だとも感じてしまいますね。

いつかは産むかもしれない?

 ――「産まない」理由を問われたら何と答えますか。

 ◆著書ではリストにしていますが、たくさんあります。

・(出産に)一度踏み切ったら引き返せない不可逆性が怖い

・親が子育てで苦労していたので希望が持てない

・仕事や趣味をセーブしなければいけないのが嫌

・社会が子育てにはハードモードすぎる

(一部抜粋)

エッセー集「産む気もないのに 生理かよ!」(飛鳥新社)の書影
エッセー集「産む気もないのに 生理かよ!」(飛鳥新社)の書影

 育った環境、社会の空気、自分の価値観や性格など、複合的な要因です。そもそも子どもという他者を自分の判断で生み出すというところに引っかかってしまう。だから、将来に向けた卵子凍結も私は検討していないです。

 ――「いつかは産むかもしれない」と想像することはありますか。

 ◆よく聞かれますが、私の場合は「産みたいのに産めない」という状態ではありません。どんなに制度や環境が整っても、妊娠・出産を女性が引き受けるという前提は変わりません。かといって特別養子縁組を検討するほど「子育てをしてみたい」という熱量もない、というところです。

「少子化につながる」批判には

 ――「産まない」考えが、少子化につながるという批判にはどう考えますか。

 ◆私たちの世代はすでに、少子化の原因ではなく、結果なんですよね。それを言うなら、女性1人が子ども3人以上を産まなくてはならない。批判する人の多くは、少子化対策を真剣に考えたいわけじゃなく「産んでいない人に文句を言いたい人」なのではないでしょうか。「産むか産まないか」の自己決定権の話、すなわち人権の話と、少子化対策という社会課題は分けて考えるべきだと思います。

 ――「産む・産まない」選択にどのような理解が必要でしょうか。

 ◆「子どもはいた方がいいし、産んだ方がいい」という前提で(多くの人が)生きていると思うんです。でも、いろんな人がいて、いろんな生き方がある。「幸せと感じることはみんな違う」ということが前提として理解される社会の方が、結果的に子どもを育てやすい、子どもが育ちやすい社会ではないかと考えています。

「産まない」葛藤の本質に気づく

 ――エッセー集を出したことで、月岡さんに変化はありましたか。

 ◆自身と向き合うことにつながりました。本当は子どもがほしいのにいろんな障壁があって産まない選択をしているのではないかと(自分を)疑っていたのですが、産むのが望ましいとされている社会の空気の中で、自分がどうしたいのか見えにくくなってしまっていたというのが問題の本質だと気づきました。

 産んで後悔する人もいるし、産まなくて後悔する人もいる。良い意味でどちらでもいいんだと、思えたんですよね。子どものいる、いないで、人生の価値が決まるわけではない。心底、そう思えたのが一番の変化です。

 ◆  ◆  ◆

 つきおか・つき

1993年生まれ、ライター・コラムニスト。長野県出身。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作を行う。働き方や地方移住、DINKsとして子どもを持たない選択などについて発信している。Podcast番組「となりの芝生はソーブルー」を配信中。

毎日新聞と女性向けサイト「Hanasone」は4月30日(木)19時から、オンラインイベント「産む、産まない、産めない どれも私」を開催します。 独身、結婚、出産、DINKS……。一人一人の生き方が多様化する社会で、産むことに関して、悩んだり決断を迫られたりする女性は多いのではないでしょうか。いつ、どのように選択するのが良いのか。衆院議員の野田聖子さんと、作家の甘糟りり子さんをお招きし、考えます。
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