“産まない理由”なぜ求められる?不妊や流産を機に離職する女性たち

宮川佐知子
宮川佐知子
ウェブメディア「UMU」は発足以来、不妊、産む、産まないを巡る当事者の選択や葛藤を伝えてきた(写真はイメージ)=ゲッティ
ウェブメディア「UMU」は発足以来、不妊、産む、産まないを巡る当事者の選択や葛藤を伝えてきた(写真はイメージ)=ゲッティ

 「子を産んで一人前」「自然に授かれて当たり前」――。

 いまだにそういった固定観念は根強いが、ウェブメディア「UMU(ウム)」は発足以来、不妊、産む、産まないを巡る当事者の選択や葛藤を実名・顔出しで伝えてきた。

 10年間の活動を通じて、不妊や妊活の経験を語りやすくなった社会の空気を感じる一方、流産後の離職や「子持ち様問題」といった子どもの有無による職場での分断など課題は残る。

 今後、UMUが目指すものとは。不妊治療などの元当事者でもある編集部員に聞いた。

【聞き手・宮川佐知子】

隠れたテーマを発掘し、問題提起

・西部沙緒里さん UMUを運営する株式会社「ライフサカス」代表。30代で乳がんと診断され、不妊を宣告される。不妊治療を経て、現在は2児の母。

・瀬名波雅子さん UMU副編集長。NPO法人で働いていた30代前半に不妊治療を経験。現在はシンクタンクに勤務しながら2児を育てる。

・青木佑さん 編集スタッフ。大学卒業後、障害・地域福祉などの領域で働く。産むか、産まないかは決めていない。

・渡辺絵美さん 編集スタッフ。第1子出産後、流産が続き不育症に。フリーランスで働きながら、1児を育てる。

 ――10年間の活動を振り返ってどのような進展がありましたか。また現在、感じている課題はありますか。

「働きながらの流産・死産」をテーマにしたUMUの記事=株式会社ライフサカス提供
「働きながらの流産・死産」をテーマにしたUMUの記事=株式会社ライフサカス提供

 西部さん 当事者に実名・顔出しで実話を語ってもらうことで、社会に向けて「それって恥ずかしいことじゃないし、本人に自己責任と抱え込ませてしまう空気を変えていきたい」というメッセージが打ち出せたと思います。2022年に不妊治療が保険適用になったことも、活動を後押ししてくれました。

 その後も「流産・死産を経験した女性の職場復帰をどう支援するか」や「不妊治療後の凍結受精卵の廃棄を巡る葛藤」など、独自のテーマ発掘によりまだ大手メディアが扱っていない「隠れたテーマ」をいち早く特集したことで、社会で知られる最初のきっかけを作ることとなり、当事者ならではの視点で問題提起もできたと思います。

 不妊治療は当時より言いやすくはなりましたが、治療や流産等を理由に離職してしまうケースはまだ無くなってはいませんし、あるいは性的マイノリティーカップルの生殖補助医療など、依然として当事者の生きづらさが解決されておらず、UMUとしても取り組むべき課題は複数残されています。

不妊治療の過程でできた余剰の受精卵をテーマにしたUMUの記事=株式会社ライフサカス提供
不妊治療の過程でできた余剰の受精卵をテーマにしたUMUの記事=株式会社ライフサカス提供

子持ち様問題「モヤモヤを感じる」が7割

 青木さん 「産まない」という選択を表明する人も増えてきている感覚はありますね。ただ、今でも産むことが前提にあり、「産む」を否定する言葉でしか表現できないというもどかしさや、世の中が納得できる「産まない」理由を求められているようにも感じます。

 昨年、メディアやSNSで話題になっている「子持ち様問題」についてアンケートを取り、7割の回答者が、職場で子どもの有無を巡る分断やモヤモヤを感じていると答えました。

 でも、子どもがいる人といない人の対立だけが原因ではなくて、所属する組織の制度や風土といった環境や、周囲の対応も大きく影響しているという結果でした。

 子どもの有無だけではないですが、それぞれの属性で対立するのではなく、みんなが自分のありたいように働いて暮らすことのできる社会にしたいという思いを込めて、リポート記事をつくっています。

「子持ち様問題」を取り上げたUMUの記事=株式会社ライフサカス提供
「子持ち様問題」を取り上げたUMUの記事=株式会社ライフサカス提供

更年期やダブルケアも 伝えるから連帯へ

 ――UMUで取り上げたいテーマや今後の方向性を教えてください。

 西部さん 編集部メンバーも徐々に年を重ねていまして、産む、産まないから派生する更年期の課題や、社会全体の晩婚化・晩産化にも起因する育児・介護・更年期のダブルケア・トリプルケアといったテーマにも関わっていきたいですね。

 現代においては本来地続きのテーマなのに、不妊は不妊、更年期は更年期と分けて語られているのを、UMU独自の切り口で横串を通し、深掘りするような企画も出していきたいです。

 大きな方向性としては、誰かが誰かを否定したり、マウントを取り合ったりする世界ではなく、「お互いさま」に想像し、思いやれる空気づくりに今後も貢献していきたいです。

 この意味で、UMUがこれまでミッションとしてきた「リアルな声と経験を社会に届ける」役割はこの10年である程度果たせたと感じており、次のステージでは、さらにその周囲の関係者も巻き込み、立場や経験の違いを超え連帯していくためのヒントやひらめきが得られる、そんな場所をめざしていきたいですね。

 渡辺さん 私自身、今決断する選択を本当に後悔しないのだろうかという不安は正直あります。「産まない」と決めた後も、人生はずっと続いていきます。決断をした人たちが抱える葛藤や、その後どうやって気持ちの整理をしているのか、そういったテーマにも取り組んでみたいと思っています。

 10周年を迎えるのを機にサイトのリニューアルも予定しています。「産む・産まない・産めない」というテーマにおけるさまざまな人の葛藤にフォーカスし、実名で伝えていくことは、変わらずUMUのコアな価値として大切にしながらも、その上でその一人一人の物語から熱が帯びて、社会の問題として考えていける場を設計していきたいと考えています。

ウェブメディア「UMU」はこちら 前編「「子を産んで一人前?」 実名・顔出しで伝える不妊のリアル」はこちら 毎日新聞と女性向けサイト「Hanasone」は4月30日(木)19時から、オンラインイベント「産む、産まない、産めない どれも私」を開催します。 独身、結婚、出産、DINKS……。一人一人の生き方が多様化する社会で、産むことに関して、悩んだり決断を迫られたりする女性は多いのではないでしょうか。いつ、どのように選択するのが良いのか。衆院議員の野田聖子さんと、作家の甘糟りり子さんをお招きし、考えます。
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