「あがー!」。突然、背後から蹴られ、生徒が思わず声を上げる。「あがー」は沖縄の言葉で「痛い」の意味。「今、方言しゃべったな」。蹴った生徒がにんまりして、「方言札」と書かれた長さ20センチ程度の木板を渡す。
戦前の「同化教育」の産物、戦後も
1960年代後半、崎原恒新(こうしん)さん(79)=沖縄市=が教員を務めていた与勝(よかつ)中学校(現・沖縄県うるま市)では、こんな光景が繰り返された。「わざとたたいたり蹴ったりして方言を言わせ、札を回す。どの子も違和感なくそれを受け入れていた」と振り返る。
長方形の板にひもや縄を通して首からぶら下げさせる「方言札」。起源は明治時代末期の1900年代にさかのぼる。沖縄では1879年、独立国家だった琉球王国が明治政府によって廃され、一つの県として日本に組み込まれた。県は言葉や風習などの「日本化」を進め、教育現場では「標準語励行」のスローガンの下、沖縄の言葉を使った生徒への罰として方言札が使われた。
そんな戦前の「同化教育」の産物がなぜ戦後も使われ続けたのか。背景には、異民族による統治の下で人々が募らせた「祖国復帰」への思いがあった。
戦後27年間、沖縄は米国の統治下に置かれ、日本と切り離された。「基地の島」では米兵が事件を起こしても正当に裁かれず、子供が犠牲になる米軍機の事故がたびたび起きた。日本への復帰を願う声が高まる中、教育を担う沖縄教職員会が目指したのが、子供たちを「日本国民」として育てることだった。教職員会は「日の丸」を学校や家庭で掲げる運動を展開し、子供たちには標準語の使用を促した。一部の地域で復活したのが方言札だった。
崎原さんらによると、夕方、授業が終わ…
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