伝説のバー店主知る“リアル”「ストリート・キングダム」の熱気
「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」を見た。1970年代の終わり、パンクロックに影響を受けた若者たちが日本のロックに革命を起こした、伝説的なムーブメントの映画化である。
私は東京・南青山にあるバー“ロックの迎賓館”「レッドシューズ」の2代目オーナー。この店は先代が映画とほぼ同時代の81年にオープンし、当時のクリエーターの社交場となり一世を風靡(ふうび)した。私はその少し後に、働き始めた。映画には、私が触れたあの時代の熱さが隅々まで再現されていた。
活動1年で時代作った「東京ロッカーズ」
映画は、78年に「東京ロッカーズ」を名乗って新しい音楽を求めた、実在のバンドたちを描いている。劇中では「リザード」が「TOKAGE」に、「フリクション」は「軋轢」とバンド名を変え、ミュージシャンのS-KENはS-TORAとして登場する。
「東京ロッカーズ」はわずか1年のムーブメントだったにもかかわらず、その後のロックシーンに大きな影響を与えた。「インディーズ」「自主レーベル」「オールスタンディング」など、それまでなかったものが、彼らによって生み出されたのだ。
私は89年に上京してレッドシューズで働き出すのだが、入店当初「ストリート・キングダム」の登場人物のモデルになった方々もよく見かけた。
客席の反応、オリジナル音源、ケンカ騒ぎ
劇中のライブのシーンはとても興味深かった。オーディエンスの反応にリアリティーがあった。
映画の中では、演奏中に観客が突然立ち上がってフラフラと踊り出し、しかもそれぞれが好き勝手なスタイルで体を動かしている。今ではロックを聴く形が出来上がっているが、当時は突然何かに取りつかれたように体を動かすのはむしろ自然だったのだろう。
さらに前になると、みんながそろって手拍子していたように思う。思い思いに体を動かす、音楽にノるようになったのは、この頃からなのだろう。
演奏シーンにオリジナル音源を使用しているのも良かった。この手の映画は版権の問題もあったりして、カバー音源を使うことがよくある。これはさめる。ホンモノではないからだ。ホンモノには、ニセモノにない説得力があるのだ。
私が働き始めた頃のレッドシューズでは、お客同士のケンカ騒ぎもよくあった。それは大抵、酔ったロックミュージシャン同士だった。そんな空気感も、映画はみごとに描いてくれた。今では全く見かけなくなったけれど。
情報かき集め聴きあさった
ところで、東京ロッカーズがロックの革命を起こしていた頃、私は福井県の中学生だった。ラジオから流れてくるハードロックや、ニューミュージックと呼ばれた日本のロックやポップスを聴きあさっていた。
その後パンクロックを知り、その影響を受けた日本のロック、特にめんたいロックと呼ばれたシーナ&ザ・ロケッツやザ・ルースターズ、ザ・モッズなど、九州博多発のロックンロールバンドに夢中になる。
バンドを知るきっかけは、テレビやラジオがほとんど。情報量も少なく電波に乗らないものもたくさんあった。そんな中で、聞きかじった情報を先輩や友達と共有して楽しんだものだ。
「アナーキーのシゲルが映画『爆裂都市』の打ち上げに殴り込んで、遠藤ミチロウをぶん殴ったんだって! シゲルかっこいい‼」とか(笑い)。
本当かウソかなんて、確認はもちろんとれない。牧歌的な時代だった。
中村獅童の絶対的存在感
私は店を通じて、この作品の監督、脚本家、俳優とも親交がある。
劇中のヒロミ役の中村獅童も、そのひとり。昨年、レッドシューズに来た時に「田口トモロヲさんの映画にまた出るんだけど、あれ? 誰の役だったっけなあ??」。モデルになった江戸アケミを知らなかった。
「じゃがたら」というバンドを率いた江戸アケミは、額をナイフで切ったりニワトリや蛇を生きたまま食いちぎったりするパフォーマンスで注目された。ザ・スターリンの遠藤ミチロウが当時じゃがたらと対バンし、過激なスタイルに影響を受けたという。スターリンは豚の臓物や爆竹を客席に投げつけたり、全裸で放尿したりとさらに過激になり、週刊誌にとりあげられ有名になっていった。
一方で江戸は、次第にパフォーマンス目当ての客が増え、音楽を聴いてもらえなくなるのに嫌気がさし、パフォーマンスを一切やめて音楽で勝負した。初期のパンクロックに加えファンクやアフロビート、レゲエをミックスしたロックは、中村とうようら大御所音楽評論家に絶賛された。
獅童が演じたヒロミは、絶対的な存在感だった。実は私も「じゃがたら」のレコードを1枚持っている程度で、江戸がどんなキャラクターだったのか知らなかったが、絶対こうだったに違いない、これだよ!と思わされた。
獅童に出会ったのは、彼の出世作となった映画「ピンポン」への出演が決まる前だった。それから映画やドラマなどで百戦錬磨、この映画ではロックへの愛情もあふれ出て、これ以上ないほどの説得力だった。
ロックは生き方そのもの
劇中でのヒロミの「俺は自分のロックをやる。お前はお前のロックンロールをやれ!」「やっぱ自分の踊り方で踊ればいいんだよ」というセリフは、心に響いた。ロックは音楽のジャンルだがそれだけではなく、生き方そのものなのだ。
お店でお客さんに「ロックって何?」「誰がロックなの?」と聞かれることがある。酒の席での、まじめに答えるべき質問ではないと大抵はちゃかして終わるのだが、持論はこうだ。
ロックとは、自分の生き方に信念を持ち、人に左右されず、仲間を大切にし、正直に、一生懸命やり抜くこと。
今は亡き、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠は、コロナ禍でのインタビューで「ロックは自分で決めるんよ!」と言い放った。心が震えた。
この映画を見て、若い頃に感じた衝動を、そして生き方を再認識できた。時代は変わった。でもこの映画が若者たちにとって、自分の生き方やスタイルを探すきっかけになってほしいと願わずにはいられなかった。(門野久志)
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