長野県松本市のNPО法人信州ツキノワグマ研究会が同市内で公開シンポジウム「ツキノワグマによる人身被害を防ぐために~長野県クマ保護管理30年の歩みとこれから」を開いた。同研究会の岸元良輔理事長らが県独自のクマ保護管理や人身事故について報告し、捕獲だけに頼らない対策を話し合った。会員や市民約100人が熱心に耳を傾けた。
公開シンポジウムは18日に開かれた。登壇した岸元理事長によると、長野県は1995年に独自のクマ保護管理計画を策定し、捕獲を年150頭に規制。被害を防ぐ電気柵設置やごみなどの誘引物管理といった捕獲・駆除だけに頼らない対策を進めてきた。同研究会も発信機を付けたクマの生態調査や、電気柵設置などの対策の普及啓発に努めてきた。
県の調査では、県内のクマの推定生息数は2002年の1900頭から22年は7200頭と3・8倍に増え、本州で最多となった。一方で、人身事故件数は00年代の平均年7・8件から20年代の同11・7件と1・5倍の増加にとどまっている。
岸元理事長は「県内ではクマの生息域が00年ごろから里に近い低標高域に広がって個体数が増え、06年や10年、14年には里地への大量出没があった。ただ、人身事故は25年にクマが大量出没した東北各県と比べ、『長野方式』とも言える30年間の地道な取り組みで少なめに抑えられている」と強調した。
研究会の集計では、20年代の人身事故件数は秋田県(推定生息数3900頭)が平均年26・3件で、同8・5件だった00年代から3・1倍に増加。同じく岩手県(同3700頭)が26・5件で、同11・3件だった00年代から2・3倍に増えている。
研究会の瀧井暁子さんは人身事故について説明。県内で73年以降に起きた約290件を調べたところ、被害場所は森林が69%、里地が29%だった。年代が進むと里地が増え、近年で事故が16件と多かった20年は里地が75%を占めた。被害者の行動については「以前はキノコや山菜採りの時が多かったが、近年は登山や散歩、日常生活での事故が多くなった」と話した。
その上でクマ被害の対策として、至近距離でクマと突然出合わないよう、鈴などで音を出したり声を上げたりする▽クマが潜みやすい民家近くのやぶを刈り払う――などを挙げた。
シンポでは他に、クマがごみに餌付いた経緯がある軽井沢町や北アルプス上高地での取り組みについても報告があり、ごみ箱の改良などで効果を上げたことが紹介された。
報告者のパネル討議では、「クマはごみや食料に餌付くと人を恐れなくなる。餌付かせないことが重要」「集落周辺に広域的に電気柵を巡らすとクマやシカの侵入に防御効果がある」「クマが生息する中山間地でも、きちんと対策を取っていればクマは現れない」などの意見が出た。【武田博仁】
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