ピアノ曲集「読み直し」術 アンデルシェフスキさんのブラームス
バッハ、ベートーベンとともに「ドイツ3大B」に数えられる作曲家ブラームスは、63年という生涯の晩年にさしかかった頃、ピアノのための小品集を四つ残した。
七つの幻想曲(作品116)。
三つの間奏曲(作品117)。
六つの小品(作品118)。
四つの小品(作品119)。
ポーランドのピアニスト、ピョートル・アンデルシェフスキさんは、全20曲の中から12曲を選び、並び替え、1枚のアルバムに収めた。
全集ではなく選集。そこに隠された意図に迫った。
「遺書」の始まりは不協和音に満ちて
はじめに作品119の第1曲(作品119の1)を弾き、最後は作品118の6で終わる――。
アンデルシェフスキさんが2026年1月にリリースしたアルバム「ブラームス:後期ピアノ作品集」(ワーナー)のプランは、ここからスタートした。
言い換えれば、これ以外に明確なプランは持っていなかった。
冒頭を飾る作品119の1がどのような曲か、まずは簡単に紹介したい。
バッハの「ミサ曲」やシューベルトの「未完成」と同じロ短調というほの暗い調性で書かれ、遅めのテンポ(アダージョ)で曲は進む。
ブラームスはこの曲について、作曲家でピアニストのクララ・シューマンに宛てた手紙で「不協和音に満ちています!」と書いている。
不協和音の一例を示すと、1小節目に鳴り響くのは「ミ・ソ・シ・レ・ファ♯」と、3度音程を積み重ねた厚みのある和音。よく聴くと、現代のジャズやポピュラー音楽にも通じるような先鋭的な響きがする。
「この曲は私をブラームスの世界へといざなってくれると感じます。晩年の作品がブラームスの遺書だとすれば、これはその1ページ目です」
三位一体で生まれた新たな情景
アルバムを聴いていて、はっとさせられた部分があった。
4曲目を聴き終えた後、5曲目の途中でその瞬間は訪れた。
4曲目の作品118の2は「アンダンテ(歩くくらいの速さで)、愛情を込めて」という指示が添えられたイ長調の美しい旋律を持つ。
小説家・平野啓一郎さんが15~16年、毎日新聞に連載した小説「マチネの終わりに」で、主人公の男女の出会いのきっかけとなった曲(ただし小説ではギター編曲版)として記憶している人もいるかもしれない。
これに続いて、アンデルシェフスキさんはイ短調の作品116の2を弾く。
作品番号の異なる曲集からの2曲だが、並べて聴くとそこには明ら…
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