働く人の命と健康を守ることが労働基準監督署の役割だ。長時間労働を促すような対応を求めるのは筋違いである。
自民党が労基署の運用見直しを政府に提言した。時間外労働の削減を一律に指導する姿勢を改めるよう求めた。残業をさせる場合に必要な「36協定」や「特別条項」の締結をサポートすることも要請している。
背景には、中小企業に働き手が集まりにくい事情がある。仕事が回らないと窮状を訴える声が業界側から上がっていた。
だが、提言は働き方改革の形骸化につながりかねない。
労働基準法は、1日8時間、週40時間を超えて労働者を働かせてはならないと定めるが、36協定を締結すれば残業が可能になる。働き方改革の結果、時間外労働に月45時間、年360時間の上限が設けられた。この枠内に収まるよう労基署は企業に指導してきた。
協定を結ばずに時間外労働をさせているのであれば、適正化の指導は必要だ。だが、未締結の企業に幅広く労基署からアプローチして支援することは、規制官庁の役割ではあるまい。監視機能が低下しかねない。
特別条項は、時間外労働を月100時間未満とし、年720時間まで容認する。予算、決算業務や機械のトラブルへの対応などを想定したもので、あくまで例外的な位置づけだ。それ以上働くとリスクが高くなる「過労死ライン」が上限となっており、緩いとの批判もある。
提言は、厚生労働省の調査で「労働時間を増やしたい」と回答した労働者が1割いたことを見直しの根拠に挙げている。ただ、このうち半数は週35時間以下しか働いていない人だ。働き手が残業を希望することの証左にはならない。
労働時間の上限規制は、長時間労働が健康を損なうため2019年から順次施行された。過労死遺族の悲痛な思いを受けたものでもある。脳・心臓疾患で亡くなった人の労災認定件数は以前よりは減っているものの、24年度は67件で2年連続で増加した。
人手不足を長時間労働で埋め合わせてはならない。企業の生産性向上のような抜本策こそ、政府・与党が取り組むべき課題だ。