大型連休はもちろん、週末にちょっと出かけたい九州・山口の博物館や美術館、文化施設を紹介します。
「天は人の上に人を造らず」の原点
著書「学問のすゝめ」などで知られる教育者で思想家の福沢諭吉(1835~1901年)は、2024年7月まで1万円札の「顔」として親しまれてきた。中津藩の城下町として江戸時代から発展し続けた大分県中津市の市街地の一角にある「福沢諭吉旧居」と隣接する「福沢記念館」は、「独立自尊」といった福沢の思想を育んだ背景を今に伝える。
国指定史跡の旧居は、福沢が幼少期から長崎に遊学する青年期までを過ごした。木造かやぶき屋根の平屋からは下級藩士の慎ましい暮らしが垣間見える。学問のすゝめの原型となる「中津留別(りゅうべつ)之書」はここで執筆された。
福沢は土蔵(保存のため内部非公開)の2階を改造して書斎とし、昼夜を問わず学問に没頭した。この空間が「天は人の上に人を造らず」という平等思想を育んだ原点とされる。
記念館では、年表で生涯をたどる展示のほか思想や著作、人脈をテーマ別に紹介。学問のすゝめの初編や直筆の書簡なども並ぶ。
西洋文化の紹介にも尽力した福沢の姿を伝える展示が、1860(万延元)年に刊行した福沢最初の出版物「増訂華英通語」だ。福沢が米国で購入した英語と中国語の対訳語集に、福沢がカタカナで日本語読みを加えた。
この中で、福沢は「Curry」(カレー)を「コルリ」と表記。日本語の文献にカレーが登場した最古級の例とされ、中津市では、カレーと福沢にちなんだイベントも開かれている。
明治中期に福沢は、耶馬渓の景勝地・競秀峰が開発で失われることを憂え、私財で周辺の土地を買い取り保全した。ナショナルトラスト運動の先駆けとされ、施設ではこの取り組みも紹介している。
1万円札からの「引退」以降も、年約3万人が両施設に訪れる。福沢旧邸保存会書記の荒木さとみさん(41)は「時代や紙幣の肖像が変わっても、自分の頭で考え、自立する大切さは変わらない。福沢の思想の原点に触れてもらえたら」と話す。【出来祥寿】
福沢諭吉旧居・福沢記念館
大分県中津市留守居町586。JR中津駅より徒歩15分、車で3分。高校生以上400円、中学生以下200円、未就学児は無料。開館時間は午前9時~午後5時、休館日は12月31日。電話(0979・25・0063)。