ソクラテスの友人が神殿で「ソクラテスより賢い者はいない」とのお告げを聞いた。困惑した本人が賢者とされる人を訪ね歩くと彼らは知恵があると思い込んでいるだけだった。「自分は何も知らないが、知らないことを自覚している」と理解した▲謙虚に学ぶ姿勢の大切さを示す「無知の知」だ。アインシュタインも「学べば学ぶほど自分の無知に気づく。気づけば気づくほど学びたくなる」と語った。だが大国のトップは知らなくても平然としているらしい▲高関税で世界経済を混乱させたトランプ米大統領は政権1期目に幹部から米国の金利が上がる見通しだと聞き、「早速(政府が)莫大(ばくだい)な金額を借り、もうけを出す」と言い放った。もうけどころか巨額の財政赤字を増やすだけだ。幹部は「(経済の)基本すら理解していないことにあぜんとした」(ボブ・ウッドワード著「FEAR 恐怖の男」)▲イランの核施設を昨年攻撃した際は「広島、長崎と本質的に同じ。戦争を終結させた」と主張し原爆投下を正当化した。被爆地で「核の被害に無知」との批判が出たのは当然だ▲トランプ氏が好むSNSは利用者が気に入った情報だけを選びがちで知識不足による暴言も目立つ。民主主義に必要なのは異なる意見の人たちが語り合い理解を深める場と唱えたのは先月死去した哲学者ハーバーマス氏だ▲俗説ではあるが、きょうはソクラテスが毒杯をあおって亡くなった日とされ、「哲学の日」と呼ばれる。知ることと語り合うことの意義を考えたい。