ブックデザイナーでも読むのは苦手 祖父江慎さんが打ち明けた日
新しい発想で本の装丁やデザインに取り組み続けたブックデザイナー、祖父江慎(そぶえ・しん)さんが3月15日、亡くなりました。66歳でした。
型にはまらない発想の根底には、幼少期から持つ「本が読めない」感覚があったといいます。
「鍵っ子」だった子供時代の思い出から、研究者顔負けの夏目漱石コレクターとしての一面に至るまで、日本の出版文化と共に歩んだその人生を、毎日新聞朝刊「私の記念碑」(2024年1月)の記事を再掲し、全3回で振り返ります。
前中後編の前編です
中編:乱丁をブックデザイン
後編:息づかいのある本目指す
カラフルな景色の書庫
世に送り出す数々の本が人々をあっと言わせてきたブックデザイナー、祖父江慎さん。1990年代に一世を風靡(ふうび)した吉田戦車さんの不条理マンガ「伝染(うつ)るんです。」での、乱丁・落丁をとり込んだ装丁を記憶する人もいるだろう。
他にも、一文字ずつフォントを変えた本や、抱えるほど大きい本、付属のルーペがなくては読めないほどの本など、一癖も二癖もある本をデザインしてきた。その型に縛られない発想はどのように生まれるのか、話を聞きに東京・中目黒の事務所を訪ねた。
「ソビーです、よろしくね」とにこやかに出迎えてくれた祖父江さんについて中に入ると、ほの暗い廊下の両側には天井までしつらえた棚に本がぎっしりと詰まっていた。さらに進むとぱっと空間が開けた。白いテーブルの置かれた打ち合わせスペース、その奥にはこれまでにデザインした本を収めている小ぶりな書庫があった。
そこには、30年以上にわたって表紙のレイアウトや装丁だけでなく、書体の考案から本文組み、造本に至るまで、ブックデザインという営みによって出版文化を支えてきた第一人者の2000冊を超える仕事が詰まっていた。
温かみのある絵本、シャープな図録、ぽってりしたマンガ、重厚な評論集――ジャンルは広範囲にわたり、カラフルで鮮やかな景色が広がっていた。
積ん読も「読む」のうち
フォトグラファーとの撮影を楽しそうに終えると、祖父江さんは席に着きシュポッとたばこに火をつけた。
「本が読めない子だったんですよ。今もあ…
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