くすぐったさを本に 乱丁をブックデザインする祖父江慎さん
新しい発想で本の装丁やデザインに取り組み続けたブックデザイナー、祖父江慎(そぶえ・しん)さんが3月15日、亡くなりました。66歳でした。
型にはまらない発想の根底には、何があったのでしょうか。
日本の出版文化と共に歩んだその人生を、毎日新聞朝刊「私の記念碑」(2024年1月)の記事を再掲し、上中下の3回で振り返ります。
前中後編の中編です
前編:ブックデザイナーでも読むのは苦手
後編:息づかいのある本目指す
「大学行ってどうするの?」
多摩美術大グラフィックデザイン科に通いはじめて2年目が終わろうとしていた春、祖父江慎さんは「工作舎」でアルバイトを始める。
そこは雑誌「遊」をはじめ、挑戦的な本を次々と世に放っていた伝説的編集者、松岡正剛さんが1971年に設立した出版社。本を買うたびに送っていた愛読者カードが目にとまり、手伝いに来るよう電話があったからだ。
まず版下を作るための写植を担当した。会社に泊まり込む日々。春休みが終わっても大学に戻りたいと言い出せる雰囲気ではなかった。勇気を振り絞って松岡さんに打ち明けた。
「すると『大学行ってどうするの?』って言うわけ。困っちゃうよね、言葉のプロにそんなことを言われたら。絶対負けるじゃん」
慌てて上京してきた両親を説得し、大学を中退。22歳で入社した工作舎ではブックデザインのいろはを学んだ。6年後に独立し、自身のデザイン事務所「コズフィッシュ」を設立した。
乱丁へのワクワク感でヒット
90年、小学館が刊行した吉田戦車さんの4コママンガ『伝染(うつ)るんです。』をめぐる仕事で一躍、その名が知られる。
祖父江さん31歳。ページは傾き、同じ見開きが続く。真っ白のページが現れる。乱丁・落丁を意図的に取り入れたデザインは大きな話題を呼んだ。
「吉田さんのマンガって不条理という言葉で表されるけど、なにかうまく…
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