(光文社文庫 616円)
この本は、もう何年も前に仲の良い友人からもらった。ある日何気なく手渡された。きみには眠れない夜があるのかな、と思った覚えがある。それを彼女に聞くわけでもなく、彼女自身も特になにも言わず、この本を受け取った。
睡眠に関してはあふれんばかりの才能を発揮し、いつでもどこでもすんなり眠れた私にとって、「眠れぬ夜」とはあまり興味をひかれない文言だった。ぱらぱら、ふーんと読み飛ばして本棚に戻し、ずっとそこに刺さったまま開くことはなかった。
ところが近年、ついに私にも不眠が訪れた。なんとつらいのか。全世界の眠りたいのに眠れぬ人たちのことを、あの日の友人のことを想って苦しかった。きみの眠れない夜になにもしなかった自分を恥じた。電話でも散歩でもしたらよかった。
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