豪で2年! 「パーフェクトデイズ」超ロングランのワケ
日本が舞台の映画「パーフェクトデイズ」が、オーストラリア・メルボルンの映画館シネマ・ノバで、2年以上ものロングラン上映を続けている。驚くべき上映期間となっている理由について、同館のCEOクリスチャン・コネリーがメールインタビューで明かした。
世界の心つかんだトイレ清掃員
「パーフェクトデイズ」は、ビム・ベンダースが監督、役所広司が主演を務め、公共トイレ清掃員の主人公・平山(役所)の日々を描いた作品。
2023年にカンヌ国際映画祭で役所が男優賞を受賞、アメリカや日本、ドイツなど世界で公開されると、東京を映し出した映像美や平山という男の生活や生き方が多くの人の心をつかみ、第96回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされた。
シネマ・ノバは、メルボルンのカールトンにある独立系映画館。カールトンは、世界遺産のロイヤル・エキシビション・ビルディング(カールトン庭園)やメルボルン大学などがあり、アートや音楽、ファッションに関心が高い人が集まるエリアとして知られている。
そんなカールトンにある同館は、大手シネコンチェーンが大半を占めるメルボルンでは珍しい、完全な独立系映画館だ。日本のミニシアターやアートシネマに近い立ち位置でありながら、16ものスクリーンを備え、それぞれのスクリーンに異なるデザインを施しているこだわりが詰まった映画館で、日々老若男女でにぎわう。
24年3月から上映が続く「パーフェクトデイズ」のほか、常に多様な作品がラインアップされており、近年では「怪物」「国宝」といった日本映画も上映。また「AKIRA」も不定期で長期上映されている。
見たいと望まれる限り上映
CEOのコネリーは、「シネマ・ノバは、オーストラリアの映画館業界において異彩を放つ存在です。私たちはキュレーションを重視したプログラム編成をおこなっており、上映するすべての映画を事前に鑑賞してから上映するかどうかを決定しています。また、観客が見たいと思う限り、できるだけ長く上映するよう努めています」とフランチャイズ作品のラインアップが並ぶシネコンとは一線を画した上映スタイルであることが、同館の強みであると語る。
この独自の方針により、「パーフェクトデイズ」がほかの映画館よりもはるかに長く上映されることになった。
「上映開始から半年以上が経過していたにもかかわらず、24年10月の時点で毎回満席になるという状況でした。このことから、本作が観客の強い共感を呼んでいることがわかり、その需要に応えるために欠かすことなく毎週の上映を継続することに決めました」
「ストリーミング配信などがあるにもかかわらず、観客は依然として映画館で鑑賞することを選んでいるのです。映画館という環境は、映画の静かな場面や美しさを、邪魔されることなく楽しむことができるからです」
満席が続く盛況ぶりだった「パーフェクトデイズ」は、アカデミー賞作品賞を受賞した「ANORA アノーラ」、ホラースリラー「サブスタンス」に次いで、24年に公開されたシネマ・ノバの作品のなかで3番目の興行収入となった(「アノーラ」「サブスタンス」の上映期間は、共に27週間)。
なぜオーストラリアの映画館で日本が舞台の「パーフェクトデイズ」が愛されているのか。コネリーの見解を聞いた。
映画の中の景色が郷愁を誘う
「私はよく旅行をするのですが、日本にはこれまでに3度行ったことがあり、直近では今年(26年)の2月に訪れました。日本の独特な文化と豊かな美しさが大好きで、日本への旅行を楽しんでいます。最初の訪問は10年で、2回目の訪問は19年11月です。日本に行くたびにオーストラリア人の観光客が増えていることに気づきます。旅行中、オーストラリアのアクセントを聞くので、すぐわかります」
「また、SNSで友人が日本旅行をしているのをよく見かけます。これを見て、多くの人が私と同じように帰国後に日本を恋しく思うだろうと考えました。『パーフェクトデイズ』をシネマ・ノバで上映すると、観客が劇場に足を運びます。つまり、この作品には特別なものがあり、とりわけ特にオーストラリア人にとって魅力的であるのだと理解しました」
コネリーが肌で感じたように、オーストラリアには、日本を訪れたことがある、あるいは関心を持つ人は少なくない。近年は旅行先としての人気も高まっている。そうした背景もあり、「パーフェクトデイズ」が描く日本の風景や暮らしが、観客の共感や郷愁を誘っている可能性があるようだ。
新たな観客層を取り込んでいる
「パーフェクトデイズ」の観客層は、非常に多様だという。
「1992年にわずか2スクリーンでオープンしたシネマ・ノバは、30年以上にわたりメルボルンの映画ファンにとっての聖地で、カールトンの文化を担う場所の一つです。多くの若者がここで映画を見ることを好んでいるため、『パーフェクトデイズ』は常に新しい観客に発見され続けています」と新たな観客層を取り込む構造が出来上がっている。
一方、「年配の観客にもアピールしており、私の母は80代で日本に行ったことがないにもかかわらず、この映画の大ファンでした」と支持層は幅広い。
週1、2回の上映は、観客に求められる限り、今後も続く。「私たちは映画に情熱を注いでおり、シネマ・ノバでは、映画鑑賞という伝統を大切にしています。私たちと同じように映画を愛する観客に、いかにして魅力的な映画やイベントを届け続けられるかということばかり考えています」
「また、新しいことに挑戦し、常に可能性を探求することで、伝統を築いていく過程も楽しんでいます。『パーフェクトデイズ』の上映は今後も続けていきたい伝統であり、そのため、今のところ毎週の上映を終了する予定はありませんし、イースター(4月5日)の連休には特別上映も行いました。新しい観客にこの作品の魅力を発見してもらえたらこんなうれしいことはありません。シネマ・ノバで上映3周年を祝えない理由はありません」と映画愛と共に見通しを明かす。
半年、1年、長期上映は当たり前
ちなみに、シネマ・ノバでは、現地のシネコンチェーンなどでは考えられない長期上映を頻繁に行っている。26年4月現在では、「罪人たち」が1年以上、「ワン・バトル・アフター・アナザー」が半年以上、上映されている。
なお、同館で最も長く上映されているのは、03年の米国のカルト映画「ザ・ルーム」。「ザ・ルーム」は、オーストラリアでは「大げさでひどすぎて逆に面白い」という評価を受けており、シネマ・ノバでは10年から毎月上映され、歴代興行収入ランキングで5位に入っている。
コネリーは「当館の歴代興行収入ランキングに、1位『パラサイト 半地下の家族』、2位『バービー』、3位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、4位『グランド・ブダペスト・ホテル』といった、より権威があり評価の高い作品と『ザ・ルーム』が並んでいることを考えると、いつも面白いと思います」と語った。
ちなみにメルボルン在住の筆者も、公開直後にシネマ・ノバで「パーフェクトデイズ」を鑑賞し、満席のシアターで観客の好反応を肌で感じた。周囲には24年に見た映画のなかで一番好きだという人も。
本作の魅力は、日本ではない土地だからこそ、より鮮明に立ち上がってくるのかもしれない。(梅山富美子)
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