ドローン衝突で狂う廃炉計画
ウクライナ北部のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発4号機爆発事故から26日で40年となる。現場は2016年から巨大な金属製の新シェルターに覆われている。耐久年数は「100年」とされ、その間に事故処理を進める予定だった。しかし、25年2月に無人機が衝突して破損し、重要な機能を喪失。ロシアによる全面侵攻により、その目算は大きく狂い始めている。
「放射線量が高いので滞在は10分間だけ。床に物を落としても自分では拾わないで」
新シェルターに覆われたコンクリート製の「石棺」。周囲の放射線量は爆発事故から40年近くが過ぎた今でも高い=チョルノービリ原発で3月13日
案内役の職員の言葉に緊張が走った。防護服を着て靴に使い捨てのカバーをかぶせ、口元は防じんマスクで覆った。新シェルターの内部に入ると、事故直後に建てられた「石棺」と呼ばれるコンクリート製の旧シェルターがそびえ立っていた。ブロックを重ねたようなその構造物の中には、爆発した4号機が今も眠る。
線量計の数値を確認すると、毎時60マイクロシーベルトだった。東京都の空間線量の1500倍以上だ。外に出て一息つくと、脇には、ドローンの衝突を受けてひしゃげ、黒焦げになったシェルターの一部が保存されていた。
屋根に穴 ロシアの攻撃で
25年2月14日未明、崩落の懸念がある石棺を覆う、新シェルターに、ドローン1機が衝突した。屋根に15平方メートルほどの穴が開き=写真(チョルノービリ原発提供)、火災が発生。火元を特定するために300以上の小さな穴を開け、消し止めるまで3週間を要した。ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが意図的に攻撃したと批判したが、ロシア側は否定した。
寿命からすでに20年
石棺の解体は、新シェルターの修復が終わらなければ作業中に出る放射性物質が外部に拡散する恐れがあるため、25年中に始めることができなくなった。石棺は寿命からすでに20年近くが経過している。解体を延期すれば、今度は崩壊のリスクがある。セルヒー・タラカノフ所長は「石棺は今や不安定だ。解体は早ければ早いほど良い。もし放射性物質が放出されればどこに向かうのか。国境は関係ない」と危惧する。 【チョルノービリで岡大介】
原発にも及ぶ「戦争リスク」
ウクライナに全面侵攻したロシアは、ドローンやミサイルでウクライナの発電所や変電所、送電網などのエネルギー施設を集中的に攻撃してきた。これらは軍事目的というよりも、社会を揺さぶる狙いの方が強い。ウクライナ危機はこうした「戦争リスク」が原発にも及ぶことを示した。
ロシアは2022年2月の侵攻直後にウクライナ北部のチョルノービリ原発を、3月には南部にあるザポリージャ原発をそれぞれ占領した。チョルノービリ原発は3月末に解放されたが、ザポリージャ原発は現在も占領が続く。戦闘で送電線が損傷するなどして10回以上、外部電源の遮断を繰り返しており、核燃料の冷却ができず事故に至る事態が懸念されている。
【新シェルター】
チョルノービリ原発事故を受け、ソ連政府は事故現場に残る大量の放射性物質を閉じ込めるため、急ピッチで原子炉建屋を覆う石棺の建設を進め、事故から約7カ月で完成させた。ただ、その寿命は20年ほどとされ、崩落すれば内部の放射性物質が拡散しかねないリスクがあったため、かまぼこ形の新シェルターで石棺ごと覆う計画が持ち上がった。
2010~16年にフランスの合弁会社が建設し、建物の大きさは、高さ108メートル、幅257メートル。古代ローマの円形闘技場遺跡コロッセオが収まる大きさだ。建設費は15億ユーロ(約2750億円)で、日本を含む40カ国超が資金を拠出した国際プロジェクトとなった。25年には新シェルター内部で石棺解体の準備作業が始まる予定だった。
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【チョルノービリ(チェルノブイリ)原発4号機爆発事故】
1986年4月26日未明、ソ連の構成国だったウクライナ北部のチョルノービリ原子力発電所で試験運転中の原子炉が爆発した事故。大量の放射性物質が飛び散り、汚染は北半球の広い範囲に及んだ。2011年の東京電力福島第1原発事故と同じ、過去最悪のレベル7とされる。
4号機で出力が急上昇して爆発した。原発職員や消防士ら約30人が急性放射線症候群などで死亡したと発表されたが、世界保健機関(WHO)は06年に事故の影響によるがんの死者は9000人に上る可能性があると推計した。放射能汚染のため約35万人が移住を余儀なくされたとされる。