その場面をテレビ画面で見た時、嫌悪感がわいた。日本映画「ドライブ・マイ・カー」の賞の行方が注目された3月27日の第94回アカデミー賞の授賞式。結果、注目は主演男優賞にノミネートされていた米俳優のウィル・スミス氏がステージに駆け上り、プレゼンターのコメディアン、クリス・ロック氏の顔をビンタした場面に集中した。
授賞式に同席した妻で女優のジェイダ・ピンケット・スミス氏の髪形について、主演女性の坊主刈りが話題になった映画「G.I.ジェーン」にひっかけ、からかったことに憤激したようだ。ピンケット氏の髪形は免疫疾患からくる脱毛によるもの。自分の力ではいかんともし難いことをからかうのは許されないし、差別につながる。
だからといって暴力もダメだ。世界をあげてロシアによる究極の暴力、戦争を糾弾している時に、物理的な力にうったえるしかないと考える人が厳然といることを見せつけられ、嫌な感じを抱いた。
「有害な男らしさ」
さらに嫌な感じだったのは、からかわれた本人ではなく夫が乗り出したこと。「俺の女に何をする」みたいに。この点について、国際政治学者の三浦瑠麗氏がテレビの情報番組で「有害な男性性と訳される“Toxic masculinity”という考え方がある」「妻が抵抗できない『か弱い存在』であることを前提にして、俺の持ち物にケチ付けて、傷つけたな!っていうのは世の中の暴力の基礎にある考え方」とコメントしていた。
映画の世界は、伝統的な男らしさに執着して自他を傷つける「有害な男らしさ」に満ちていた。ビンタ事件と同じころ、衛星放送が米映画「インデペンデンス・デイ」(1996年)をやっていた。地球制覇をもくろむ宇宙船に、スミス氏演じる戦闘機パイロットと、天才男性エンジニアが突撃しやっつける。
無事帰還すると、パイロットの妻とエンジニアの元妻が駆け寄って抱きつく。「地球を救うのは男」「女は支える…
この記事は有料記事です。
残り759文字(全文1557文字)







