ベストセラーを歩く フォロー

多和田葉子「地球にちりばめられて」自由を求める旅

重里徹也・文芸評論家、聖徳大特任教授
イタリア在住の作家、ヘレナ・ヤネチェクさんとの対談で話す作家の多和田葉子さん=東京都千代田区で2019年11月3日午後2時57分、吉田航太撮影
イタリア在住の作家、ヘレナ・ヤネチェクさんとの対談で話す作家の多和田葉子さん=東京都千代田区で2019年11月3日午後2時57分、吉田航太撮影

 この連載「ベストセラーを歩く」は今回が最終回。2015年7月から7年間、読んでいただいた方々に感謝したい。

 最後に何を取り上げるか迷ったが、多和田葉子の長編小説「地球にちりばめられて」(講談社)にした。世界文学の最前線で書き続けている日本人の女性作家を取り上げたいと以前から思っていた。最後はこの人でいこう。

 もちろん、取り上げる理由はそれだけではない。抜群に面白い小説で、しかも、生きることに対して前向きなのも、最終回にふさわしいのではないか。とにかく、読者を励まし、勇気づける作品なのだ。

立川高校から早稲田大学へ

 多和田葉子は1960年、東京都生まれ。都立立川高校から早稲田大学文学部ロシア文学科卒。ドイツのハンブルク大学大学院の修士課程、スイスのチューリヒ大学の博士課程を修了。82年からドイツを拠点に生活していて、日本語とドイツ語で作品を執筆している。

 91年に文壇デビュー。93年に「犬婿入り」で芥川賞受賞。以後、数々の文学賞を受賞し、内外で高い評価を受けている。近年は村上春樹らとともにノーベル文学賞の候補と目され、現代日本を代表する小説家といっていいだろう。

 「地球にちりばめられて」はそんな多和田の特性がわかりやすく楽しめる一冊だ。何人かの登場人物がそれぞれ個性的だ。そして彼らが織りなす人間模様が興味深い。ちょっと紹介してみよう。

個性的な登場人物

 まず、Hiruko。中国大陸とポリネシアの間に浮かぶ列島(国名は一切出てこないが、日本のことだろう)出身だが、スウェーデンに留学中に自分の国が消えてしまって、戻る場所を失ってしまった。彼女はデンマーク語やスウェーデン語、ノルウェー語を混ぜた言語、パンスカ(汎<はん>スカンジナビアの略)を自分で作り、この少し奇妙な言葉で人々とコミュニケーションをとる。

 この新しい言葉が楽しい。体言止めが多くて、異物感があって、ぶっきらぼうなのだが、ときどききらめいて、言葉遊びやインスピレーションを誘う。自然とユーモアが醸し出される。

 彼女が自分と同じ母語(日本語)を話す人を探す旅が続く。その中で、多様な人々が彼女と親しくなり、一緒に旅…

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文芸評論家、聖徳大特任教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年聖徳大教授。23年4月から特任教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。