この連載「ベストセラーを歩く」は今回が最終回。2015年7月から7年間、読んでいただいた方々に感謝したい。
最後に何を取り上げるか迷ったが、多和田葉子の長編小説「地球にちりばめられて」(講談社)にした。世界文学の最前線で書き続けている日本人の女性作家を取り上げたいと以前から思っていた。最後はこの人でいこう。
もちろん、取り上げる理由はそれだけではない。抜群に面白い小説で、しかも、生きることに対して前向きなのも、最終回にふさわしいのではないか。とにかく、読者を励まし、勇気づける作品なのだ。
立川高校から早稲田大学へ
多和田葉子は1960年、東京都生まれ。都立立川高校から早稲田大学文学部ロシア文学科卒。ドイツのハンブルク大学大学院の修士課程、スイスのチューリヒ大学の博士課程を修了。82年からドイツを拠点に生活していて、日本語とドイツ語で作品を執筆している。
91年に文壇デビュー。93年に「犬婿入り」で芥川賞受賞。以後、数々の文学賞を受賞し、内外で高い評価を受けている。近年は村上春樹らとともにノーベル文学賞の候補と目され、現代日本を代表する小説家といっていいだろう。
「地球にちりばめられて」はそんな多和田の特性がわかりやすく楽しめる一冊だ。何人かの登場人物がそれぞれ個性的だ。そして彼らが織りなす人間模様が興味深い。ちょっと紹介してみよう。
個性的な登場人物
まず、Hiruko。中国大陸とポリネシアの間に浮かぶ列島(国名は一切出てこないが、日本のことだろう)出身だが、スウェーデンに留学中に自分の国が消えてしまって、戻る場所を失ってしまった。彼女はデンマーク語やスウェーデン語、ノルウェー語を混ぜた言語、パンスカ(汎<はん>スカンジナビアの略)を自分で作り、この少し奇妙な言葉で人々とコミュニケーションをとる。
この新しい言葉が楽しい。体言止めが多くて、異物感があって、ぶっきらぼうなのだが、ときどききらめいて、言葉遊びやインスピレーションを誘う。自然とユーモアが醸し出される。
彼女が自分と同じ母語(日本語)を話す人を探す旅が続く。その中で、多様な人々が彼女と親しくなり、一緒に旅…
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