「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)が快進撃だ。首相退任後の2020年10月から21年10月まで計18回36時間にわたるオーラルヒストリー(口述記録)を収録している。聞き手は橋本五郎・読売新聞特別編集委員ら。2月8日に発売し1週間で15万部を発行。書店から一時姿を消し、5刷20万部からさらに重版するという。
退任後わずか2年余。銃撃で亡くなってから1年もたたない。しかも憲政史上最長7年8カ月首相の座にいただけに、肉声に興味がわくテーマは多々あるからだろう。
どう読まれたか。毎日新聞3月6日夕刊は政治学者の御厨貴氏に聞いた。「同じ政治に取り組む仲間の中に敵を見いだして、その敵をどのように自分がコントロールしていったか、という構成になっています。分断の政治ですね」と評する。
安倍氏の“敵”と目される一人、前川喜平元文部科学事務次官。加計学園の獣医学部新設認可について安倍氏は同書で「私の意向ではない」などと関与を全面否定した。前川氏は「自分の都合のいいところだけを切り取っている印象」と反論した(NEWSポストセブン3月6日配信)。
「女性」に着目すると…
私は「女性」に着目して読んだ。15年9月、安全保障関連法成立後の記者会見で安倍氏は「1億総活躍社会」を打ち出した。
支持率低下を見越して局面の転換を図ろうとしたそうだ。「1億総活躍、女性活躍を大きな柱に据えて、人口減少社会でも経済を成長させるぞ、と掲げました」。女性活躍は、「支持率アップ」「経済の好循環」のためだとあっけらかんとしている。
続けて、「女性の就業者数は19年には3000万人近く」「上場企業の女性役員数は12年から20年の間に約4・8倍」などと成果を誇る。実際には3000万人の半分以上は非正規雇用だ。女性役員は比率を見ると1割に満たない。指導的地位に占める女性の割合を20年までに3割に引き上げる政府目標は「20年代の可能な限り早期」に先送りした。回顧録の安倍氏主張はまさに「いいとこ取り」だ。
そして、「どこの組織も、女性を入れた方が成果を上げている。多様な見方ができるようになる」と安倍氏。ならば、政界なかんずく自民党はどうよ、と問いたくなる。
女性議員数は足踏み
三浦まり・上智大教授は近著「さらば、男性政治」(岩波新書)で次のように説く。
05年の郵政解散選挙、09年の政権交代選挙と女性議員は躍進した。しかし、第2次安倍政権を誕生させた12年以降の4回の総選挙で女性議員割合は10%を下回ることのほう…
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