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「安倍回顧録」同じ質問を2度できない総理会見みたい

山田道子・元サンデー毎日編集長
衆院本会議に臨む安倍晋三元首相=国会内で2022年3月25日午後1時19分、竹内幹撮影
衆院本会議に臨む安倍晋三元首相=国会内で2022年3月25日午後1時19分、竹内幹撮影

 「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)が発売されて2カ月半ほどがたった。メディアはこの本をどう取り上げてきたか。

 出版元が出す月刊中央公論3月号は回顧録の聞き手、橋本五郎・読売新聞特別編集委員らが登場し、菅義偉前首相らと鼎談(ていだん)した。当然のごとく、安倍氏応援団の月刊誌「Hanada」や「WiLL」にも橋本氏らが内容を語った。読売新聞社系のテレビ局も取り上げた。

大手紙は「おっかなびっくり」

 そんな中、月刊文芸春秋4月号の「新聞エンマ帖」がモノ申した。見出しは「おっかなびっくり『安倍回顧録』」。大手新聞の冷淡さが不思議でならないと皮肉っている。朝日新聞、毎日新聞、時事通信の記事は「国会で質問相次ぐ」にとどまると指摘。「正面からの論評は一向に現れず、とってつけたようなおっかなびっくりの記事ばかり」と断じた。

 「エンマ帖」が言うように、大手新聞は総じて盛り上がっていない。「冷淡」なのは、取りあげれば結局“宣伝”になるから? 他社にやられたから?とか考えた。安倍政治を批判し続けてきた東京新聞の「こちら特報部」も、見開き特集では扱っていない。

 毎日新聞3月6日夕刊は、政治学者の御厨貴氏に論評してもらう特集記事を掲載した。御厨氏は「回顧録は大いなる歴史の証言。安倍さんが私たちに残したプレゼントです」とまとめた。学者に回顧録の印象を語ってもらう体裁だった。

 当の文芸春秋はどうか。5月号で「『安倍晋三回顧録』に反論する」とぶちあげた。ただし筆者は、元大蔵事務次官の斎藤次郎氏。「国が滅びても財務規律が保たれてさえいれば財務省は満足」と辛辣(しんらつ)だった安倍氏。斎藤氏は「荒唐無稽(むけい)な陰謀論」と否定。財政規律の必要性、財務省の論理を連綿と説く。

 正面からの論評というより、安倍元首相と財務省の「バトル番外編」のようだ。

 一方、同じ号には、安倍氏に食い込んだ元NHK記者、岩田明子氏の連載「安倍晋三秘録」も。「安倍は、建設的な議論をする財務官僚を心から歓迎していた」と振り返っている。斎藤氏と岩田氏の対談をしたら論評が深まるのでは、と突っ込みたくなった。

聞き手に苦言を呈した「…

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元サンデー毎日編集長

1961年東京都生まれ。85年毎日新聞社入社。社会部、政治部、川崎支局長などを経て、2008年に総合週刊誌では日本で最も歴史のあるサンデー毎日の編集長に就任。総合週刊誌では初の女性編集長を3年半務めた。その後、夕刊編集部長、世論調査室長、紙面審査委員。19年9月退社。