A男さん(50)は従業員300人ほどの専門商社の人事部長をしています。ここ数年、入社3~10年目くらいの若手社員の「静かな退職」が年に数件発生し、A男さんはどうしたものかと頭を悩ませています。
同社は業界の老舗で、コンプライアンス(法令順守)重視の経営を行っています。働き方改革が実施される前から、社内で労働時間の管理を徹底してきました。ノー残業デーを設定し、残業は承認制とするなど、長時間労働削減の積極的な取り組みを行ってきました。
会社の業績は安定しており、給与水準は低くありません。昇進昇格の仕組みも明確です。他社と比べて、労働条件が劣るとは考えにくいと、A男さんは思っています。
「静かな退職」に慌てる会社
A男さんの会社の採用は新卒採用が中心です。定年まで勤務する社員が大半ですが、これまでも転職希望の退職者は何人かいました。
会社が嫌になって転職する社員の場合、「有給取得が増える」「仕事に積極性がみられない」など、明らかに仕事に対するモチベーションが落ちている様子がうかがえます。気配を察した上司から人事部に報告や相談があるのが通例でした。
ところが、近年増えている若手社員の「静かな退職」は、事前に有給取得が増えるわけでもなく、勤務態度も全く変化がありません。人事部としては「次はどんなチャンスを与えようか」「昇進昇格をどうするか」など、次の配置を考え始めた段階で、静かに退職の申し出があります。
会社側は慌てますが、退職を申し出た本人は淡々と正確に引き継ぎを進めていきます。そうした様子を見ると、必ずしも「会社もしくは仕事が嫌になった」ということでもなさそうです。A男さんは、せっかく育てた若手社員が退職していくのが残念でなりません。
「先が見えてつまらない」
ある時、入社時にA男さんの部署にいたB輔さん(28)が「静かな退職」の申し出をしてきました。A男さんはB輔さんを昼食に誘い、話を聞くことにしました。
B輔さんは…
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特定社会保険労務士
大阪市出身。2023年、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。法学博士(大阪大学2026年)。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書(共著)に『労働事件予防の実務』(第一法規)など。http://www.sr-iyori.com/







