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途上国が狙い?「原発3倍宣言」が世銀に融資を迫る理由

川口雅浩・経済プレミア編集部
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に合わせ、「原発3倍宣言」を主導した米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)=アラブ首長国連邦(UAE)で2023年12月10日、AP
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に合わせ、「原発3倍宣言」を主導した米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)=アラブ首長国連邦(UAE)で2023年12月10日、AP

2050年「原発3倍宣言」の波紋(下)

 日米英仏など22カ国が世界の原発の設備容量(発電能力)を2050年までに3倍に増やすと12月2日に宣言し、波紋を広げている。なぜ今「原発3倍」なのか。この目標は気候変動対策に役立つのだろうか。

 宣言はアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に合わせ、原発大国で核保有国の米、英などが主導した。そこには原発の新設が思うように進まない大国の焦りがあるようだ。

 宣言は「新たな原発は狭い場所にも建設でき、再生可能エネルギーと共存しながら柔軟に脱炭素を実現できる」「小型モジュール炉や革新軽水炉などの開発と建設を促進する」など、米国が進める次世代原子炉の開発を狙っている。

 ところが、同宣言について報じた米紙ニューヨーク・タイムズは「米アイダホ州で革新炉と期待され、開発が進んでいた米国初の小型原子炉の計画が11月に中止となった。米国の利上げとインフレで建設費が上がったからだ」と、原発の新設が進まない現実を伝えている。

 これは日本企業も出資する米ニュースケール・パワー社の「SMR」(スモール・モジュール・リアクター)と呼ばれる革新炉で、出力7.7万キロワットの小型原子炉を6基(合計46.2万キロワット)建設する計画だった。建設費は当初の53億ドル(約7680億円)から93億ドル(約1兆3480億円)に膨らんだという。

 同紙は「原発はクリーンで安全なうえ、不安定な再エネを補完するというが、問題は建設費の確保だ。建設費の高騰とともに世界で投資額が低下している」と、課題を指摘している。

「世界銀行は原発に融資を」

 米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)は宣言に当たり、「今回の宣言は世界銀行や地域の開発銀行が原発を融資対象に含めるよう促すものだ」とアピールした。これは世界的にコスト低下が進む再エネとの価格競争で建設が進まない原発への危機感の表れともいえる。

 ケリー氏が世銀を名指ししたのには理由がある。世銀は途上国の原発建設を融資の対象としていないからだ。「原発をめぐる国家間協力は非常に政治的な問題で、今後も議論が続く難しい問題」というのが理由のようだ。

 米下院関係者によると、「世銀が原発関連のプロジェクトを最後に認めたのは60年以上も昔で、他の国際的な開発銀行も原発への支援を慎んでいる」という。

 この世銀の方針に対し…

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経済プレミア編集部

1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。